第2話 失踪

 のんびりとした日曜の午後、両親と昔話をしていた。どうやら昔は不思議な子供だったらしい。昔からしゃべる方ではなかったし、じっと他の子供を見ている子供だったらしい。騒々しくもなくただ親の手をぎゅっと握ってあまり離れなかったので、親としては楽だったようだ。同い年の男の子の親御さんは常に追いかけっこをしているのを笑って話している。そのとき、


「でもあるとき一度あなたいなくなったのよ。」


と母親。


「そうそう、あのときはまいったよね」


と父親。


「え、どういうこと?」


 私には全く記憶がない。


「あれはクリスマスイブの夜よ。サンタさんが来るから早く寝なさいと言って寝かしつけたあと、もうそろそろ熟睡したかなと思いプレゼントを持って行ったら、あなたいないのよ。」


「えっ、なんで?」


「こっちが聞きたいわよ。あなたの靴がなくなっていたのとカギが開いていたから外に出たんだろうと思って探したわ。お父さんといっしょに探したけれど見つからない。」


「え〜、そんなことが…。」


「お父さんもお母さんはもう探したわ。ありとあらゆるところをね。」


「でも私ここにいるってことは見つかったんでしょ。」


「当たり前じゃない。お父さんとお母さんが疲れ切った三日後、夜にあなたの部屋から物音がするから見にいったら、あなた寝てたのよ。」


「え〜、なんで〜。」


「なんで〜ってこっちが聞きたいわよ。その日はもうお父さんとワンワン泣いて、各所に連絡して3人で寝たわよ。あれほど幸せなことはないわ。お父さん、思い出して泣かないの。」


「そんなことあったんだ…。全く覚えてない。」


「少し大きくなってからその夜のこと聞いたら、お友達といっしょにサンタさんと夜空を飛んだって言っていたわよ。お友達誰って聞いたら、名前は忘れたって言っていたわ。」


「それも記憶にない。」


それにしてももったいない、もしかしたら夜空を、いやさらに上の宇宙まで行ったかもしれないのに記憶がないなんて。


「それからかしらね。あなたが星空を見て宇宙に行きたいなんて言い出したの。」


「そうなんだぁ…。」


「本当にサンタさんに連れられて空を飛んだのかもしれないわよ。」


「まっさかぁ。」


その日のことを思い出そうとしても全く思い出せないので諦めることにした。

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