花の香り《海里》
桃が話していた、マスコミが手に入れたという写真が気になる。
どこから手に入れたものなのか。
そして、そこに何が映っているのか。
もし、有栖が映っているものだとしたら、たとえ実名や顔がでなくても世に出したくない。出すわけにはいかない。
父は世間的にはそれなりに有名だったから、実刑判決が出てからしばらくは、その噂の真偽を確かめるべくマスコミが周辺をうろうろしていた。
でも、あれから2年が過ぎている。
今さら、また有栖や竜之介のところに来るなんて、何が新しいネタを手に入れたということなのか。
俺は無意識のうちにタバコの箱を握りしめていた。
ベランダで寝る前の一服をしていると、有栖がカーディガンをもって出てきた。
「お兄ちゃん、そんなかっこでいると風邪ひくよ」
俺の肩にそのカーディガンをかけてくれる。
ありがとう…といいながら、有栖の表情をみる。
ちょっと不安そう顔をしている。
「どうしたんだ?有栖……」
顔をのぞき込む。
「あ、あのね……」
有栖の透き通った瞳が揺れながら、俺をじっと見つめているのが薄暗いベランダでもよくわかった。
有栖は何か言いかけて口をつぐむ。
少しの逡巡のあとに、
「なんでもない」
と首を振った。
多分……いや、絶対に何かある。
俺はベランダに出るときに持ってきたタバコを灰皿に押しつけた。
有栖にはタバコの煙は吸わせたくないと言ったら、そんな有害なものとわかっているならお兄ちゃんもやめてと怒られたことがある。たしかにそうだな。
「有栖、なにか気になることがあるならなんでも言えよ」
俺に言えないなら、竜之介でも桃でもいいから。
うん……
有栖があやふやに笑う。
部屋から竜之介が、「有栖そろそろ寝るよー」と、呼ぶのが聞こえた。
「はーい…」
有栖がそれに答える。
髪からふわりと儚ない花の香りがする。
「お兄ちゃん、おやすみ」
有栖はその香りを纏って、竜之介とベッドに入る。
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