第二章 王子様の家庭教師
第10話
「とりあえず、魔法学の実力を見たいから、テストを作って来ました」
「なあ……何で俺の所に来ないんだよ」
翌日、アドと待ち合わせた場所で準備したテストを広げると、彼から不満がもれた。
「すっ、住めるわけないでしょ!! あんたとの続き部屋なんて!! あれは将来のあんたのお嫁さんの部屋でしょうが!」
そう。昨日通された部屋は、アドの私室だったらしく、そのままそこに住むよう言われたのだ。
「別に良いだろ。俺、婚約者もいねーし。それに一緒にいた方が移動の時間も省けて良いだろ」
「そういう問題じゃなーい!」
昨日も繰り広げられたやり取りに、私は顔を真っ赤にして抗議した。
「何? お前、俺に何かされると思ってんの?」
「あ、それは無い。だって私、おばさんだし?」
アドがニヤニヤしながら聞いてきたが、私は出会いで言われたことを密かに根に持っているのだ。だからアドが私をどう見ているかなんてわかっていた。
「なっ……! それは……!」
「それは?」
自分で言ってて悲しくなった私は、とほほ、としょぼくれた顔でアドに聞き返した。
「…………っ!! もう、いい!!」
アドは顔を赤くすると、そっぽを向いてしまった。
(うーん、年下難しいなあ。クリスティーの考えていることもわからなかったし、私ダメダメだなあ)
「おい」
しょんぼりしていると、アドが机を叩いて私に訴えた。
「テスト、やるんだろ?」
「……っ、うんっ!」
何だかんだ、私に自分の夢を託してくれた可愛い弟子(私自称)に、私はすっかり絆されていた。憎まれ口を叩きながらも、こうして素直に授業を受けてくれる姿に涙が出る。
「……っ、お前、何泣いてんだよ!」
「だって生徒が真剣に授業受けてくれるの始めてで……」
ダバダバ涙を流す私にアドは呆れ気味に笑うと、彼の服の袖で涙を拭ってくれた。
「あ、ありがと」
「お、おう……」
アドはそう言うと、パッと手を放して私が作ってきたテストに向き合った。
離れた手が少し、惜しくも思った。
(って、え!?!? 私、何考えてんのよ!?)
自分の思考にびっくりして、セルフツッコミを入れる。
(アロイス様に手配してもらって良かった……)
昨日、アドと散々言い合った後、私はアロイス様に相談をした。
私がアドリア殿下の家庭教師に就任することは、あの場にいたクラウド様を始め、他の二人の長にも知らされていた。
アロイス様は驚いていたけど、光栄なことだ、と喜んでくれていた。
そしてイリスにも許可を取り、彼女の研究棟に寝泊まり出来るようにしてくれた。そして研究棟の裏庭(誰も来ない)にある東屋を授業の場所として提供してくれた。座学だけでなく、実践も必要のため、外でやる必要があったのでありがたい。
渋々折れたアドと私は、毎日ここで待ち合わせて授業をすることになったのだ。
「……わかんねえ」
ほどなくしてアドがテストを持ち上げて言った。
「え――どこが……」
「全部」
「はあ!?」
アドが手掛けていたはずのテストを覗くと、真っ白のまま。
「あんた、これでどうやって魔法使ってるのよ?」
「何となく?」
ふるふると震えながら聞くも、アドはあっけらかんと答える。
「ったく、これだから魔力量重視の魔術師たちは! いい? 呪文の構築、詠唱、その構造を理解することはどんな魔力量にも匹敵するのよ?」
「ふうん?」
私の説明にアドはピンときてない様子。だったら。
「よし、実際に実践してみましょうか。アド、私に魔法で攻撃してみせて」
「はあ!?」
立ち上がって庭の広い場所へ移動した私にアドが驚きの声を上げた。
「お前、魔力量が少ないんだろ? そんな事したら……」
「大丈夫だから! ただ暴走されると困るから、コントロールはしなくて良いけど、低魔法でお願いするわ」
「……わかった」
アドはまだ心配そうにしたけど、笑顔の私を見て、納得したようだった。
「行くぞ」
「ああ、アド。私に
構えたアドに、私も準備をするとにっこりと言う。
「……言ったな」
ニヤリ、と挑発を受けたアドが魔法陣を描いた。
初めて見る彼の魔法。
有り余るその力から、低魔法なんて彼にとっては朝飯前のようで。
(早い……っ! でも……)
私は瞬時に呪文の構築を整え、詠唱する。
アドの放った魔法は、私の防御魔法により相殺され、一瞬で消え散った。
「なっ!? つ、次っ!」
アドの手は驚きで一瞬止まったが、また次の魔法が放たれた。
私は同じように防御魔法で消す。
「くそっ……!」
「遅いっ!」
次にアドは連続して魔法を繰り出すも、私は的確に軌道に乗せて防御魔法を放つ。全てのアドの魔法を無効化した所で、私はその場にへたれこんだ。
「そ、そこまで……」
ぱたり、と庭の芝生に倒れ込む私。
「おっ、おい!!」
慌てたアドが走り寄って来て、私を抱き起こしてくれた。
「大丈夫か!?」
「だ、だいじょーぶ、大丈夫。魔力量が少ないからすぐにバテるだけ……」
本当に心配そうにしてくれる弟子にきゅん、としながらも、私は指でピースを作って元気をアピールした。
「良かった……」
アドは泣きそうな表情を見せると、私をぎゅう、っと強く抱きしめたのだった。
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