第19話
「ははは、殿下、剣ばかり見ていたら魔法が飛んできますよ」
「う、うるせー!」
ドーン、バーン、と裏庭に似つかわしくない音が響く。
数日後、グレイは約束通り、アドの練習に付き合うべくやって来てくれた。
グレイは流石、魔法騎士団のエースだけあって、剣も魔法も桁違いに強い。
「く、くそっ」
アドが地面に刺した剣に身体を預け、立ち上がろうとした所でグレイの攻撃がやむ。
「殿下ー、そろそろ休憩しましょー」
「何? まだまだ!」
「俺は殿下みたいに膨大な魔力を持っていないですから、休みたいですよー」
離れた所で呼びかけるグレイにアドが食らいつくが、彼は本当に疲れた様子で、引き上げてこちらに向かってきた。
「はー、殿下、中々やるなあ。現役の俺が押されるなんて。ミュリエルの指導の賜物かな?」
にひひ、と汗を拭いながら笑ってこちらに来るグレイの言葉に嬉しくなる。
「でもイリスの分までぶつけてやる約束が〜」
「? ところでグレイ、さっきの詠唱、間違ってたわよ?」
理由の分からないことを言うグレイは置いといて、私は教師モードで彼にくわっと寄る。
「けげっ!! 勘弁してくれよー、俺、剣術の方が得意なんだ。その上魔法もこなせてるんだから良くない?」
「良くない!! 今はそれでいいかもだけど、自分の力を最大限活かすことは、自身の命を守ることにも繋がるのよ?」
まるで子供のように言い訳をするグレイに私がお説教をする。
「うう、耳が痛い……。俺、考えなしでよく突っ込むから、仲間に助けられてるんだよなー」
「魔法騎士団は連携が取れているのね」
「そうそう、だいたいが独りよがりの魔術師団と違って、俺たちは目線の動きで補い合うのよ」
自慢気に語るグレイ。魔法騎士団の知らざる話を聞けて、私は興味津津になる。
グレイみたいに、魔法騎士団には人格者が集まっている。中には魔力量主義の人もいるけど、グレイのお兄様である騎士団長を始めとした、平等に物事を見られる人たちが揃っているのだ。イリスに付き添って武器のメンテナンスにたまに行くが、研究棟の人間である私たちにも笑顔でお礼を言ってくれるのだ。
「目線かあ……」
グレイからまたヒントをもらったようで、考え込む。
「はは、何か懐かしいな! 俺が魔法騎士団の入団試験を受ける時も、魔法の詠唱と魔法陣について教えてくれたよな」
「付け焼き刃だったけどね……」
私たちより一つ年上のグレイは、出会った時からイリスの婚約者だった。イリスと仲良くなってからはグレイとも仲良くさせてもらい、彼が魔法学校を卒業する直前、三人で彼のために勉強したものだ。
(確か、当時は筆記試験もあったんだよね)
騎士団長の申し訳無さそうな顔を思い出す。時代は進み、筆記試験が無くなった、ということは重視されていないということだ。
「まあ、筆記はギリギリだったけど、ミュリエルに教わったことは実践にも役立ったからな!」
カラッと笑うグレイにまた嬉しくさせられる。
「だったら! さっきの詠唱の所、直す!」
「うっ……はい……」
生徒のようにしょんぼりとするグレイに私も思わず笑ってしまう。
「おまえ……俺の家庭教師だろうが!?」
グレイと笑い合っていると、ようやく追いついたアドがじとりとした目で目の前に立っていた。
「アド、お疲れ。グレイにはお世話になってるんだから、アドバイスくらい良いでしょ?」
アドは面白くなさそうにドカッと私の隣に座った。
「ミュリエルは面倒見良いんだよなー」
「グレイもね」
ははは、と笑うグレイに私もクスクスと笑う。
「おい!!」
アドが私たちの間に割って入るように立った。
「お、お前……っ、イリス・ブロワの婚約者だろ!? ミュっ……ミュリエルって気さくに呼びやがって……」
「? ミュリエルは友達でイリスの大事な人だから」
「そうよ、アド、どうしたの?」
何故か怒っているアドに、私もグレイも首を傾げる。
「おっ、おまえら……お前も、この男を名前で呼んでんじゃねー! はしたないぞ!」
「なっ……」
アドがビシィッと指を指して、今度は私に怒りが飛んできた。
「ふふふ、この天然二人には通じませんよ、殿下」
すると後ろからいつの間にかいたイリスの声がした。
「お前は良いのかよ!!」
今度はイリスに向かって指を指すアド。何をそんなに怒っているのか。
「二人とも、私の大事な人だから良いんですよ。それに、私は二人のことを信じています。あまり狭量だと愛想つかされますよ、殿下?」
「にゃろう……言うじゃないか」
バチバチ、と頭上で火花が散っているような気がした。
「うーん、よくわかんないけど、ミュリエルのことは友達だし、イリスの大事な恩人だから好きだけど、イリスのことは女として愛してるぞ?」
「!! バカグレイ! 今はそういうの良いから!」
うーん、と考えて発したグレイの言葉にイリスが赤くなった。
二人のやり取りにほっこりとする。
二人の関係は羨ましくもあり、大好きなのだ。
「殿下も、そういう人がいるなら、ちゃんと言葉にして伝えた方がいいっすよ?」
「なっ!?」
グレイの言葉に今度はアドが赤くなった。
「あ、何もわかってないくせに核心ついたこと言った」
「お前ら、俺に対してもっと敬え〜!」
何だかよくわからないけど、大好きな二人とアドが仲良くなって嬉しいなあ、と私は思った。
そして、どんどん外の世界を知っていくアドのことを淋しくも思う自分がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます