五度目の転生は平凡でッ!

潮風翡翠

第0章:カツテノ

第0話

 平凡とは、ここと言うすぐれた点もなく、並なこと。

 平穏とは、変わった事も起こらず、おだやかなこと。

 ああ、なんて素晴らしいのだろうか....どこまでも平凡で平穏で、波瀾万丈のない平坦な人生。そんな人生を送ることが出来るとすれば.....どれほど、平和で無事で楽しくて.....なんて羨ましい人生なのだろうか。


「クソ....が....貴様、妾を謀ったな....?!」


 .....けれど、私にはそんな言葉は無縁である。どこまでも波瀾万丈でどこまでも平穏とは無縁な命で、どこまでも非凡で奇異で特異な私の人生。

 『普通』に過ごしている人間というものがどこまでも羨ましく、どこまでも尊くどこまでもそれが、眩しく感じてしまう。非凡が闇であるのならば平凡とは差し詰め、私にとっては太陽以上の光にしか感じることが出来ない。いや、きっとその太陽すらも霞んでしまうほどに、強大な光。


 私が何をしたというのが。普通に生活をして、普通に会社について、普通に誰かと結婚して....幼い頃から、異質で歪で、とてもではないが普通とは言うことのできない生活環境に身を置いていた私は、そんなことを望んでいた。

 両親はいない。物心ついた時には、大量の借金と共に蒸発をして......私を闇金に売りつけて、その姿を消していた。

 私に、普通なんてものはない。だってそうだ、闇金....ヤクザに売られた私はその人たちが最低限の良識があったから、学校に通うことはできたがそこでも、他の組織の人身売買の商品として売りつけられそうになったのだから。


「謀った?何を言っている、貴様は人類.....いや、この世界にとっての『絶対悪』にして、この女神テアカコによって倒されるべき存在なのだから」


 下劣な笑みを浮かべているこれが、到底女神だとは思うことが出来ない。こんなのが女神を名乗る資格があるんだったら....魔族の方がよっぽど女神をしているということが出来るけど、こいつはそもそもがこんな性格をしているくせに、外面だけはいいのだから.....だからこそ、神としての格を保つことが出来ているのだろう。

 クソ女神、テアカコ。私を、異世界に呼び寄せた張本人であり女神という存在でありながらも、ドス黒い....吐き気すらも覚えてしまうような性格を持っている、私にとっての因縁の相手。


 卑怯、卑劣、外道.....どんな罵倒の言葉であったとしても、この存在には当てはまってしまう。なぜ、こんな奴が女神を名乗ることが出来ているのか....本当に私は、未だに理解に苦しんでしまうが......殺せばいい、と今までは思っていたのだからそんなことを気に留めることはなかった。


「何が.....人類悪だ.....クソ女神!!!!」


 失敗だった。ついこの間私が生み出した無限化の秘術が....完全に定着していないということを逆手に取られてしまい、私の力は完全に奪われてしまう。あの術についてはあくまでも、私だけのものである以上....それらがクソ女神に定着をするというわけではないのかもしれないが、一時的とはいっても、あいつは無限の力を手に入れることに有頂天になっているのかもしれない。

 ちらりと、クソ女神の後ろを見てみれば.....そこには虚ろな瞳をしている大量のの姿がある。これが、私が迂闊に攻めることが出来なかった理由であり......このクソ女神が行っていることの、最低最悪さを象徴するようなものだ。


「妾達、魔族が何をしたという?妾達は、お前の遊び道具オモチャなどではない!」


 勇者の聖なる力にて切り裂かれた内臓が痛むが、それらは既に治癒を施している。それぐらい、私の力があればどうってことはないのだから.....そこは普通のことであると、私も自分自身の意識を一瞬のうちに切り替える。

 目下、私のやるべきことは3つ。

 1つはあの女神を殺し、無限化の秘術の効果を取り戻すこと。

 2つはあいつに操られている勇者を含めて、私の家族魔族を全て取り戻すということ。

 3つは......


「かつてから続く....この因縁、ここで断ち切らせてもらうぞ!」


 私が、私のことを超越すること。不本意なことに、私の作り出した.....無限化の秘術というものは、その効力は完璧であり....あいつのステータスを確認することが出来ない以上、私の憶測でしかないのだがしっかりとステータスは無限になってしまっていることだろう。

 残念なことに、元々の私のステータスも確かに高いのだが無限というステータスの暴力には、今の私の力では到底勝つことが出来ない。そう、ではだ。


「(超える越える.....妾ならばできるだろう?!)」


 『魔神化』によって、この身を魔を司る神、魔神に変換する。高次予測を行い、通常攻撃ですらも因果律に干渉をすることが出来るようになり、魔力の消費をなしで永遠に魔法を撃ち続けることのできる、私の切り札の1つ。

 それだけではなく、文字通りに万物を超越する『万物超越』を自分自身に対して行い、かつての勇者としての力を神剣術と同時に、私の愛刀である『楓』に乗せ、それによって来る負担を大聖女としての、無限の回復能力にて無理やりに回復させる。脳が焼き切れるほどの情報量が、魔神化によって流されるのだが、それらのデメリットを一切合切無視することが出来る、もう1つの私の切り札。


 かつて、世界を救った救世の勇者。

 かつて、人々に希望を齎した神の生まれ変わりとされる大聖女。

 かつて、この世の叡智を学び人外の理に触れた大賢者。

 そして今、魔なる魔族を統べ女神という驕った存在と雌雄を決する魔王。


 それが私。何年、何十年、何百年....いや、私が最初にこの異世界に来てからすでに何万年、という時が過ぎている。因縁が、因果が私が死ぬことを許すことはなく私は、死ぬたびに未来の世界で新たな人物として、生を受ける。

 呪いだ。しかし、私はそのことを恨んではいない。この呪いがあるからこそ、私はクソ女神との決着を着けるために、力を蓄えることが出来ているのだから。


「妾の名前は、魔なる物を統べるもの、リース。今代の魔王として、貴様に命令を下す......女神、テアカコ、貴様は....死刑だ!!!」


 名前も、何もない最後の一撃。私の...ワタシの人生の全てを子の一撃にかけているといってもいい、私が出すことのできる最高火力を、このクソ女神にぶつける。

 いくらステータスが、無限になろうとも.....これを喰らってしまえばきっと、ただでは済まないのだろう。だが....知覚速度を何千兆倍にしようとも、既に避けることは不可能になっている、不可視の斬撃なのだから、ステータスに驕り....無限の力を得たことによって有頂天となっているであろう、このクソ女神は避けることが出来ないのだろう。


「積年の恨み、ここで晴らさせてもらうぞ!!」


「リィィィィィィィィィス!!!!!下郎な存在が.....貴様などがこの至高にして完璧な存在であるこの、私に....!!」


 私の肉体が崩れているのが、感覚的に理解してしまう。だが、それでいい....あとのことはきっと、アンゲロスたちが何とかしてくれることだろうし、私は.....この目の間にいるクソ女神を殺さなければ、私の気が済まないのだから後先自分の身体の心配なんてことをする余裕がない。

 クソ女神の咆哮が、私には心地いいものに聞こえる。いつもスカしていて.....いかにも余裕たっぷりと、そう物語っているような表情を浮かべていたこいつが、ここまで慌てているのを見るというのは実に気分がいい。


「その命で、今までの所業にケジメをつけろ....!!!」


 さらに出力を上げる。加速度的に私の崩壊が始まっていくが、それでもなお、補って有り余るほどの火力が増大していくのだから.....これでいいのだ。私の愛したこの世界を、私の命たった1つで守ることが出来るというのならば、それだけで本望というものだ。

 だから.....


「終わりだ、クソ女神。最後だ、と一緒に笑おうじゃないか」


 さようならだけは、言いたかったな......

 そんな最後の後悔と共に、私の意識は深い深い闇に堕ちる。幾億年もの因縁に決着を着けた私は、きっと正しい形での....輪廻転生に戻ることが出来ると....いいな....

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