―ブレインズ・ブレイク・ワールド― 機械のカラダと勇者の脳ミソ
くらんく
第1話 生誕
「ブレインズ、起動――」
老人の言葉を合図に、人型の入れ物に命が吹き込まれる。
項垂れた状態で眠るように立ち尽くす人形は、総勢1万体。姿は18歳の男女を模しており、体格や容貌はそれぞれ異なっている。意志も意識もないそれらに、唯一の生体部品として、脳が接続された。
彼らは今、人間として生まれたのだ。
「誕生日おめでとう、ブレインズ諸君」
導歴82年4月2日。まだ雪が降り続くその日、新たな命がノストラに芽吹き、世界が崩壊へと足を踏み出した。
「君たちは偉大なるノストラ共和国の平和と発展のため生まれ、そして――」
『ブレインズ』と呼ばれる若者たちの機械の肉体と脳との接続による処理が行われる間に、獅子のたてがみのような迫力ある白髪を持つ老人は力強く祝福の言葉を述べたが、彼はそれを言い切る前に一つの違和感を感じて言葉を止めた。
「なんだ、この揺れは……」
戸惑いが言葉となって零れ、それをマイクが拾って会場に響いた。微弱な揺れ。地震ではない。発生源は分からないが足元が揺れているのではなく、まるで空気がひとりでに振動しているような不思議な感覚。収まるどころか強まっていく振動の正体を突き止めようと老人はあたりを見回した。
最大収容人数10万人の屋根開閉式コロッセオの中央に搬入された1万の機械人形。否、今は人間としての適応処理を行う彼らが、整然と列を成している。彼らは未だこの揺れについて把握していない。ただ自動姿勢制御機能によって体勢を維持することはできている。
ノストラの最重要行事である生誕式に参加している政府の職員の中には、壇上で祝いの言葉を述べた導師と同じく揺れを感じた者もいたが、一部の者は揺れを感じることなく、導師の行動に疑問を抱いていた。
二者の違いは単純に距離的な問題である。震源に近い者は揺れを感じ、遠い者はそうでなかったというだけの事。そして、その震源は未だ動かないブレインズの群れの中央、頭上数メートルの地点にあった。その地点には何もない。何もないその場所に、亀裂が入る。
空間が砕け、境界は崩れた。
「ウジャウジャと居やがるなァ!!」
ガラスのように砕かれて開いた未知の入り口から、青髪の青年が舞い降りる。ローブでその身を隠してはいるが、細身ながら筋肉質な腕と錫杖のような槍を隠そうとはしていない。正体不明。だが、武装と言動から政府と敵対する立場だと推察するのは容易だった。
そして、その推察は確信へと変わる。
「脳ミソぶち撒けやがれェ!!」
青年が槍を振るい、巨大な火柱が立ち上がる。
その標的は生まれたばかりのブレインズだった。
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