あっけない別れ
@rabbit090
第1話
分かってんなら早く言いなよ、私は彼にその先を促した。
「待ってって。置いていくなよ。」
「置いてない。」
私は苛立っていた。
誰に?
誰にも、自分に?いや、どうなのかな。
私はただ、まっ直ぐに進んでいた。
言葉通りにさっさと、真っすぐに。
目的は単純だ。
私と、彼は生き延びたい。
何から?
いや、事情があるんだよ。てか、男女が二人いるからって、恋愛にはならない。なぜなら、彼は私の息子なのだから。
「お母さん、って呼んでいいの?」
「呼べよ。」
自分より年上の禿げた(父親に似ている)、息子を私は、待ちたくなんかない。だから急いでいるのだ。
「あれ、違う?」
「ああ、そうかもしれない。」
私と彼は、飲まず食わずでどれほど、歩いたのだろうか。
やはり食事をとらないと、体は持たない。けれど仕方が無かった。食べるものなどない、それはもう、世界の常識になっていた。
最初に息子を見た瞬間は、ドン引きした。
最悪、おっさんじゃん。
でも、私はこの子の小さい時を全く知らない。私は生みの親で、育ての親ではない。
私は、一人ほっぽり出された。
寒い外の中を、精神を殺しながら歩いている間は、ろくでもないことばかりを考えた。
そして、私はついに、楽園を見つけた。
彼と、息子とその父親、そしてその家族という地獄から、私を救い出してくれたのは、夫だった。
けど、死んでしまった。
殺されてしまった。
夫を殺したのは、彼の父親だ。ありきたりだけど、男って、そういう生き物なのかもしれない。
私は、許せなかった、はずなのに、今、こうやって憎むべき男の子供(将来の姿…)と連れ立って歩いている。
それもこれも、私達は今、絶賛、巻き込まれている。
私を、冷たい視線のまま、ここに突き落としたのはきっと、彼の父親、である。
でも、私はなぜか、そこで幻かもしれないけれど、私の息子である彼と、こうやって歩いている。
最初はもしかしたら私、死んだのかな、なんて思ったけれど、違った。
私は、この世界に来た瞬間から理解していた。
ここは、彼の作った場所なのだ。
多分、私と離れて、彼の父親(クソ野郎だ!)とともに過ごすうちに、ここを、作ったのだろう。
私には分かる。
けど、私は分かりたくない。
母性なんていらない。(そもそもおっさんじゃん!)
助けるつもりなんて無い、けど、胸が痛かった。
私は生き物なのだ、弱い弱い、生き物。
そして私の息子も、こんなおっさんな姿になっているけれど、きっとそう。
でも、私は愛するつもりはない。
愛、を捧げる境界線を、超えるのは、夫だけだ。
白々しいけれど、私は、この世の中で、夫だけを愛していると誓っているのだから。
あっけない別れ @rabbit090
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