はじめての空想科学迷宮 ~異次元人のおねえさんに見初められたボクは死ぬらしい。「嫌ならダンジョン攻略しなさい」って無茶言わないでよ!
葉花守にしき
第O話 授業参観の帰り道で神隠しにあいました。
「繧?▲縺ィ莨壹∴縺溘?ょァ九a縺セ縺励※?」
粘液を滴らせた触手がボクを抱きしめている。どろどろに溶けた絵具の中にいるような、サイケデリックな空間でボクは絶叫した。まさに悪夢のような光景だが、これは始まりにすぎない。
◇◇◇◇
突然ですが、みなさんは授業参観に親が来てくれると嬉しいですか?……はい、なんだか複雑な気分になりますよね。ボクもそうです。
「すごーい! 全問正解よ琥珀〜!!」
お母さんです。『アイラブ琥珀』と書かれた
「コハ〜! もっとおっきな声で喋りなさい!」
お姉ちゃんです。腕を組んで横を向いてしまいました。小声で何かボソリと呟いたみたいです。
きっと「せっかく可愛い声なんだから」とかその辺でしょう。
「いいぞ琥珀!! さすが俺の息子だ!!!!」
お父さんです。片方の拳を突き上げて教室が揺れるほどの声量でボクを称賛しています。
クラスのみんなは耳を塞いで机に突っ伏しています。先生は苦笑いです。
「も、もう! 恥ずかしいからそういうのはやめてって言ったじゃん!」
ボク、
「すまんすまん、だって自慢の息子だからなあ」
「ええ、琥珀は大事な大事な私たちの宝物ですから」
「わ、私はたまたま学校が臨時休校だったから付き添いで来ただけだし」
クラス全員の前で親バカ全開ムーブはやめてほしいです。ちなみにお姉ちゃんの高校はバリバリ通常授業です。
「え、えーっと……琥珀君はご家族と仲がいいんですね〜」
担任の
「先生、ごめんなさい」
「いいんですよ~。とっても羨ましいです」
「「「いや~、それほどでも」」」
「だからやめてって!!」
その後もこの調子で愉快な授業参観が続いていきました。控えめに言って地獄のような一日です。それは授業が終わっても変わりません。
下駄箱で外靴に履き替え昇降口から外に出てボクは顔をしかめました。
「授業が終わったら、さっさと帰ってよね!」と釘を刺していたにも関わらずお姉ちゃんたちが校門で待ち構えていからです。
「もういいかげんにしてよっ!」
その姿を見つけた瞬間、ボクは駆け出していました。
「あ! 待ちなさい!」
呼び止めるお姉ちゃんの声を無視して、ボクは三人を振り切りました。
そして今、学校近くの河川敷で膝に手をついて「ぜーぜー」乱れた息を整えています。
「こ、ここまで来れば……大丈夫……だよね」
家に帰ったら、全員いるんですけどね。だって家族だし。
『おうちに帰りたくないのかい?』
「……!? 誰!? ですか?」
突然、女の人の声がしてボクは心臓が止まるかと思いました。すぐに周りを見ますが人影らしいものは見当たりません。一体どこから聞こえてくるのでしょうか。
『そんなことはどうでもいいじゃないか。それより、君がおうちに帰りたくないならワタシと一緒に来ないかい? 美味しいお菓子もあるよ』
「お断りします、知らない人にはついて行っちゃだめって言われてるので。そうじゃなくても今どきこの状況でついて行く子どもはいないと思いますよ」
『あらら、フラれちゃったか。しっかりしてるな~、流石ワタシが見込んだ男の子だね。』
見込んだ? まるでずっと見ていたような言い方です。一体、何者なのでしょうか?
『そうだよ~、ワタシは君のことをずっと見てきた。早乙女琥珀くん」
「どうしてボクの名前を……。というか心が読めるんですか!?」
『わお、それも気づいちゃったの? すごいなあ……そう、君のことなら何でも知ってるよ~』
何でも? 本当でしょうか。例えばお姉ちゃんも知らない秘密の――
『「初採りフレッシュ☆ イチゴの誘惑」のことかな? 君が大事にスマホの奥深くに保存している写真集だよね』
「わー! わー!! 大声で何言ってくれてるんですか!?」
『大丈夫だよ~、ワタシの声は君にしか聞こえてないから』
「そうなんですか? 良かった~……いや良くないけど」
ともかく、この人(?)の言うことは本当みたいです。怪しさ満点ですが何だかすごい人みたいです。
『やっとわかってくれたか~。そう、ワタシはすごいんだぞ~。君が家族を煙たがっていることもお見通しだ』
「そ、それは」
否定したくても言葉が出ません。
『「愛してくれているのは分かるし嬉しい。けど、今のボクを溺愛する家族はちょっと苦手。特にお姉ちゃんは事あるごとに絡んできて鬱陶しい。たまにはゆっくりさせてほしい」 そう思っているよね。もっと言えば……いなくなってほしいとさえ』
図星でした。ボクはうつむいて黙り込んでしまいます。
『言っただろ~。君のことなら「何」でも知っている』
謎の声が突然冷たくなった気がしてボクは急に怖くなってきました。その声は脳を撫でるように響いていて全身に鳥肌が立つのを感じました。先週の授業で習った「蛇に睨まれた蛙」という言葉を思い出します。
『へえ、難しい言葉を知ってるね。でも、そんなに怯えなくていいんだよ? ワタシは君を食べようとしているわけじゃないんだから……蛇とは違ってね』
謎の声はクスクス笑っています。ボクはいよいよ身体が動かなくなってしまいました。ちょっぴり、おしっこを漏らしてしまい、パンツの中が気持ち悪いです。
『あらあら、ごめんよ。怖がらせてしまったね。大丈夫、ワタシは君を幸せにしたいだけなんだ。一緒に来てくれれば望みを何でも叶えてあげられるよ。ゲームも漫画も好きなだけあげる』
謎の声は甘ったるい声で優しく話かけてきます。
『だから、ワタシと一緒に行こう』
ボクは……ボクは、頷くことしかできませんでした。
『ふふ、ありがとう』
恍惚とした声とともに川の水面が光り輝き始めます。その光は生き物のようにボクに向かって伸びてきました。
「コハー! どこなのーっ! パパとママも心配してるのよ、早く出てきなさい!」
土手の向こう側からお姉ちゃんの声が聞こえてきて思わず振り返ります。
「あ、お姉ちゃ……」
咄嗟に手を伸ばしますが、ボクはすっかり光の大蛇に抱きしめられていました。巻きついた光の隙間から、土手を登ってきたお姉ちゃんの悲しそうな顔が見えます。
「ねえ、お姉ちゃんが悪かったから返事してよ!!……お願いだからっ」
――琥珀……。
聞こえたのが不思議なくらいボクを呼ぶ声は小さくて、とってもつらそうでした。
――心配かけてごめんね……お姉ちゃん。
目をつぶりたくないのに、さよならしたくないのに……急に抗えない眠気がやってきて、ボクは
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