第52話 遠慮のない関係

 熱い少年漫画みたいながちの訓練を続けること二日。

 ちょっと熱くなりすぎてて、母上と父上にちゃんと休みなさいと言われ、エヴァと戯れること1日。


 そんで父上との剣術稽古中にこっそり魔法を使おうとして使えず、集中するよう諭されたのが昨日。コラッて言って頭叩かれるより効くんだよね、父上のお話。

 まず手が止まって、じっと顔を見られて、こちらの話を聞いてくる。それから同意を示したうえで、今はその時ではないことを説明されて、最終的にいつになったらやるべきかまで真面目に一緒に考えてくれる。

 堪え性のない子供が相手だったら途中で暴れたり拗ねたりするかもしれないけど、なまじ精神が大人なせいで、俺は話をすればするほどどんどん小さくなってしまうばかりだ。

 まぁね! 付け焼刃でやろうとした俺が悪いよね!

 多分クルーブに話したら、あいつにも馬鹿にされて笑われるもん。


 んでもって今日は午前中にサフサール君とイレインと一緒に、戦略のお勉強の日だ。眼鏡マッチョ先生は、今日も高めの声で俺たちに色々なことを教えてくれる。

 戦略のという割に、王国周囲に位置する各勢力の内情なんかを語ってくれるから、これが意外と面白い。たまに突然質問してきて、俺が答えられないとわかってから、ウォーレン家のどちらかに話を振って正答を引き出すのだけは気に食わないけど。

 俺が勉強不足なのが悪いけどさぁ!

 腹の立つことに、これをされるとばっちり頭の中に知識がぶち込まれていくのが自分でもわかる。悔しい。


 途中からサフサール君専用の講義に移行していくと、俺とイレインはちょっと暇になる。そうなると少し離れた場所で横並びに座って、人から顔を見られないように気を付けながら内緒話だ。

 これをあまりたくさんやっていると、各所の使用人から暖かい視線を頂いたり、後ほど応援のメッセージを寄こされたりするのは遺憾の意だ。示せないのがつらいところ。

 でもたまにこうして息抜きもしたくなってしまうので、どっちを取るかって言われると難しい話になってくる。

 特にイレインの方は、俺より自由が利かないから、たまに付き合ってやらないとしんどそうだ。


「サフサール君最近元気そうだよね」

「こっち来てからうるさく言われることないしな」

「お前さ、前にサフサール君のこと出来が悪いっぽいこと言ってたけどさ、結構優秀じゃね? 少なくとも俺の9歳の頃よりよっぽどしっかりしてる」

「……家にいる時はもうちょっとおどおどしてて、返事もおぼつかなかったんだよな」

「どー考えてもおたくの両親が怖くて委縮してただけじゃん」

「今思えばそうだよな。俺もこっち来てからよく喋るようになったけど、兄貴すげぇ俺のこと気にするんだよな。たまに本性隠してるの嫌になるぜ、本当に」


 まー、あれだけ善人で、しかも妹思いのお兄ちゃんに嘘ついてんのってしんどいよな。俺なんかは他人だし自分の好きなようにやってるからまだいいけど、イレインなんて多分元の性格とかけ離れた性格を演技している。


「お前さー、将来設計とか決まったの?」

「決まんねー……、でも真面目に勉強して王城で働いて爵位とかもらえねぇかなって思ってる」

「あー、大臣とかの下にそういう立場の人いるっぽいもんな」

「問題は、現状そこに女がいないってことだ。誰か俺の前に一人くらい前例出てくれねぇかなぁ。騎士の中には女性部隊みたいなのがあるらしいのにな」


 戦う場に女性がいるのに、政治の場にいないってのも変な話だ。貴族の当主に男性ばかりがいるから、自然と男性優位な社会になってしまっているのかもしれない。

 ちなみに王国にも一人女性の貴族当主がいるって聞いた。

 噂によると、兄弟と跡目争いで紛争した末に大勝利を収めた女傑だとか。めちゃくちゃな範囲魔法をぶっ放すやばい奴らしいけど、領土が遠いから接点はあまりなさそうだ。

 そういう怖い人とはあまりお近づきになりたくないね。


 考えてみると、イレインってやろうと思えば跡目争いとか起こせそうなものなんだよな。両親の評価的にはサフサール君よりいいわけだしさ。

 ちょっと前までならともかく、今イレインがそれをやるって言ったら俺は止めるけどね。サフサール君、めっちゃいい奴なんだもんなぁ……。イレインだってそれは感じてるだろうから、口が裂けても言えないんだろうけど。

 将来的にどうだかは知らないけど、今だったらなんとでもなっちゃいそうだし。

 ……一応聞いてみるか。


「お前さ、ウォーレン家乗っ取っちゃえとか、思ったことないの?」


 イレインは眉間に皺を寄せて俺を横目で見てくる。


「んなことしたって、どうせあの親とずっと一緒にいることになるんだろ。それに器じゃねぇよ。俺より兄貴の方がよっぽど色々考えてる。最近はなしててよく分かったよ、兄貴が当主になったら、ウォーレン家はきっといい家になる。親さえ邪魔しなけりゃだけど」

「イレインって結構両親のこと嫌いだよな」

「あいつら無駄に戦好きだし、なんか冷たい感じなんだよな。俺のことだって褒めてくるけど、つかえる駒くらいにしか見てなさそうだぞ。こんなこと言いたかねぇけどな、俺、お前と会った後、母親とかにどうやって男を篭絡するかの勉強させられたんだからな」

「うえぇ」


 ゲロゲロだ。女の人って怖い。

 あー、この年からそういう教育されるんだ。もしかしなくてもローズとかもそうなのかなぁ。

 だとするとますます殿下じゃなくて俺の許婚にした意味がよくわかんねぇけどな。


「こっちだって同じ気分だっての。教えられてる間ずっとそんなこと考えなきゃいけない方の身にもなってみろよ……」


 ……割と地獄だなそれ。


「ま、頑張れよ、その話もう俺にしないでね」


 気分悪いから。


「お前ってそういうとこ結構薄情だよな」


 イレインは不満そうな顔をしていたけど、とりあえず今のところは俺の気分を害さないことの方が大事なのである。

 

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