拾肆話 アガキ
——88%。
何とか控室から出て、ふらつきながらも壁にもたれかかりながら歩く。
「はぁ、はあ……」
回復アイテムを使い切っても尚、ダメージは残っていた。死に体から致命傷になった感じだった。
「マシだと思おう…それより…あの、男は……何で…」
控室の鍵を置いていったんだ?
——90%。
「これじゃあ…すぐに、出れてしまうじゃないか。」
さっきからずっと、グラウンドから凄まじい剣戟が聞こえる。きっとそこで戦っているのだろう。
「そこに…きっと。」
何か一つはあのうつけ者に文句を言おう。そう思いながら、グラウンドに続く扉を開けた。
——予想はしていた…していたんだ。開ける直前に剣戟が止んだ時点で……だけど。
「分かっていても……悲しいものだね。」
胸が抉られ、頭を踏み潰されて倒れている
——うつけ者の姿がそこにはあった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
やるべき事を果たし、その場でボッーとしていると扉が開いて誰かが入って来ました。
「やあ、久しぶりだね。」
「……?」
……えっと、誰でしたっけ?
「忘れたのかな……アパートで会ってると思ったんだけど。」
「んー。」
「その仕草……もし体中が血のエフェクトで汚れてなかったら可愛いって思ったかもね。」
……やっぱり、思い出せません。
「まあ、それでもいいんだけど…話を、」
「……勝利条件。」
生命の危機を感じ、体が咄嗟に後ろへと飛んだ……
「……っ。」
「僕以外の全員が死ねば…終わり…ですから…僕は……果たさなければ。」
「あはは、話が通じないな。」
尻もちをついた状態で、少しずつ後ずさる。少し前の私ならきっと…
(無意味な行動…無駄な足掻きだ、どうせ死ぬのに何故、抗う?)
と、一蹴するのが目に見える。事実、扉まで下がれたところで…その距離は一瞬で詰められるだろうから。
——93%。
「…もし君が残り全てのプレイヤーを殺したらその後はどうするのかな?」
「……?」
何かを呟くのをやめて、私の方を見つめる…酷く虚で空っぽな視線だった。
「全てが終わったら、罪の精算として僕は責任をとって自害します。」
「…へえ。自害ね。」
やまねが無言で構える。動けば、すぐにでも私を瞬殺する事が出来るだろう。試しに命乞いでもしてみるか。
「…思いの他、下らない理由だな。自害…いや、自殺は逃げだぜ?罪を背負う度胸がないなら、殺人なんてするなよ。」
(あっ、つい本音が。しかも…最期にあの嘘つきみたいな口調で……あー恥ずかしい。)
それを無視し、博士へと接近しようとして…反射的に後ろを振り向いた。
その姿を見た私はただ絶句するしかなかった。
頭がないのにも関わらず、死体…うつけ者が立ち上がり、落ちていた刃先が無い槍……否、棒を持って構えたからだ。
「…嘘。あれ、何で?」
流石のやまねもこれには驚いたようで、動きが鈍った。その隙をつこうとうつけ者が先に動き出し、戦いがまた再開する。
——『ヒャハ!俺様が時間を稼いでやらぁ!!!』
そんな幻聴が聞こえた気がした気がしたし、生きていたのなきっとそう言っただろう。
「…ありがとう。」
そう呟き、体中から激痛が走る中、立ち上がり扉へ向かって、ふらつきながらも走りだした。
——97%。
競技場から出て、とにかく遠くに。そう考えて、ただ走り続けた。
「…う。もう、無理。」
疲れや痛みである程度の距離を稼いだ所で足が止まり、地面に大の字に倒れた。
「後、少しなんだ。早く…」
——99%。
「…見つけた。」
遠くからやまねの声が聞こえた。近づく足音から私との距離を計算する。
(結論……後、一分後に私は死ぬ。)
…間に合うか?違う。
ここで間に合わなければ、全て終わりだ。
——残り、30秒。
現存する分身に命令。
(解析や観測データの保存を後回し…そっちは私でやっておくから、君達はシステムの改変に全脳内リソースを傾けて。)
『了解した。』
『分かったよ…でも、いいのかな?』
(先にも言った通り、このゲームのシステムの改変が何よりの第一優先事項だ。楓さんが予定よりも早くにパソコン…システムの防壁機構を破壊してるから当初の計画よりは早く出来る筈だ……頼むよ。)
『『オッケー!』』
——残り、20秒。
体を起こし、立ち上がろうとして苦心する。
(回復アイテム……無駄にせずに、もっと残しとけば良かったかな。だけど、あの時のポーションのかけ合いは…うん。楽しかったな。)
——残り、10秒。
何とか立ち上がる事が出来た。
『システムのハッキング完了!』
『こっちも、改変できた…後は任せたよ。』
——100%……残り1秒。
やまねの手刀が首に当たるギリギリで、博士はその言葉を言う事が出来た。
「私の名前は、谷口菊!」
その途端、世界が変質する。これでこのゲームは終わりで……私もお終いだ。
「っ!?」
驚くのも無理はない。何せやまねが博士…菊の首を斬り落とす前に少女の体が内側から爆ぜたのだから。
「何が…起きたの?」
何が起きたのか分からないまま、やまねは光に飲み込まれて行った。
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