第143話 報告会
「まぁ、どうしても話しておきたいことはそのくらいか」
殿下が妙な方向にそれていきそうな話を切り上げる。
バランス感覚がいいよな、殿下は。
「私たちはそれなりにやってますが、ルーサーは信用できる相手とかできたのかしら?」
信用できる相手ねぇ。
とりあえず筋肉集団は俺的にはいい感じなんだよなぁ。
ちょうどいい感じに身分の高くない家の人が多いし、そのお陰で旧貴族派閥とはかかわりが薄そうなのが多い。金銭的な問題で間接的には関係しているかもしれないから、その辺りは要調査か。
「放課後に敷地のはずれの方にある訓練場で、アウダス先輩のお仲間の方々と仲良くしてもらっています。主に騎士団関係の先輩方です。あとは、先ほど名前を挙げた勇者候補のイスですが、彼に関しては心根のまっすぐな良い人物であるように思います」
俺の思い描く、理想的な善性の勇者って感じなんだよな。
熱い思いを心に秘めている割には見た目が爽やかだから、暑苦しさもあまりない。
なんというか、素直だし世話をしてやりたくなるタイプだ。
この世界に来てから、どうにも前よりおせっかいな人間になった気がする。
「ああ、それから、セラーズ家に恩のある家の人たちが連絡を取ってきました。あまり力のない家の人が多いので、そちらとはセラーズ家の立場がもう少し落ち着いてから交流を持とうかなと」
「ふ、ふーん……」
ローズが腕を組んで目を逸らした。
なんだその反応は。
俺にしては割と頑張ってる方だと思うんだけどな。
「あー、あと」
「まだあるのかしら?」
「ええ、まあ。これは微妙なところですが、スルト帝国のメフト先輩と、光臨教のエル先輩とはたまに話をします」
「帝国の皇子と枢機卿の嫡男か……」
「……随分と手が早いこと」
殿下が深く頷きながら彼らの身分を明かすと、ローズが悔しげな表情でよくわからない言葉を投げつけてきた。人をナンパものみたいに言うのは止めろ。
まったく、憎まれ口ばっかり叩いてるとマジでそのうち痛い目見るぞ。
「それで、そちらはどうなんですか」
「難しいですわね。私の派閥、殿下に取り入りたいもの、イレインを通してウォーレン王国を探りたいもの。色々と混ざり過ぎてて選別に難航していますわ。ああ、あとはマリヴェルのことを好きな子たちもいますが、これはわかりやすいので」
ああ、あの子たちか。
他にもいるんだろうけどなぁ。
すっかり見た目はきりっとしちゃってるから、なんて思いながら横に座っているマリヴェルを見ると目が合った。
「えへへ……」
何もわかってないのに笑顔を振りまくんじゃありません。
この子本当に純粋だからちょっと心配なんだよなぁ。
とりあえずぽんと頭だけ撫でてやって話を続ける。
「信じられそうな人はいましたか?」
「……慎重にことを進めてますの」
「そうですか」
「……なんですの?」
「いえ、納得しただけですが?」
キッと俺のことを睨みつけるローズ。
煽ってるわけじゃないよ? マジでそうなんだーくらいの感想しかない。
まだひと月くらいしかたってないんだからしょうがないと思うし。
「次は! ルーサーにも負けない成果を出してみせますわ!」
「無理しないでいいですからね」
いや、まじで。
強硬手段とかとって反感買っても仕方ないしのんびりやって欲しい。
卒業まではまだまだ時間があるのだから、そんなに急ぐ必要はどこにもない。むしろ俺たちが仲良くたくらみごとをしていることがばれないように、めちゃくちゃ慎重にやって欲しい。
「殿下ぁ! ルーサーがいじめますの!」
「え? ああ、程々にな」
どうしてすぐに対抗意識持つかなぁ。
殿下も言われるがままだし。
ま、ローズは昔からこんなだからしゃあないな。このくらい元気でいてくれる方が、心を許してくれてるんだと安心する。
「ローズ、本当に焦らずゆっくりやりましょう」
「うっ……、分かってますわよ……」
こっちが真剣に話せばちゃんと聞いてくれるだけローズは賢い。
なんたって俺たちまだ13歳だからね。大人になってもこのままじゃ……、いや、別に身内だけならこのままでもいいけどさ。
話が落ち着いたところで、イレインが流し目で俺をちらりと見て口を開く。
「ルーサーはクルーブさんがここの先生になることを知っていたんですか?」
「一応家を出る時には。イレインは?」
「私は当日に聞かされました」
知らされた時のことを思い出したのか、イレインの美少女顔が僅かに歪む。
会場ではすました顔をしていたけれど、本当に直前に聞かされたのだろう。
家を出る前にクルーブにめちゃくちゃ丁寧にあいさつをしていたから、余計に微妙な気分になったろうなー。
「ルーサーはあの後クルーブさんとお話ししましたか?」
「ああ、この間の休みに一緒にダンジョンに潜りました」
「え!?」
「だ、大丈夫……?」
ローズとマリヴェルの過剰な反応……というわけではないようで、殿下も顔をしかめている。
「一応、ダンジョン学の教師であるクルーブさんが許可をしたので問題はないはずですが……?」
「そうではない。ダンジョンは危ないところだから心配をしたのだ。見る限り怪我などはないようだが」
……そういえば俺、あまりダンジョンに潜った話とか詳しくこの三人に話してなかったかもしれない。
「僕、これまでも何度もクルーブさんと一緒にダンジョンに潜っていますよ?」
「そうは言ってもたった二人でってこともないだろう?」
「まぁ……、たまにイレインも連れて行きましたけど、基本的には二人です」
お、珍しく殿下とローズが横並びで間抜け面している。
肩に手を置かれたので視線を向けると、マリヴェルが眉尻をさげて俺のことをじっと見ていた。
「貴族がダンジョンに潜るとなれば、せめて護衛をたくさん連れて行くものではないか……?」
「僕はクルーブさんを信用しているので」
餅は餅屋だ。
剣にだけ長けていたり、魔法にだけ長けているものがダンジョンの深層に潜れるわけではない。
ダンジョンに潜るには、知識と、適応した技術が必要なのだ。
人がいれば何とかなる場面もあれば、何ともならない場面もある。
護衛をたくさん連れているよりも、クルーブの目が届く範囲にずっといる方が安全だと、個人的には考えている。
まぁ、咄嗟に出た、クルーブを信用しているというのも本当のことだけど。
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