お守りのキス《有栖》

「あー…有栖ちゃんに言われて、承知しちゃったけど、これ竜之介にあとで絶対怒られるやつだ……」

桃くんは片手で頭をガンガン叩きながらついてきてくれる。


事情を話すと桃くんは1人で行くのは危険すぎるから、私が話す席の後ろで待機していてくれるという。

私が懇願して兄や竜之介には言わないでおいてもらった。


なにかあったらでてきてくれるそう。

こんなことまでしてもらって申し訳ないと謝ると、

「有栖ちゃん.オレから、優越感と使命感を奪わないで。いつも竜之介がやってる役割を今日はオレがやるんだから、有栖ちゃんに頼りないって思われないようにがんばらなくちゃね」

桃くんはいつもの明るい洋服ではなく、落ち着いた墨色のシャツに深いグリーンのパーカーで来てくれていた。

どこか竜之介のファッションに似ていて、私もちょっと落ち着く。


深呼吸をして、

待ち合わせのカフェに入ろうとすると、

「有栖ちゃん、ちょっと待って…」

と桃くんが呼び止めて、私の腕を優しく引っ張った。

そして私の肩にそっと両手を置くと、長身をかがめて、私のおでこにキスをした。


「お守りのキス」


桃くんはにっこり笑って言う。

私はとっさにおでこに手を当てる。

桃くんが動じていないので、リアクションに困る。


本当にすることが竜之介みたいになってきた。

でも確かにちょっと元気がもらえたような気がする。

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