双子は魔女の夢の中

佐倉有栖

第1話

「一生カコと顔を合わせないですむ方法があれば良いのに」


 そんな愚痴を彼女にこぼしたのは、カコと大喧嘩をした翌日だった。

 目の前に座る金色の髪の少女が、大きな翡翠色の瞳をパチパチとさせ、可愛らしく首を傾げる。


「カナちゃんとカコちゃんって、双子なのに仲悪いよね」

「双子だからだよ!」


 何度も聞いた言葉に、思わず語気が強くなる。


「生まれたときからずっと一緒で、何でもかんでも二人で一セットみたいに扱われるの、本当に嫌なんだから! アリスみたいに、一人っ子なら良かったのに!」


 頬を膨らませ、唇を尖らせた顔が面白いのか、アリスが華奢な肩を震わせながら笑い声をあげる。


「そうだなあ、カナちゃんが望むなら、願いを叶える魔法をかけてあげる」


 ひとしきり笑って満足したのか、アリスが悪戯っぽい表情で私の瞳を覗き込んだ。

 絵本の中から抜け出してきたかのように美しい少女に真正面から見つめられると、何となく居心地が悪くて目をそらしてしまう。


「魔法って、おまじないみたいなもの?」

「違うわ。魔法は魔法よ。おまじないみたいに、可能性を願うものじゃないの」


 魔法は絶対


 唇の前で人差し指を立て、囁くような声でアリスがそう呟いた。

 彼女ならできそうだという予感が半分、魔法なんて現実的じゃないと否定する理性が半分。

 直感よりも論理を優先した結果、私は軽い気持ちでアリスに頼んだ。


「いいわ。その魔法をかけて」

「それじゃあ、願いを言って」


 アリスの細く冷たい指が、私の手に触れる。よく磨かれた爪は桜色で、ネイルはしていないはずなのに、爪の奥にうっすらと金色の丸い模様が見えた。


「カコと一生顔を合わせないですみますように」




「あーあ、カナと顔合わせないですむ方法があればなあ」


 思わずそんな愚痴を呟いてしまったのは、カナと大喧嘩をした翌日だった。

 目の前に座る金髪の少女が、困ったように首を傾げる。


「今度の喧嘩の理由はなに?」

「大したことじゃないんだけどね」


 そういって言葉を濁したのは、喧嘩の原因が私にあったから。彼女に言ったら「それはカコちゃんが悪いよ」と正論を言われてしまうから。

 そう、いつだってカナは正しい。成績だって私より上だし、運動だってできる。身長はカナのほうが高いのに、体重は私より軽くて、胸は彼女のほうが大きい。

 生まれたのだって、カナが先だ。数分の差とはいえ、カナが姉で私が妹、それは変わらない。

 今回のことだって、カナの注意はもっともなことだった。それを子供っぽい逆切れで返して、結果喧嘩になった。

 私が謝れば、きっとカナは許してくれる。たった一言、ごめんねと言えば良いだけ。

 分かってはいるけれども、その一言をひねり出すのが難しい。

 先に謝ったら負け。カナにだけは負けたくない。そんな変なプライドが邪魔をして、素直に口に出すことができない。


「あーあ、一生顔を合わせないでも良い方法があれば良いのに」


 いつか謝らなければいけないと分かっているからこそ先延ばしにしたくて、思わず言ってしまった。


「カコちゃんがそう願うなら、魔法をかけてあげる」


 アリスの提案に思わず飛びついてしまったのは、もし本当にそんな魔法があるなら、カナに謝らないですむという打算が半分、魔法なんてあるわけがないと軽く考えていたのが半分。


「凄い素敵な魔法! ぜひかけてほしいよ!」

「いいよ、かけてあげる。さあ、願いを言って」


 アリスが手を差し出し、何も考えずに握る。彼女の手は小さくてヒンヤリとしていた。


「カナと一生会わないですみますように」

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