第2話 退魔のあと・1
翌日、午前のこと。
綺麗に片づけられた事務所では、冬夜、志季、コハクの三人が揃ってのんびりしていた。
きちんと片づいているのは、見た目の軽い雰囲気とは反して、わりと几帳面なところがある志季のおかげだ。
「この事務所っていつも暇だよなー」
志季が来客用のテーブルに置かれたチョコレートを一つつまみ、包みを開けるとそのまま口に放り込む。
「まあ、この事務所は基本的に依頼人が来ないからねぇ」
所長用の椅子に腰を下ろしていた冬夜は、紅茶の入ったマグカップを両手で大事そうに持ちながら、苦笑いを浮かべた。
ごく普通の住宅街にある『
一軒の平屋、その手前三分の一ほどを事務所として使い、残りの奥の方を冬夜とコハクの住居として使用していた。ちなみに、志季は通っている大学の近くのマンションで一人暮らしをしている。
敷地は他の家よりも無駄に広いが、事務所の面積はそれほどでもない。住居部分の方が断然広かった。
そして事務所に看板もなければ、広告を出しているわけでもないので、まず依頼人が来ない。
近所の住人ですら、ここが事務所であることにほぼ気づいていなかったのである。おそらく、「大きな平屋だな」などと思われている程度だろう。
「さてと、そろそろ今日の朝刊でも読もうかな」
冬夜がそう言ってマグカップをデスクに置き、近くの朝刊に手を伸ばしかけた。
ちょうどその時だ。
同じように朝刊の
「退魔師協会からのメールか?」
すぐさまスマホを手にした冬夜に向けて、志季が訊いてきた。
今の着信音は協会からのメール専用にしているものだ。志季も音を聞いただけでわかるようになっている。
「うん、振り込み完了のメールだね。昔は連絡に伝書鳩を使ってたこともあるらしいけど、今はメールで連絡が来るんだから便利な世の中だよね」
「まあな。で、今回はいくらだった?」
内容を確認した冬夜が志季の方に顔を向けると、志季はにやりと口角を上げた。どうやら今回の報酬にかなり期待しているらしい。
「これから確認するからちょっと待ってて」
「ん、わかった」
冬夜がスマホを持ったまま、今度はブラウザを開く。ネットで銀行の残高を確認するためだ。
志季は素直に頷くと、スマホを操作している冬夜の様子を黙って眺めていた。
少しして、
「おお、今回は結構入ってる!」
残高の確認を終えた冬夜が、歓喜の声を上げる。
「どれどれ」
「ボクにも見せてください」
冬夜の嬉しそうな声に、志季とコハクも寄ってきて一緒にスマホを覗き込んだ。
「ホントだ。やっぱ退魔だと報酬も違うよな」
「うわぁ、すごいですね!」
志季とコハクが揃って、満足したように何度も頷く。
「これで今月の志季のバイト代もちゃんと払えるね」
「普通はこんなギリギリの経営なんてしないはずなんだけどな……」
志季を見上げた冬夜が満面の笑みを浮かべると、志季は少し呆れ気味に答えた。
「確かにそうなんだけどさ」
冬夜の笑みが、今度は苦笑に変わる。
「ま、いいや。オレはちゃんとバイト代もらえるし。あ、今回退魔したのはオレだから少しは上乗せしてくれるんだよな?」
「わかってるよ」
冬夜は苦笑したまま頷き、スマホをデスクの上に戻した。
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