『はずれ王子』の婚約者となりまして。

椎名さえら

プロローグ

 シュテット王国の王宮にて。

 玉座に深く腰かけている王は何度目か分からないため息をついた。


「……して、リーンハルトは?」


 第二側妃との間に生まれた息子ことリーンハルト王子は、誕生したその日から王家の頭痛の種だった。

 それでも幼少期はまだよかったが、リーンハルトが十歳すぎに第二側妃が流行病のため逝去したのと同時くらいに、ある問題が判明した。


(あれからだな、不名誉な二つ名がつけられることとなったのは……王家の沽券に関わるというのに、事実だからどうしようもない)


 目の前で、あまり顔色が優れない宰相が、お変わりありません、と言葉少なく答えた。自分も似たような冴えない表情だろう、と王は考える。宰相はリーンハルトの婚約をなんとかまとめようと骨を折ってくれているから気の毒にすら思う。


「変わらない、ということは、まともに身なりも整えず、日がな一日庭園でぼんやりしたり、何の役にもたたない落書きをしたりしているわけだな――また婚約話を逃したにも関わらず」


 はあ、と再び王はため息をつく。 


「今回はニーロンジェット侯爵令嬢で、前回はヴァルサンランベール公爵令嬢……、その前はトドルトッツ公爵令嬢……くまなく全員から断られる始末……か……」

「礼儀はきちんとされていましたよ。顔合わせのお茶会も最初から最後までちゃんといらっしゃいましたから」

「ちゃんと布は頭に巻いていたか?」

「それは、はい。もちろん。普段通りにされていました」


 額に浮かんだ汗を拭きながら宰相がとりなしたが、お茶会に参加しなかった王でも、その光景がはっきり目に見えるようだった。


「わかってる。あいつが問題行動を起こさないよな。だが、まぁ相手はもう噂は知っているだろうし……それに、あいつはその場に『いる』だけだろう……相手の話を聞いていなかったのに違いない――だからあんな二つ名がつくんだ」


 それを聞いた宰相は否定も肯定もしなかった。

 王はぐっと腹に力を込めた。リーンハルトは二十三歳、もともと王位継承権は高くはないが、これだけ婚約が決まらなく、何をするでもなくぼんやりしている王子をこれ以上王宮で放置しておくわけにはいかない。


「仕方ない、苦肉の策だ」


 渋い顔の王が宰相に命令した。


「リーンハルトの婚姻は諦め、離宮に送ることにする。表向きは療養のためと発表しろ」

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