百合モデラー ──転生先でCGの技術を使って推しと快適に暮らします──

橘スミレ

第1話 推しの元に転生

 推し天使が死んだ。

 原作者も死んだ。

 作品私の宗教は終幕した。


 ここから導き出される結論。


「後追い自殺するか!」


 思い立ったら即行動。

 行動力だけはある。


 さっそく準備して、ベランダから飛び降りた。

 ちゃんと死ぬ前に推しの画像の入ったスマホと3Dモデルの入ったパソコンは壊してきた。


 ただの大阪のJCが自殺しただけだから界隈にも迷惑かからないはず。

 お父さんとお母さんには悪いけど、神が死んだんだもの。しゃーない。


「待って、やば、落ちてくのこわ……あ」


 私は落ちてる途中で気を失った。

 だから痛くなかった。

 いぇーい。


 このまま意識が戻ることなく死ぬんだと思ってた。

 というかちゃんと死んだと思ってた。


 だが私の意識は戻った。

 体の痛みもなかった。


 目を開けたら推しがいた。

 何千回も見たんだから見間違えるはずがない。

 コスプレとかのレベルじゃない。

 完全一致だ。

 ありえるとしたら、ドッペルゲンガーくらいだ。


 月明かりのような白の髪。夜闇のような黒の着物。

 美しい彼女は間違いなく私の推し、月夜つきよである。


「起きたかえ」


 ねえさまが私に話しかけている。


 声も一緒だ。

 本人だ。

 マジモンだ。

 ……やべ。


 これは死後の世界? 黄泉の国?

 まさかの漫画の世界にトリップか?

 ここはもしやマフィアの本部か?


「つ、月夜さん?」思わず名を呼んでしまった。「え? は? ふぇ?」

「わっちのことを知っておるのか」


 あ、まずい。混乱して言っちまったよ。

 姐さまの名前言っちまったよ。

 でも、推しが目の前にいたんだもん。仕方ない。不可抗力。


「まあ、転生したり空から其方そなたが降ってきたり。この世界は不可思議なことばかりじゃ。其方がわっちの名前を知っていても何もおかしくないのう」


 ん? 転生したって?

 つまりあの漫画の世界ではないってことか。残念。


「こちらの世界は初めてか?」

「はい。目が覚めたらここで頭が混乱してます」


 頑張って標準語の敬語で喋る。

 漫画のチャラチャラ系関西弁キャラに良い人いなかったから標準語で頑張る。


 姐さまは色々教えてくれた。

 聞くところによると、ここはよく知らない異世界らしい。

 姐さまはこちらに来てからスキルを使ってモンスターを倒し、魔石を集めて売って暮らしてるらしい。


「いつものようにモンスターを狩りに行こうとしたら其方が降ってきよった。だからわっちの泊まっているこの宿に連れてきた訳じゃよ」


 なんとなく状況は理解できた。


「其方、名を何という」

「モカです」

「モカか。それ、ステータスを見せてみよ」


 どうやったらステータス出せるんだろう。

 念じたらいいのかな?


 いでよ、ステータス!


 あ、なんか出てきた。




 ──────────


 モカのステータス

 肩書:なし

 スキル【翻訳】【解毒】【自然治癒】【締切前の部屋】【3DCG】


 【翻訳】

 標準スキル。

 音や記号から伝えたい意思を読み取る。

 気持ちがあれば伝わるんだぁ!


 【解毒】

 標準スキル。

 多少の毒や菌やウイルスを無効化する。

 多少変なもん食っても大丈夫やで!


 【自然治癒】

 標準スキル。

 多少の怪我を睡眠によって治癒する。

 多少の怪我は気にするな。睡眠最強だい!


 【締切前の部屋】

 特殊スキル。

 集中力が上昇し時間の流れが1440分の1になる部屋に入れる。

 締切前にぴったりな部屋だね!


 【3DCG】

 特殊スキル。

 木製の特殊な板たちで3DCGを作れる。魔石を使えば印刷できる。

 君の相棒たちが使えるよ!


 ※標準スキル:全人類が必ず持ってるスキル。

 ※特殊スキル:人によって内容が変わるスキル。


 ──────────




 どうやらこっちでも3DCG作れるらしい。

 しかもプリンターつき。

 最高じゃん。


「ちょっと見せてもらうぞ」


 姐さんが私の肩に手を置いた。

 近い。近いよ!


「其方、面白いスキルを持っておるな。ほれ、使ってみよ」


 魔石らしきものも渡された。

 なんかキラキラしてる。綺麗だなぁ。


 スキルはなんか念じたら使えるらしい。

 さっそく【締切前の部屋】に入る。

 姐さまの入るよう念じてみると、ぽんって現れた。


 中は一面真っ白な部屋だ。

 何もない。でもなんか集中できそう。

 これは面白い。

 ついでに【3DCG】も使ってみる。


 木製のノートパソコンが出てきた。


 ちゃちゃっと椅子を作って印刷してみる。

 木箱に魔石を入れるとガタガタ、ボン!って飛び出してきた。

 思ってたんと違う……。


 普通の3Dプリンターってウイーンウイーンってなんかめっちゃ機械が往復して造形するやつ。

 ペリっと剥がして支えを削ってみたいな大変そうなやつ。


 それがない。

 これを見たら前の世界の仲間たちはショックで血を吐いて倒れるだろう。

 それくらい衝撃的なものだ。


 そのやばいブツからできたのは人が座れるくらいの椅子だ。

 キラキラしてる魔石でできているのだろうか。

 丈夫でツヤツヤしてる。


「これはすごいのぅ」


 姐さまに褒められた。嬉しい。


「一度戻ろうか」


 姐さまと一緒に元の世界へ戻ってくる。

 あの椅子も一緒に持ってきた。


 姐さまは椅子を見て何かを考えている。

 駄目だったのかな。


「あの魔石は大体2000molくらいじゃ。だがこの椅子、いくらになると思う?」


 ちなみにmolはこの世界の通貨らしい。

 1mol = 1円くらいなんだとか。


「高くて3000molが良いところですかね?」

「10,000molじゃよ」


 なんと5倍。それはえらいこっちゃ。


「其方、わっちと共に商売をしないか?」

「と、いうと?」

「其方のスキルは金になる。だが魔石を必要とする。対してわっちのスキルは魔石になるが金にはならぬ。故にわっちと其方で組んで稼ごうという訳じゃ」


 これOKしたら末長く推しと居れるんじゃないの?

 同棲とかできるんじゃね?


「します。月夜さんと共に生きます!」

「共に生きるなんぞプロポーズのようなことを言いよって、おかしなわっぱじゃ。まあ良い。商売仲間としてよろしくのぅ」


 手を差し出してくる。

 姐さまの手を握って良いってこと? ありがとございます!


 おそるおそる姐さまの手に触れて握手をした。

 新雪のように白い手はひんやりとしていた。


「よろしくお願いします!」


 向こうの世界で作品は終幕した。

 だが今ここで私と姐さまの異世界商売ライフスピンオフが幕を開けた。





 ──────────────────────

 あとがき

 

 【締切前の部屋】が切実にほしいです。

 みなさんはどうですか?


 ちなみに椅子はこんなのです↓

https://kakuyomu.jp/users/tatibanasumile/news/16817330668166399756


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