異世界転生のために女神が俺を轢殺しようとする!【長編】

時流話説

第1話 プロローグ 異世界からのトラック


 少女は少し小走りになり、駆けるローファーの表面に朝陽が煌めいた。

 自身が通っている高校に向かっているその少女は、血色のいい顔色をしていたが、駅が近づくと物憂げな表情になる。


 起床から間もない時間帯なこともあり、どこか眠たげである。瞳を細める少女は、どこか憂鬱な表情となる。


 学生としての生活に不安が溜まったか。将来に対しての心配か。はたまた理由などなくてもよいのか―――。真意は定かではない。

 瞳は細まる。

 自分は本当に、前途洋洋な生徒だろうか。


 踏切にたどり着く前の国道を通り終わる―――イエローとブラックの棒を眺め、駅入り口が見えてくる。

 駆けていく少女。

 田舎町の朝である―――、車どおりはまばらだった。それでも駅に歩んでいくと、時折、車音は増える。

 前方の信号が青になったことを確かめて、少女は横断歩道に侵入した。


 その時、道路上に光が煌めく。

 虹が丸い―――少女はそう思ってみている。

 円形の虹のようなものだった。物体というよりも、蜃気楼のような現象に見え、綺麗だな―――というくらいの考えで眺めている。


 その円から出てくる金属があり、少女の方へフロントライトを向けていた。

 全体が出てくる。

 銀色の貨物車輛、二tサイズのトラックだった。


「———えっ?」


 蜃気楼の奥から、疑問を覚えた後も、状況は続いた。

 きゃきゃきゃ、とタイヤの音が住宅地に響いた。

 振動による残像をなびかせつつ、トラックはブレーキ音を悲鳴のように響かせ続ける。

 衝突され、宙を舞う身体。

 


 少女の方は、最後まで悲鳴をあげなかった。そのまま虹色のトンネルに飛ばされ、吸い込まれていった。

 虹色の空間に、吸い込まれていく―――。


「———さあ、来世が待っているわ」


 純白の羽衣を纏う女だった。

 あまりにもゆっくりと歩いていく。

 しずかに消えて行った虹色の亀裂ゲートを眺めながら、呟いた。

 それは今しがた轢殺されたと見られる少女を鼓舞するようでもあった。


「異世界転生と、あなたの新しい人生が始まるのよ」


 何ら心配することはない、というような想いを込めて呟いたのち。

 天に指を掲げ、日光を遮り―――指の先に光る指輪が、小さくまたたく。

 満足気に呟いたあと、女神は空へと向かって跳躍し、それが飛行になったかと思うと、その姿を消した。



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