第7話 浄霊、その後

 無事に男の子の幽霊を浄霊して、事務所に帰ってきたのは夜になってからのことだった。


「今回は幻妖ではなく、子供の幽霊だったため、浄霊しました……っと」


 所長用の椅子に座った冬夜がスマホで協会宛てのメールを打っていると、志季が事務所専用のキッチンからマグカップを三つ持ってくる。

 一つを冬夜に渡し、残りの二つを来客用のテーブルに置くと、どっかりとソファーに腰を下ろした。


 その後ろには、炭酸ジュースの入ったペットボトルと牛乳パックを一緒に抱える、人間姿のコハクがいる。


 冬夜が手慣れた様子でインスタントのコーヒーを入れていると、志季とコハクはそれぞれ自分のマグカップにジュースと牛乳をいでいた。

 ちなみに甘党の志季が炭酸ジュースで、コハクは牛乳である。


 人間の姿になっても小柄なコハクはどこで知ったのか、「牛乳をいっぱい飲んで大きくなるんです」と言いながら、しょっちゅう牛乳を飲んでいた。

 おそらく、近所の猫友達からの情報かテレビなどの影響だろう。


 冬夜としては、あまり大きくなっても肩に乗られた時に困るので、今のままでいいと思っている。

 それに小さくてモフモフしているのが、とても可愛らしいのだ。コハク本人に言うと怒られそうな気がするので、これまで言ったことはないが。


「今メールすると、返信は明日以降になるんだろ?」

「そうだね。これから協会側で依頼がちゃんと完了したか確認するから、早くて明日だと思うよ」


 志季が冬夜の方に顔を向けると、冬夜はマグカップを持ったまま、そう答えた。


「じゃあ後は返信待ちか。今回は浄霊だったし、報酬は少なそうだよな。まあ浄霊の方が除霊よりは少しだけ報酬いいんだけどさ」


 こればっかは仕方ないよな、と言いながら、志季がマグカップに口をつける。


「でも、ちゃんと成仏できたみたいでよかったです」

「うん。これであの子も成仏できたし、事件も収まっただろうからね」


 嬉しそうに牛乳を飲むコハクに、冬夜も目を細めた。

 そこで、志季が思い出したように顔を上げる。


「そうだ」

「志季、どうしたの?」

「志季さん、どうかしたんですか?」


 冬夜とコハクが、揃って同じ方向に首を捻った。


「いや、晩飯まだだったなと思って」

「そういえばそうでしたね」


 確かにお腹が空きました、とコハクも腹に手を当てる。


 冬夜が腕時計に視線を落として時刻を確認すると、夜八時を過ぎた頃だった。そのまま、今度は天井を見上げる。


「えーと、カレー……は昼に食べちゃったからね。うん、これから何か簡単なもの作るよ」

「よし、冬夜頼んだ。あ、でも片づけだけは絶対するなよ。そのまま置いとけ」

「わかったよ」


 志季に指を差しながら注意され、冬夜は思わず苦笑を漏らしたのだった。


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