風、温かさ。

若干

風、温かさ。

 扇風機を眺めていた。畳とフローリングが同居するリビングの、掘りごたつにかけた板に足を放って。ガラス越しの曇った蝉の声はどこかあいまいで鮮明に、僕に夏を説いていた。左右に首を振るその老いぼれは、僕に「大きくなったな」と言わんばかりに風量を上げた。

蝉の声。

 気が付くとフローリングだけの部屋の、平坦なベッドの上だった。ゆっくりと体と平面とを引きはがし窓の外に目をやる。東向きのその窓からは、ただ青、白、緑、赤だけが今にも崩れそうに目に飛び込んできた。21歳の夏。あの老いぼれは元気にしているだろうか。今日の、今の、僕を見てもその風量を上げてくれるだろうか。

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風、温かさ。 若干 @untilyouth

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