第152話 ルーサーの殲滅用魔法そのいち

 地下五階では俺とアウダス先輩がメインとなって戦う。

 地上の敵を先輩が薙ぎ払い、飛んでくる蝙蝠を俺が撃ち落とす形だ。

 ではクルーブが何をしているかというと、あちこちを観察し、記憶をする係だ。


 ダンジョンの内部というのは、基本的に地形があまり変わらない。

 一度しっかりマッピングを済ませてしまえば、比較的安全に探索できるのだ。


 この墳墓型のダンジョンは、壁で仕切られていないせいでどこまでがダンジョンなのか分かりにくい。墓のど真ん中にぽっかりと湧いてしまったような状態だが、クルーブは迷うことなく行く先を指示した。

 階段からまっすぐ正面に向かって進めばとりあえず次の階段にたどり着くらしい。

 これはクルーブが探索した成果ではなく、かつてルドックス先生たちが残した資料に従っているだけだそうだ。かなり昔の資料になるから、改めてクルーブの目から見て資料に間違いがないかの確認をしているらしい。


 しばらく進み襲撃が一段落したところで、クルーブが後ろを振り返りながら呟く。


「これ、進路以外のスケルトンも全部倒したら、すっごいしょぼいボスが出てくるんじゃない?」


 振り返ると遠くに俺たちに気づいてないスケルトンが歩き回っているのが見える。

 確かにそれは試してみる価値がありそうだ。


「やってみます?」

「いける?」


 クルーブに頷き、俺は剣をしまい、両手を前へ突き出した。

 杖や剣のような魔法を発動するために使用する媒介は、主にコントロールや出力を上げるために使用するものだ。

 俺の場合これらの道具は、コントロールを上げるためにのみ使用している。

 相変わらず杖がない場合、魔法の制御に関してはやや難があるのだ。だからかなり手加減をした魔法しか使えなくなるし、発動も少しばかり遅くなる。


 逆に言えば、俺が遠慮をしなくていい相手に魔法を使うのであれば、媒介なんてない方がいい。


 体の正面に発生した砂ぼこりはやがて竜巻へと変わり、墓石と俺が加えた瓦礫たちを体の中に飲み込んで大きくなっていく。


「あの魔法名前つけたの?」


 地面をはい回りながら全てを飲み込んでいくそれを見上げながら、クルーブに尋ねられるが、名前を付けるほどの魔法ではない。あれで第六階梯を名乗るのはおこがましい。


「つけてないです。ただ第三階梯の風塵に瓦礫を加えただけの魔法ですから」

「規模がさぁ……、ま、いいか」


 俺の放った風塵プラスアルファは、やがてうろつく骨たちを巻き込み瓦礫とシェイクして引き潰していく。魔法比べをしたときにヒューズが使った風這天焦ふうぼうてんしょうにかなり近い魔法だけれど、あの魔法は炎の制御が必須だ。

 この魔法よりもさらに高度な魔法であることは間違いない。


 俺が得意とするのは、ただでたらめに規模と威力を上げただけの魔法である。

 初めて魔法を習った頃、ルドックス先生が俺は第一階梯を極めるだけで強いと言ってくれた。

 俺の戦うための魔法は派手でなくていい。

 地味でいて効果的であればそれでいいのだ。

 風這天焦ふうぼうてんしょうよりもおそらく圧倒的に制御が楽で、それでいて威力はそう変わらない。

 時折竜巻の中から瓦礫が飛んできて味方にも被害が出るので、使いどころは限られているけれど、この人数だったら飛んできたときは撃ち落とせばいいだけなので問題はなかった。


「無茶苦茶だな」

「何がです?」


 経過を見守っていると、後ろに控えたアウダス先輩がぽつりとつぶやく。


「これだけの魔法を使って平気な顔をしていられるのならば、剣の訓練など必要ないのではないか?」

「何を言ってるんですか。ふいに近付かれたときに戦えないと簡単に殺されてしまうでしょう。魔法使いなら安全な場所から攻撃すれば、一方的に相手を殺せるのは当たり前です」

「お前はいったい何と戦おうとしているんだ……」

「何って……、暗殺者とか……、なんかすごい勇者とか……」

「魔王か何かなのか?」

「まさか、そんな大層なものじゃないですよ」


 じゃなくたって、悪役って討伐されるものなんですよ。

 備えあれば患いなし。

 大切な家族のことを思えば、これくらいは朝飯前でできないと困るというものだ。


「ルーサーってさぁ、昔からこうなんだよね。心配性なのか、妄想がいき過ぎてるのか知らないけどさぁ」

「前から変な奴だと思っていたけど、本当に変な奴だな」

「何ですか二人して。有事に備えるのは貴族として当然のことでしょう」

「僕はやり過ぎだと思うんだけどなぁ……、貴族って意味わかんないよね」

「いや……、貴族にしても普通ではないと思うが……」


 喋りながらも飛んできた瓦礫や骨の欠片を、撃ち落としたり風のシールドではじいたりしてるうちに、後方でうろつくスケルトンたちの数は減っていく。飛んでいく瓦礫もあちこちのスケルトンを勝手に破壊するから、この魔法、実に効率がいい。

 ついでに地面も掘り返されたようにぐしゃぐしゃになっているが、どうせダンジョンは魔物が復活するタイミングでフィールドも元に戻るので特に問題はない。


「ま、無駄無駄、言っても聞かないもん」

「なるほど」


 俺がぐいーんと風塵の進行方向をコントロールしている間に、二人は何やら呆れたように会話をして、正面からやってくるスケルトンと吸血蝙蝠を撃ち落とし始めた。

 まるで聞き分けの悪い奴のように言われるのは心外だ。

 いい年こいて『もん』とか言っている男に言われたくないけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る