捨参話 ツイソウ
「邪魔すんじゃ…ねえ!!!」
「ご…」
また1人殺した。ここに死体の山を築かれても尚、どんどん敵がやってくる。
「ヒャハ。面白え…こんなんで俺様を追い込んだつもりかぁ?」
現在、うつけ者がいる場所はこの世界において一番広い場所……競技場である。
(博士は控室に軟禁してるから…気にせず殺れるな。)
客席から降り注ぐ矢を何本かは当たりながらも山勘で防ぎ、前にいる奴を槍でぶっ潰した。その後ろから何本かの武器がうつけ者の肉体を刺し貫いた。
「…ヒヒ。」
「ひえ。」
狂笑しながら振り向きざまに槍を振るう。まるで防具を無視したかのように体が真っ二つになり物言わぬ死体と化した。
「まだまだぁ…ヘヘッ、やれるぜぇ?」
体に刺さった武器を引き抜いていると、ふと博士の事が脳裏に浮かんだ。
(キャハ……らしくねえな。)
そう思いながら客席まで一気に跳躍し、驚く弓使い達を槍や拳で蹂躙する。
「…チッ、後何人来やがるんだよ?」
遠くから競技場へと押し寄せて来ているのが見えてそう呟く。普段なら喜べる状況だが、今は違った。
「…ハ。俺様のやるべき事は変わらねえか。」
——全プレイヤーの鏖殺。ただそれだけだ。
そう思って次の行動を起こそうとした時、誰かの悲鳴が聞こえ、その方向を見て…嗤った。
「ヒャハ……とうとう来やがったなぁ。」
あの時殺そうと思っていた少年が、他のプレイヤーを血祭りにあげながらここへと迫ってきていたからだ。
「…競争かぁ?だったら俺様も負けてられんねえな!」
客席からグラウンドへと飛び降りて、近くにいたプレイヤーを槍で串刺しにしながら、殺戮を再開した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
少し前…白き花園にて。楓の首を斬り落としたやまねは立ち上がり、近くにある壊れた机やパソコンを見向きもせずにその場を後にした。
「………」
『ありがとう……私を殺してくれて…』
(何で…あの時僕に感謝したのだろう?)
———『愛しています。』
(愛してるなんて姉さんに言われる資格は…僕にはないのに。)
ずっとその言葉が脳裏で反芻し続け無限に繰り返される……さながら壊れたビデオのように。その果てにやまねは悟った。
(……もう、どうでもいいや。)
「……姉さんがいない世界で僕が生きていく意味はない。」
———全てを台無しにしてしまおう。そうすれば、きっと……
「……?」
近くから、剣戟の音が聞こえる。その方向には確かーー
「……そうだ。僕にはまだやる事が残ってたんだった。」
そう呟き、やまねは音がした方向…競技場へと駆けて行く。
「ーーー!」
「ーーーーー!?」
「ーー!!」
その道中にいた人達を1人残らず皆殺しにしながら。でも全く心は痛む事がなかった。むしろ…
(あの先生を殺した時も…こんな感じだったっけ?)
昔の事だからか、よく憶えてないけど。
(人を殺すのはいけない事なのに…胸が高鳴るのはどうしてなんだろう?)
人間の腕を足を胸を顔を…潰して、砕いて、割いて、貫いて、折って……壊す。
「……あはは。これ楽しいな…もっと早くに気づけてれば良かったのに。」
ガチリと、思考が切り替わる。
「ーー!」
「はい、これで最後っ!」
前に会った気がするけど…何言ってるか分かんないし、聞く気もなかったから、手刀で右腕を飛ばして、何かを叫ぶ前に首を絞めあげる。
体がバタバタしてて鬱陶しかったから、そのまま力を入れて……首をへし折っちゃった。
「はぁ…とりあえず、本命に行こっか。」
虚な表情でそう呟く……誰もそれに返答する者はいなかった。
……
競技場のグラウンドに来ると、辺りは死体で溢れかえっていました。
「…よお、前と比べて随分と変わったなオメェ。」
本命がいたので、先手必勝…即攻撃に限ります。
「前よりも…強く…キャハ…違えな。思い切りが良くなっているのか?」
蹴りを防がれました。やっぱり、あの槍は厄介です。でも…
「今度は…こっちの番だぁ!!!ヒャハッ」
この人とは前の世界でも戦ってるから、もう行動パターン…分かってるんですよね。
突き、払い、払い、突きと思わせて払い。そして…拳による打撃。そこで一度距離を取ります。
「…ヘッ、やるなぁオイ。」
「其方こそよくこんな長い槍を片手で扱えますね。」
「ヒヒ…昔、破門された『宝蔵院流槍術』を参考にしてよ…俺様流の槍術を編み出したんだぜ…凄えだろ?」
それは…知りませんでした。
「おい何だそのツラは……そうだオメエ。名前教えろよ。」
接近したやまねの手刀や蹴りを槍で巧みに捌きながらうつけ者は聞く。
「…佐藤やまね。あなたを殺す人の名前だ。」
「ヒヒッ…そうかよ。やれるもんならやってみやがれ。」
思いっきり片手で槍をぶん回し、やまねに距離を取らせる。
「ヒャハ…これが最後だろうからよ…奥の手…使ってやるよ。」
使わせる前に殺す。そう決断し、行動に移す。
「…『
そう呟いた途端、全身が真っ赤に染まったと思ったら…大男が消えていた。
「…しまっ」
「オラァ!!!」
真横から衝撃が走り、壁へとふき飛んだ。
「…っ、ゴボッ。」
「まだまだ、こっからだぜ?」
壁に当たる直前に今度は下から衝撃が走り、体が空まで飛ぶ。
「ヘヘッ、終わりだ。」
僕よりも高く飛んでいる大男の槍が僕の腹部に刺さりながら、そのままグラウンドへと落下した。
「…?」
槍を引き抜こうとして、刃先を両手で掴まれている事に気づく。
「っ!?」
「…ふ。」
そのまま力を入れて砕き、動揺した隙に起き上がる……猛毒が体を蝕むのを感じる…でも、僕が死ぬよりも早くこの人を殺せばいいだけの話だ。
「…チィ、」
咄嗟に槍から手を離し棍棒を取り出すが、右足でそれを蹴り砕いた。そして、その無防備な体にやまねの左の手刀が……
——大男を貫いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
…気づいたら、夕暮れ時の懐かしい公園のベンチに座っていた。
(ここは…そうか……俺様は死んだのか。)
ふと周りを見ると、砂場で無邪気に遊ぶ二人の少年の姿があった。ここからでも声が聞こえる。
「兄貴、砂の城作ろうぜ。デッカいのをさ。」
「はぁ?自分で作ってくれ。俺はこれから砂山作ってトンネルを掘るという作業をだな…」
「ふーん。分かった…じゃあ手伝ってやるから、明日一緒に作ろうぜ?」
兄貴と呼ばれた少年は嫌そうな顔をした。
「無骨が絡むと、出来るものも出来なくなるしなぁ。」
「えっ、そんな事ねえぜ?兄貴頼むよぉ。」
「……じゃあ、邪魔だけはすんなよ。」
「分かったぜ!」
そう言って、二人で砂山を作り始める。
「——その翌日に、二人は他国のスパイに誘拐されて少年兵になるんだよね。そして…全く、酷い話もあるものだ。」
人生は何が起こるのか分からないよねと笑う隣に座る少女…博士を見る。
「テメェも…死んだのか?」
「いや、まだだよ…簡単に言えば、君の心の中の私と言った所かな?」
「どっちにしても…ヘッ、うぜえのは変わらねえのな。」
殺意も沸かない…いや、沸かなくてもいい。ただうつけ者…否、無骨の心が穏やかだった。
「…これから君はどうするのかな?」
「どうするって。そりゃあ…」
——ここにずっと、いたい。それが無骨の本音だった。
「ここなら何も失わねえんだ。幸せなんだ、楽しいんだ!!俺様の描きたかった理想がここにはある…だけど。」
「だけど?」
悪戯っぽい笑みを浮かべた博士は無骨をただ見つめる。それに内心イラつきながらも無骨は言った。
「俺様はここにいるべきじゃねえ。それは昔の俺様の話だ…今の俺様はよ…ただ、アイツを守りに行きてえんだ。」
「私を殺すために?」
「…ん…ああ、そう言ったろ?」
「あははっ。そうだったね。」
無骨は博士から目を逸らし、立ち上がる。
「……ありがとな。」
「えっ、えっ、何か言ったのかな?」
「チッ、何でもねえよ!!クソイラつくなぁ。」
そう言って、公園の入り口へと向かう。
「——がんばってね。」
振り返らずに、狂笑を浮かべながら無骨は駆け出した。
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