できれば好きと、言ってみたい
漣眞
プロローグ
もう、かなり走った。足も限界だ。
「あの猫……、追いつけそうで追いつけない……。絶対わざとやってるよね……」
息を切らしながら文句を言う僕を、帽子を咥えたまま早く追いかけて来いと言わんばかりに見つめている。そう、僕はこの帽子を取り返すために身を削っている。
「ああ、もう!」
僕は再び走り出した。猫もまた、明らかに手を抜いたスピードで逃げていく。そのまま山道に入り、少し上がった先の右に抜けていく道に走っていくのが見えた。ここまで来たらとヤケになって、僕もその道に走り込んだところで足を止めた。
「暗っ……」
そこは開けたようになっていたが、ほとんど何も見えなかった。
「あの〜、猫さん……? その帽子ですね〜、妹から貰った大切なものなんですよ〜……。どうにか返しては頂けないですかね〜……」
へたに動くことができず、言葉の通じるはずのない猫に懇願するしかなかった。その時、突然何かに背中を押された。
「うわっ!」
勢いよく前に倒れ込んだが、足元に花がたくさん咲いていたようで怪我はしなかった。
「あの猫……。ん?」
起きあがろうと手をつくとそこに帽子があった。僕は帽子を持って、ゆっくりとその場を離れた。
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