薬指のボルドー《有栖》

私の背中には十字の傷痕がある。

それは二年前の事件とその後の手術で、できたもの。

竜之介はそのことをひどく気にしているけれど、私はそれを誇りに思っている。だって、この傷痕はあの事件の時、竜之介を守ることができた証だから。


ただ、そのとき麻痺が残ってしまって、少しだけ右手に不自由がある。

だからってなんてことない。

この指は大切なものにきちんと触れることができる。


私は部屋で兄が塗ってくれた薬指と小指のペディキュアのボルドーの色を眺めている。そっと右手で撫でてみる。

やっぱりお兄ちゃんが塗ってくれたのだけとてもきれい。


うふふ

うれしくなって一人で笑ってしまう。

---だいじだよ、有栖が。


やさしいけど、真剣な目をしてた。

やさしくされるたびに胸が苦しくなるのはなぜだろう。

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