第5話 大賢者、うっかり倒す

 魔王討伐の勇者パーティーに居た私は、通りがかりにこの街から黒龍の群を追い払ったことがある。


 当時の私の魔法、『百本の矢ハンドレッドアロー』で。


 恐らく、あの黒龍たちはその時の報復だったのかもしれない。


(しかし、再び私の目の前で街を襲おうとするとは運のない……)


 大人も子供も自分の銅像に祈祷を捧げる。


「コルネリア様、再びの平穏をくださりありがとうございます」


「こるねりあさま~、ありがとう~ござ~ます!」


「貴方も立派な魔法使いになるのよ」


「はい! 母上!」


 そんな町人たちを見つめながら思う。


(そうか、私の責任もあるかもしれないな……)


 私の魔法を見て、人々は目指した。


 だから競争が激化してしまったのかもしれない。


 魔法が苦手な子を家から追放するほどに。


「お~、そこにいるのは。ラティスじゃねぇか!」


 私がそんなことを考えていると、ニヤニヤと笑みを浮かべた少年たちに話しかけられた。


 男子生徒の3人組で、1人は大した巨漢だ。


 そして、私――ラティスへの罵倒を始めた。


「レオグラッド家、唯一の落ちこぼれ!」


「魔力試験、テメェだけ何の魔法も発動しなくて面白かったぜ!w」


「みんなの笑いものにされてたな!w 教師もこんなの初めてだって!w」


 そうか、このような者たちも居るか。


 私が世間から距離を置いた理由も少しずつ思い出してきたな。


 老人らしく、私は彼らに説教をする。


「なぜ笑う? 人が頑張っている姿を」


「はぁ? 惨めでおもしれーからだろうが!」


「自分がそうだったらどう思う? 周囲に笑われて、心に傷を負うとは思わないのか?」


「分かってるからやってんだよ!」


「ていうか、なんだテメェ? 今日は何か生意気だな?」


「いつもはオドオドと逃げ回ってる癖によぉ」


「やっちまおうぜ!」


 そして、3人は私に殴りかかってきた。


 とはいえ、所詮はただの不良。


 マトモな戦闘の経験があるわけでもない3人の拳は避けやすい。


「くそっ、ちょこまかと!」


「避けんじゃねぇ!」


 避けながら私はため息を吐いた。


(仕方ない、言葉でも分からないなら……ここは私の愛のあるビンタで目を覚まさせてやるか)


 前時代的かもしれないが、人が受ける痛みを分からせてやるのも教育だ。


 あまり強くはたく必要はない。


 重要なのはビンタを通して伝えるメッセージだ。


 巨漢の男子学生の拳を避けると、私は平手を軽く振りかぶった。


「この、バカチンがっ!」


 ――ブベっ!?


 愛のあるビンタを受けた巨漢の学生は数メートル吹き飛んで家の壁に身体を打ちつける。


 それを見た2人は言葉を失った。


「…………」


「……は?」


 ――しまった。


 自分にかけていた『肉体強化の魔法フィジクス』の魔法、解除するの忘れてた……。


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