スティル・イン・ザ・ダーク ~MOD

Tempp @ぷかぷか

第1話 箱の中 side he

 背中の冷たさと強張りで意識を取り戻した。瞬間、思わず呻いた。

 糞。スッゲェ肩が痛ぇ。

 コキコキと首を左右に動かして腕を上げればゴンという鈍い音が響く。そっと触れて20センチほど上で手の甲に感じる、冷やりと固く滑らかな感触。金属のようだ。そういえば目を開けているはずなのに真っ暗。

 それに気づいた瞬間恐慌に陥り、起きあがろうと腹筋に力を入れたところで強かに額を打ちつけ、叫び声をあげた。


 クラクラする頭とは裏腹に、あまりの異常事態に心はだんだん冷静になっていく。

 なんだ、これ。

 そしてうっすら思い出す。そうだ落ち着け。焦るな。

 目を閉じて念じる。これはゲームだ。金と死を賭けたゲーム。

 その証拠に首に触れると見慣れない金属のチョーカーがついている。だから……必要なのは検証だ。ゲームであるからには脱出方法は必ずある。そうでなければ“見てて面白くない”。

 目を皿のように細める。けれども何も見えない。

 そもそも光源がない。震えるような真の闇だ。自分の手足の位置すらわからなくなってきた。宙にでも浮いているようなわけのわからない不安が湧き起こる。パニックの予兆。思わず右手を強く壁に打ち付ければ、痛みが走る。その代わり、少し落ち着いた。


 ……状況分析だ。

 両手を横に広げると、左右両方とも体から少し離れたところで冷たい壁にぶち当たる。隙間は何センチくらいなのか。床にそって親指と小指を広げる。太ももの脇で左右それぞれ両掌を広げたくらいの空間。20センチと少し程度。つまり横幅は90センチ程度。

 次に手のひらを腹の上にもってきて天井までの距離を測る。右手一つ分プラス中指一本文くらいの長さ。35センチほど? いや、腹の高さなんてわからないから意味がない。右壁面に右掌を這わせる。尺取虫のように計測した高さはおそらく60センチほど。

 到達した低い天井にそのまま掌を滑らせれば、天井は床面と並行に伸びてそれぞれ左右上方で垂直に壁と接続されていた。そのまま再び壁に沿って手を下げると、側面の壁は同じく垂直に床面と接続されていた。

 ひゅっと血の気が失せる。四角い、箱? ロッカーのような大きさ、に閉じ込められた? 何故だ? 何がどうなってる?


 チリリリリ


 突然暗闇に音が響く。

 慌てて体を探る。どこだ。右の尻ポケットに硬い感触があることに気づく。俺のiphone? 切れるなと願いながら、背中を浮かせようとしたが、体がうまく動かない。腰を上げて隙間を作ろうと思っても、天井が低すぎて膝が曲がらないから腰が浮かない。手が、うまく背側に入らない。

 なんとか横向きになって右手を背中に回して尻を探る。箱の高さは肩幅ギリギリだ。肩関節が外れそうに痛む。

「よし」

 思わず小さな声が漏れた。

 届いた。手探りで着信を押したつもりが切れた。タッチパネルのせいだ。

 何かがおかしい。頭がくらくらする。

 そう思って、息切れが収まらないことに気がつく。そうすると余計に息が苦しくなる。真っ暗な眼の前に吐いた息が壁に反射し、生ぬるく顔にかかる。その狭さが意識に届き、閉じ込められているという恐怖が迫る。肩が嵌まってうまく動けない、落ち着け。焦っても何も良いことはない。

 空気が。たりない、気がする。

 意識的に呼吸を浅くする。フゥ、ハァ。ここでパニックはまずい。


 1分ほど息を整えて、スマホを掴んだ手を壁にそって真っすぐ伸ばし、そのまま再び腹が上に向くように転がる。なんとか上を向けた。強ばる右手に握ったスマホを顔の前まで持ってくれば、急なライトが目に刺さる。俺のスマホだ。けれども電池は10%。電波は……なし?

 目を滑らせるとBlueToothが起動していた。アラートに見慣れないアプリの表示。知らないアプリ。無線?

 他に手がかりがない。唯一つ登録されている番号にコールした。

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