風紋のアーツ ~魔剣の頂を求めて

だるは

魔術学園編

第1話 記憶

俺は捨て子だった。大戦が終わって紛争が頻発する今の時代なら、別に珍しいことでも無い。今日を生きるのも辛い人もいるのだろう、仕方の無いことだ。でも、そんな状況でも自分は幸運だったと思う。なぜなら――



 「この変なキノコここに刺しときますよ。」

緑の淡い光を放つキノコを棚にすえながら言う。


 「"変な"!?いい?このイヤシイタケは

 凄い薬効があって…」

この人が俺の師匠、ファネウスのアリア様だ。この森一帯の管理人を任されているらしい。 


 「もちろん分かってますよ、師匠。そんなことより早く修行場に行きましょう。僕はキノコより剣を教えてもらいたいのです。」

 「そんなこと!?」


師匠が口を半開きにし、ショックを受ける。大の植物好きで植物研究までやっているくらいなので、かなり落ち込んでいるようだ。

 「ま……まあ、修行に行こうか。」

悪気はないと、なんとか弁明しながら修行場に足を進める。



―――風の吹き荒ぶ平原に出る。森の木々に囲まれ孤島のように浮き出た、二人の修行場だ。


 「さあロアン、久し振りに実戦形式と行こうか。」

同時に剣を抜き放ち、互いを見据える。緊迫感のある沈黙が流れ、風が頬を撫でるのが伝わってくる。

 

 「行きます!!」

静寂を打ち破り、地面を蹴り上げる。

 「《加速アクセラ》」

 そう念じると体が風のように軽くなり、更に速さを増していく。魔法と呼ばれるものだ。

 風を切る凄まじい音と共に矢のように迫った剣が師匠の剣に触れる――


――その刹那、師匠は流れるように剣を打ち払い、鋼のぶつかり合う鈍い音が鼓膜を刺す。

 「っ…」

バランスを崩し、隙ができてしまった体に剣閃が走った。 

 

――だがその剣が胴に触れることはない。

 「誘いです…!!」

師匠の剣が服を掠める寸前のところで回避し、背後へと回り込み、地面を踏みしめる。


 「ハァァッ…!!!」

大上段に振り上げられた剣が一直線に振り下ろされ弧を描く。当たる、そう確信したとき、剣先が空を切った。


 「《加速アクセラ》」

高速で背後に回り込んだ師匠の刃が首筋に迫り、突きつけられ、冷や汗が垂れる。


 「っ…降参です…」

 「今回は少し危なかったよ、でもまだまだ詰めが甘いよ!」

剣を腰に携えた鞘にしまい座り込んで笑った。


 「相変わらず速すぎるんですよ、師匠の剣は…なんでこの強さで植物研究なんかやってるんですか…」

 「まだまだ弟子に負けるわけにはいかないからな!」

理由になっていない気がする。


 「そういえば、ロアンもそろそろ15になるでしよ?ついにロアンがこの森を離れて学園に行く時期だね。」

この大陸には15で学園という教育機関に通う決まりがある。

 「別に学園なんて、行かなくても師匠がいますし…」

つい本音が漏れるが慌てて口を塞ぐ。


 「そうは言っても、私も一応あの学園の設立に関わってる身だから…」

察してくれと言わんばかりの顔だ。

 「まあ行きますけど…」

 「それにロアンももう15だし、友達の一人や二人くらい作りたいでしょ?この森には私と動物たちくらいしか居ないからね。」

からかうように笑う。

 「友達…」

できるでしょうか。という言葉が喉につまる。

 「大丈夫に決まってるでしょ!」

ロアンは優しいから。そう付け加えた。



――その日の夜

 「もう寝たかな。」

アリアはアルバムを眺めていた。あまりに早い弟子の成長を噛み締めながらページを捲っていく。

 「人間の子供の成長は早いね。」

ふと、彼女はロアンと出会った日のことを思いを巡らせる。



――それはいつもより激しい嵐の日だった。

夜になり更に強くなっていく雨風に、さすがに森の様子を見に行こうとアリアは重い腰を上げて、家の扉を開けた。


 動物たちや植物の無事を確認し戻ろうとしたところで、川の方向から水の流れる激しい音が聞こえた。

 「まさか、氾濫…」


 様々な不安が押し寄せた。もし川が溢れて森に被害がでていたら? 急いで駆けつけると、幸い木々に守られ氾濫は起こっていなかった。

 

 しかし上流から人間を乗せた小さな籠が流れてきたのだ。


 「な…!?」

助けなくては、そう考えるより先に体が動いていた。しかし雨で濡れたことでぬかるんだ地面が足をとり、上手く走ることが出来ない。川の流れが激しすぎて、このままでは――、アリアはその考えをかき消すように両手を伸ばした。


 「っ…《物体操作ムーヴェ》ッッ!!」


魔法には有効範囲が存在する。特に自分以外の物体に干渉する場合は著しく制限されてしまう。


 だが、しかしアリアはそれを確かに打ち破ったのだ。


彼女の想いに応えるように光の粒子が籠を包み込み優しく持ち上げた。

 「良かった…届いた…」


籠を抱き抱え、赤子の頬をそっとなでる。

 「なるほど。

あることに気付き、確かめたい気持ちもあるが―――

「今はこの子が先ね。可哀想に…捨てられたのかしら…ん?これは…」

籠にはナイフで文字が刻まれていた。

 「…なるほどロアン。いい名前だね。」

名前は愛情の証拠だ。ではなぜこの子は?

 「よし、ロアン、貴方は今日から私の弟子だよ。」



―――アルバムから目を離し、顔を上げる。

 「懐かしいな…。今でも鮮明に思い出せる。」

自然と頬が緩んでいく感覚を覚える。

精一杯の笑顔で送り出してやろうと思った。

 「よし!そうと決まれば準備しなきゃ!」

アリアは満面の笑みで準備を進めていた。

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