第34話 霧崎わかち 5
天界製の車輌が道路を外れ、一段低い畑に落ちていってから、少女は消耗して木の枝のように擦り減ったガードレールの上から降りた―――。
というよりも、ガードレールが耐えきれず頭を垂れたというような有様だったが―――。
着地して膝曲げて屈む。今の一連で、彼女が負った負傷やケガらしきものはない。
教室で見かけた際からつけていた膝裏のガーゼくらいである。
「壊し、た……!」
あの、悪の手先———転生用トラックを壊した!
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ベコン、と音がして、ケーオは自分に、その矛先が向いたと知った。
終わっていない。これは、この、異常は。
この人間!
矛先、いやガードレール先を向けて。
ガードレールがまた来ている、三枚目ということか?
「ちぃ!来るか!」
何だこのダッシュは―――まさか黒瀬の仲間か!
ケーオは一瞬、その状況に混乱する。
神としての長命の中で関わってきた、数多の「転生歴」の中でも、確かにいたが―――つまり、女神に対して反撃を試みる者が、確かにいた。
無頼、無謀の民。
走り寄る、駆け寄る少女。
ケーオは―――!
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
もはや疑いようがない。
壊した―――狙って、あのトラックを破壊しやがった。
クラスメイトなのか?あれが。
黒瀬はワイヤー射出の目標を失い、放心していた。
出来ないことを見極める目も、優秀要素の一部であった。
今のあれは、自分に出来ない。
「ごほっ……!ぶふ」
少し咽てしまう。
驚き慄いて、開いた口、落ちたあごを地面に伸ばしていた。
逃げ回り、喉が渇いていたということもあるだろうか。
「けほっ……」
なんとも間抜けな自分が見つかる黒瀬だった。
未だに、彼の思考には、クラスメイトをトラックにひかれそうになっているクラスメイトを間一髪、助けるという妄想―――正しい妄想がくり広げられている。
落ちた顎の戻し方を、ようやく思い出した自分。
だがそんな想いはあくまで黒瀬の想いであり、少女は再び、次のガードレールをちぎって、抱えた。
黒瀬も男子としては小柄の部類だが、霧崎もそう―――身体が見えなくなりそうだ。
畳でも抱えているようなサイズ感である。
背後側面、肩の辺りに乗せて駆けていく少女。
しかし畳じゃない―――犬猫の如き、低い走りで―――もう、女神に接敵している!
ケーオが後ずさった!
あの炎上神が。
「ちぃ!来るか!」
いま起こっていることに、しかし当然のように反応する炎上髪の女神。
反応、対応———。
ケーオが腕を前に掲げると、左右からトラックが二台、発進した。
それも加速力がある―――そうだ、女神はまだ、終わっていない、健在だ。
火炎がトラックを包む。
二台の車線と来たら、小柄な少女を包むように、いや挟み込むように集結していく―――!
現代の火車が迫る。
二台が閉じるように少女を挟み込む様は、地獄の門のようだ。
しかし挟まれて潰されたのは、ガードレールだった。
また少女は跳んでいる―――クラスメイトが生き延びていることに、一応の喜びに思い至る間もなく、ケーオの前上で回転した。
炎で摩擦したばかりのガードレールも回転———地面に刺さっていない!
そのまま袈裟斬りの軌道で炎上髪の女神に斬り掛かった!
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