第27話 女性襲撃者①
理市の胸は、なぜか無傷だった。クラゲもどきを摘出されたはずなのに、素肌はツルンとしている。強制徴収を受けた穴はおろか、引っ掻き傷すら見当たらない。
美少女の右手は確かに、理市の体内に侵入して、乱暴にまさぐった。コットン製のシャツに大穴を開けて、胸を突き破ったはずである。それを無傷でやってのけたヒカルは、やはり異能の持ち主なのだろう。
理市は全身の力が抜けて、ペタンと尻餅をついた。まるで身体の一部、それも重要な臓器を失ったような気分だった。突然、ひどい悪寒に襲われた。ガチガチと歯が鳴った。死にたくなるような不快感である。
そんな理市に見向きもせず、ヒカルは満面の笑顔で、クラゲもどきを高く掲げた。舌なめずりをしたので、まさかと思ったが、案の定、ひょいとクラゲもどきを口の中に放り込んでしまった。
ヒカルはクチャクチャと
なら、そこにつけ込むべきだろう。理市は目ざとく、そう判断した。
「ヒカル、さっきから俺の身体が変なんだ。ひどく寒くて、吐き気だってある。身体のあちこちが、めちゃくちゃ痛い」
「そりゃそうでしょうよ。血と肉を響かせていた、もう一つの心臓みたいなものを奪い取っちゃったんだもの。身体がおかしくなって当然よ」
「ああ、そうなんだ。ということは、俺はこのまま死ぬのか」
「ああん、聞いてなかったの? さっき、そう言わなかったっけ?」呆れ声が返ってきた。
「……いや」理市は少しでも同情を引こうと、努めて情けない声を絞り出す。「ヒカル、頼む。もう一度、助けてもらえないか? 三年前みたいに」
「はははっ、それは無理。できない相談だよ。一度は失った命だし、そもそも理市の自業自得なんだから、あきらめてちょうだいね」ヒカルは笑顔のまま、冷ややかに言い放った。
「……死ぬのか? 俺は死ぬのかよ?」
「あら、意外だね。死にたくないの?」
「当たり前だろ。死にたくねぇ。江美と美結の敵を討つまでは絶対に死ねないんだ。……頼む。もう一度だけ助けてくれ」
「えー、気が進まないな。三年前、せっかく助けてあげたのに、あっさり裏切られるなんてさ。こういうのを何て言うんだっけ? 骨折り損? 時間の無駄?」
「いや、絶対に無駄にはしない。今度は間違いなく、奴らに勝つ。ヒカルの敵だって何だって粉砕してみせる。俺は絶対に、ヒカルの役に立つ」
「はは、理市の『絶対』って、ホント軽いよねぇ」
「頼む、情けをかけてくれ」理市は土下座をした。「世界一の美人からかけてもらう情けだ。絶対に期待を裏切らねぇ」
「美人? 世界一の?」
「ああ、ヒカルは三年前より、キレイになった。この世界一の美人は誰だって、マジ思ったぐらいだから」
口から出任せではあるが、女性に頼み事をするには、徹底的におだてるに限る。ためらまずに、褒めて褒めて褒めまくる。それは理市がチーマーだった頃の処世術だった。
ヒカルは、「へへーっ」と満面の笑みを浮かべている。世間慣れしていないか、お世辞や嘘に慣れていないのだろう。
まぁ、単純なヤツで助かった、何とか丸め込んで、不死身の身体を取り戻してやる。理市がそう思った瞬間、ヒカルの表情はクルリと変わった。
「なぁんてね」
愛らしかった表情から邪悪さを
その瞬間、クスノキの数百枚の葉が一斉に揺れた。一枚一枚の葉に異形の目が同時に現れて、不気味な瞬きを一斉に繰り返す。その上、強烈な目ヂカラを込めて、理市を睨みつけてきた。どうやら、異形の目の動きはヒカルの想いとリンクしているらしい。
「あのね、理市のことはすっかりお見通しなの。何せ、この三年間、一日24時間、見張っていたんだから、あまり舐めないでもらいたいわね」
ヒカルは凄まじい
「いやいや、出まかせなんかじゃないって」
理市は必死で弁明するが、美少女はそっぽを向いたままだ。すっかり、へそを曲げてしまったらしい。
いや、違う。
ヒカルは透明の皮膜越しに、雑木林の方を睨みつけていたのだ。
異形の鳥,求丸が再び舞い降りてきて、フワリとヒカルの肩にとまる。
「ヒカル、また、あの女だっキュー」
「あの女、嫌い。しつこいんだから」
その時、ヒカルの近くでビシッという音が上がった。窓ガラスに
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