第37話 子供たちの交流
「イレイン嬢、殿下がご挨拶されてますよ」
俺の後ろに隠れるな。
女の子ならともかく、お前男でしょ。しかも相手は王子様なんだからちゃんと挨拶くらいしろ。
「お久しぶりです、殿下。お誘いいただけて光栄です」
「……カートでいいと言っただろう? 王都に来たと聞いたから、これからはたくさん遊べるな、楽しみだ」
死んだ目で頷くだけなの大丈夫? 無礼に当たったりしないの、それ。
誰も何も言わないあたり、子供同士のやり取りにはそこまで気を払わなくていいのかもしれないけど。
ジャイアンかと思ったけど、ただ無邪気な子供っぽくも見えてきた。ちょっとテレテレ話しているのは、もうしょうがない。イレイン、お前美幼女だから諦めろ。俺にはなんの害もない。
ただなー、お話しする度ゆらゆらしている棒は気になるなぁ。急に叩かれたらやだなぁ。
「なぁなぁ、ルーサー、お前ってあの『賢者』から魔法を教わってるんだろ! いいなー、羨ましい。俺も教わりたいんだけど、父上がもうちょっと大きくなってからなって言うんだ」
「殿下はルドックス先生をご存じなんですか?」
「もちろん! 前に魔法を見せてもらったんだ。戦う魔法のかっこよさもだけど、夜の空に花が浮かぶような魔法が本当にすごい。俺、『賢者』に魔法を教わるって決めてるんだ。そうしたらルーサーもよろしくな! あとカートでいいぞ!」
は? 話めっちゃ分かるじゃん。
俺今から殿下の腰ぎんちゃくになります。イレインは殿下に嫁にしてもらったらいいんじゃないの? 多分めっちゃいい男に成長するよ。
俺が冗談交じりに不穏なことを考えているのが伝わったのか、イレインがじっとりとした湿度の高い視線を俺に向けている。冗談だってば、心読まないでよね。
王子様からこう積極的に近寄られると、臣下という立場であることをよく自覚している俺やイレインは無下にすることができない。
最初の『おまえだれ?』も会ったことない相手全員にやっているらしく、合流してから幾度か聞くことになった。つまりまぁ、イレインと一緒にいる俺をけん制してとか、そういう意図は全くなかったらしい。
5歳児がそんなこと考えてても怖いけど。
ただ、イレイン同様に俺もお気に入りにされてしまったらしく、殿下は俺たちを左右に配置して部屋の中を行進している。後ろにたくさん子供たちを引き連れているのは、俺たちと同じく殿下に巻き込まれた哀れな貴族子女だったようだ。
子供ながらにちゃんと挨拶して回っているのは、もしかしたら結構偉いのかもしれない。
ほら、本来なら殿下がこの場にいるのを察して俺たちの方から挨拶しにいかなきゃいけないわけじゃん。でも子供だと難しいと思うんだよな。
それが王冠かぶってマントはためかせ武器までもってやってきてくれるのだ。子供たちは自然とこいつ偉いんだなーってなって無礼な真似はしづらい。大人の入れ知恵なのかもしれないけれど、自然な態度でそれをこなしているだけえらい。
やがてその場にいる全員に立場をわからせた殿下は、振り返って腰に手を当て踏ん反り返り、「もうついてこなくてもいいぞ!」と宣言して大名行列を解散させた。
ここまで入れ知恵かな?
それじゃあ解散ということで、端っこの方で子供たちの観察でもしておこうかなと思った俺の腕ががっしりと掴まれる。反対側ではイレインも捕まっていて、黄昏た雰囲気を醸し出していた。
にっかりと笑う殿下を、もはやただのジャイアンと思うことはなかったが、それはそれとして楽しそうに一方的に話し続けるだけの5歳児を相手にするのは割と疲れそうだなぁという気持ちはあった。
逆らうことはせずに小さな椅子が並べられた場所へ連れていかれる。
すぐ近くにもう一人、腕を引かれずともついてきた女の子がいたが、それについて殿下は触れない。
誰だこの子。
この部屋はキッズスペースのようになっていて、ちゃんとマットが敷いてあるし、子供が好きそうなおもちゃも各所にちりばめてある。殿下から解散を命じられた子供たちは三々五々に散っていってそれぞれ遊んでいるようだ。
口に積み木を突っ込んだり鼻をほじったりしてるのを見ると、殿下の統率力は大したもんだったんだなと思う。
こいつの言うことは聞くもんなんだなという雰囲気が出せるだけ、王様の才能ありそう。
殿下がペラペラと自分の勉強のことや、今日の式典でどんな準備してたとか、まぁ取り留めなくまとまりなく話し続けるのを、俺とイレインは相槌を打ちながら聞き続ける。
俺はこれでも元々営業していたし、イレインだって客商売してたから、子供を機嫌よく話し続けさせることくらいはお手の物だ。
もう一人の女の子は、大げさに頷いたり声を上げたりするせいで、たまに話が中断されるが殿下は嫌な顔をしたりしない。まぁ、自分が話すのに夢中なだけかもしれないけど。
「ルーサーは去年病気だったんだろ? 元気になって良かったな。会うの楽しみだったんだ」
さっきもそんなこと言ってたな。
まるで元から俺のことを知っていたような言い方だ。
「カート様は私のことをご存じだったのですか?」
「ああ! セラーズ伯爵とウォーレン伯爵は父上の友達なんだ! 同い年だって聞いてて、イレインと会ったときも楽しみだったし、だから今日も楽しみにしてた! よろしくな!」
つたない言葉ながらも本気で楽しみにしてくれたのが伝わってきて、普通にほだされてきてしまった。
いい子じゃん。なぁ、イレイン、いい子じゃない?
微妙な表情で殿下を見つめるイレイン。それどんな気持ち?
「はい、カート様。ぜひ仲良くしてください」
「うん、イレインも!」
「はい、殿下」
殿下の表情がちょっとだけ曇る。
この辺ちゃんと距離感考えてんだろうな。イレインも大変だ。
俺とイレインと順番に握手をすると、横から殿下の空いている手を女の子勝手につかむ。
「私も!」
「ああ、ローズもよろしく」
殿下は俺たちと同じように笑顔で握手をしたけれど、手を離したときにローズがじろっとイレインの方を睨んだのを俺は見逃さなかった。
女の子って怖い……。
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