クトゥルフダブルクロス~ハウンズ~

玖雅月

第1話 胎動~猟犬の目覚め

 くらい…厚い雲が月さえ陰らす暗夜、眼下には抗う様に赤々と火の手が上がっていた。

村一つを焼き尽くした火勢は厚い雲から叩きつける様に降り出した雨に少しずつ鎮火されていった。頬を一筋の水滴が伝った…。


 微睡まどろみから目覚めると何時も通りの白い部屋、見慣れた緩やかな曲線・・で構成された強化アクリル張りの無機質な部屋ケージ


 普段無い気配に壁外に目を遣ると苦々しい表情を隠しもしない女性がやってくる。

確か名前は三室戸みむろとだったか…?


 御丁寧にも角が加工され丸められた書類をこちらに見える様に提示しながら彼女が告げる。


「内閣府・公安及び神祇庁連名の特赦状だ。これからいう条件を呑むのであればお前をここから出してよいそうだ」


「何をしろと?」


「国家の犬になれ。怪物バケモノの相手は化け物な人外オーヴァードにさせろとの方針だそうだ。いいかくれぐれも飼い主の手を噛んで零機わたしの手を煩わせるなよ?役に立たない猟犬は殺して庭に埋められるそうだ。」


「まあこわい」


「返事は今、即答しろ。サインはいらん、貴様にペンを持たせる方が問題だ」


「わん」


巫山戯ふざけてるのか?」 


「え?こういう場合、返事は『はい』か『わん』じゃないの?」


「普通に『はい』でいい」


「そこに『いいえ』は選択肢にないのね?」


十三階段死刑台と一生飼い殺し。どちらが希望だ?」


 冗談よと微笑み了承すると三室戸が後方に合図する。


 透明な壁と三室戸の後部にある白い壁に開口部が開き白い壁の向こうからオドオドした男が顔を覗かせる。


「三室戸隊長、本当に彼女を出していいんですね?」


「かまわん」


「はぁ……やっと、やっとこれで漸く熟睡できる…やっとだ…」


 目の下に大リーグ選手のアイブラック程の酷い隈をつけた監視員が安堵の息を吐くのに軽くわおーんと犬の遠吠えをマネてやると男は飛びずさり部屋隅で頭を抱える。


「じゃぁね飼育員・・・さん」


 何のことだと問う三室戸にこの部屋に収監されたときに監視員が言ったジョークにうちの子達・・・・・が怒って嫌がらせ祟りしたみたいと答える。


「新しい飼い主にはやるなよ?」 


彼女の言葉に軽く手をひらひらとさせて私こと『狡神こうがみ 三世亜みぜあ』は世に放たれた。

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