第223話 反省会

 223 反省会


 フェルと手分けをして後片付けを始める。使った道具は一度バッグに入れて僕は水場で洗い物をする。

 バケツとかあるといいかも。水は下水に流せばいいし。

 簡単な洗い物はその場でやりたかった。


 洗い物を済ませたらフェルの手伝いをする。とは言ってもそんなにやることはなかった。

 簡単に屋台の周りの掃除をしていたらホットドッグ屋のトビーと焼きそば屋のジョージさんが声をかけてくる。

 手にはそれぞれの屋台の料理を持っていた。


「ケイ、おつかれ様。すげえ行列だったな。あんな行列、串焼きのじいさんでも出来ないぜ」


「友達が呼び込みしてくれたからだよ。明日はもうちょっとうまくやるね。行列邪魔だったでしょう。ご迷惑かけてすみませんでした」


「気にするな。行列のおかげで人が集まってうちの店もいつもより客が入ったくらいだ。ああ、これ、うちの料理、よかったら食ってくれ。ジョージさんも焼きそば持ってきたからそれも食ってくれよ」


「ジョージだ、さっきは忙しくて何も相手ができなくてすまなかった。うちの焼きそばだ。遠慮なく食べてくれ。しかしハンバーグか?あれは美味い食いもんだな。王都から来たのか?」


「王都の食堂で僕、働いているんです。その食堂の名物料理がハンバーグなんですよ。こっちにはちょっと旅行に来てて、帰るまでまだ2週間くらいあるから屋台でもやってみようかなって、この場所がちょうど空いてたし、なんか成り行きで決めちゃったんですけど」


「そうか、きっと王都には美味い料理がたくさんあるのだろうな。おっとお客さんだ。それではケイ。これからよろしくな」


 そう言ってジョージさんは店に戻った。

 意外と落ち着いて話す時は丁寧な言葉を使うんだな。見た目通りの荒っぽいおっちゃんだと思ってた。


 ジョージさんの焼きそばをフェルといただく。いわゆる塩焼きそばで、しっかりとした出汁の味がする。今まで食べたことのない味だ。


「美味しい!これ美味しいよ」


「だろ、ジョージさんの焼きそばは人気があるんだぜ。オレのも食ってみてくれよ」


 トビーがホットドッグもどきを渡してくる。


 ホットドッグもどきはパンにソーセージを挟んで上にトマトソースをかけたものだ。

 美味しいことは美味しいのだけど、ちょっともの足りない。


「どうだ?親父はパンとスープを売ってたんだ。オレが引き継いでからこの料理を出してる。ホットドッグって言って、ギルドで公開されてるレシピを研究して作ったんだぜ。でもなんか納得してないんだよな。なあ、ケイ、なんか工夫できるとこは無いか?もっと美味しく作れると思うんだよな」


 ホットドッグのレシピはすでにあるのか。じゃあケチャップのレシピはどうなってるんだろう。そう考えた瞬間、なんか解った。

 

 そうだ。レシピが生まれた場所が違うんだ。

 完成型を知らなければ2つのレシピを関連づけて考えたりはしない。

 ケチャップのレシピは多分王都でマルコさんが仕上げてる気がする。

 ホットドッグのレシピはこの領都で作られて登録されたものなのかも。

 簡単に僕は2つを結びつけて考えていたけど、実際はそうじゃないこともあるんだ。


「そしたらね。このトマトソースはもっと煮込んで水分を飛ばした方がいいよ。ケチャップっていうソースみたいなのが商業ギルドで登録されてると思うんだ。そのケチャップっていうのを使えばソースも流れにくいし、食べやすくなると思う。野菜も入れたほうがいいかな、荒く千切りしたキャベツとか。キャベツをさっとバターで炒めてソーセージの下に引くんだ。タマネギを薄く切って入れてもいい。みじん切りにしちゃうのも食感が出て美味しいよ。ケチャップを簡単に説明すると、煮詰めたトマトソースにお酢をちょこっと入れたものなんだ。お酢を入れてから煮込むと酸味が飛んじゃうから、火を止めて最後に少し入れるといいんだ。一度レシピを見て研究してみるといいと思う」


 トビーはうんうんと頷いて聞いている。


「それでね、ちょっとピリッと辛いソースもお好みでつけてもらうんだ。マスタードって言うんだけど、市場にあったから明日買ってきて作り方教えてあげるね」


 帰ったらやってみる。とトビーが言う。

これで美味しいホットドッグが完成したら嬉しいな。


「トビーのパンってさ、もしかして北の通りの真ん中くらいにある店で買ってるの?」


 パンの味が僕たちが仕入れたパン屋の味に似てると思った。


「あー、実はそこオレの家なんだ。店のパンは今は親父とおふくろが作ってる」


「え?うちのパンそこで買ってるんだよ。パン屋をやりながらトビーのお父さんって屋台もやってたの?すごいね」


「やってたっていっても、昼から夕方くらいまでの短い時間だけだったけどな。最初は親父は戦後の炊き出しをやってたんだ。そのまま流れで屋台になって、親父は儲けなんて度外視で人助けみたいに屋台をやってた。パンとスープで銅貨2枚。安いだろ。誰でもここにくれば安い値段で飯が食えるようにしたかったらしい。だけどだんだんと復興が進んで、みんなが金を稼げるようになってきて、もうそんな時代じゃないだろって話になったから、親父はパン屋に専念することにしたんだ。それをオレが2年前引き継いだってわけなんだ」


「なるほどね。10年でここまでの街になるってすごいよね」


「ケイ、いろいろ教えてくれてありがとな。明日も頑張ろうぜ」


 そう言ってトビーは店に戻る。


 なんだかロイのことを思い出しちゃった。お土産を買って帰らなくちゃ。


 フェルと後片付けをして屋台を返しに行き、一度宿に戻って反省会をする。

 もちろん果実水をエドさんのところで買って帰った。果実水を受け取ってから1個だけ残しておいたハンバーガーをエドさんに渡した。


 部屋に戻ってメモを見ながら、改善点を紙に書いていく。


 仕込みのスピードを上げる。


 必要な道具の準備。


 準備中の看板を作る。


 最初の呼び込みをしっかりやる。


 途中で氷が切れても、補充できるよう多めに用意する。


 行列の改善。


 フェルから出たのはこんな感じ。


 お釣りをもっと渡しやすいように銅貨と大銅貨、銀貨の袋を分けたい。


 髪の毛が料理に落ちないよう頭巾のようなものが欲しい。


 お茶が途中で間に合わなくなりそうになった。


 けっこういろいろあるな。

 とりあえずはもう少しいろいろ買わなきゃいけないな。


「ゼランドさんのとこみたいに手広くやってる商会ってないかな。料理道具ももう少し買い足したい」


「商業ギルドで聞いてみれば良いのではないか?今から入金にいくんだろう?」


「なるほど、フェル。それいいね。聞いてみよう」


 商業ギルドで今日の売り上げを入金する。

 

 150個で銅貨750枚。

 お釣りで銅貨は多めに持っていたかったから、銀貨で7枚入金して端数の50枚は大銅貨で入金する。

 

 オーク肉がかなり安く手に入るのもあって普通よりもかなり原価率は下げられてる。今日の利益は銀貨4枚とちょっと。

 だってホーンラビットのお肉の値段とオーク肉が今はほとんど変わらないんだ。


 担当してくれた受付の人に、調理器具や文房具などいろいろ扱ってる商会がないかと聞いてみた。中央の西側にある商会が比較的手広くやってるということなので行ってみることにした。


 商会の中に入ると棚にいろんなものが置いてある。

 調理器具は入ってすぐのところにあった。


 大きめのヤカンを2個、整形したハンバーグを置いておけるバット、計量カップ、金属製のボウル、今日の作業で足りなかったと感じた道具をとにかく買い足した。


 文房具を探していると店員さんがきて、どうぞお使いくださいと買い物カゴを渡してくれる。

 文房具がどこにあるかと聞くと2階にあると言う。


 2階に上がるとさまざまな文房具が置いてある。

 

 あ、これ多分マジックペンじゃない?

 文具の係に聞くと試し書きさせてもらえた。

赤と青と黒、3色買った。

 多分チェスターさんのタマゴに印をつけているのはこのマジックペンだと思う。

 ノートとメモ帳の中間みたいな冊子を2冊、財布に使える革袋があったので3つ買う。


 番号札のようなものを作りたいんだけどな。


 一階に戻って、さっきカゴを渡してくれた店員さんに、作りたいものを説明して

木札のようなものがないか聞いてみる。

 奥の方に案内されると木材が並んでいた。


「お客様のご要望に合う木札のようなものは在庫としては残念ですが当店では持っておりません。ですがご要望を聞くに、大きさをきっちり揃えなくとも良いのではないかと思います。たとえばこの端切れの板を使って必要な枚数分切り出せば、比較的お安く用意できるかと。厳密に大きさを指定するわけでなければすぐに職人に頼んで切らせますがいかがでしょうか?」


 いいかも。多少不揃いでも構わないし。


「それでお願いします。大きさは大体コレくらいで」


 そう言って指で5センチくらいの四角を作る。

 店員さんはポケットからメモ帳を取り出して僕に渡してきた。


「こちらに大体でけっこうですので寸法を書いていただいてもよろしいですか?」


 店員さんに教えてもらいながらだいたい手のひらに収まるくらいの長方形の寸法を書いて、失敗するといけないから多めに60枚お願いする。


 調理師用の頭巾のようなものはないか聞いてみたけど、残念ながら衣類の取り扱いはないそうだ。


 切り出してもらった札はきちんと同じ大きさで揃えられていた。

 板の違いで多少厚さや色が異なっているけど特に気にしないのでこれで会計をしてもらった。


 全部で銀貨2枚と銅貨20枚。王都で普通に買ったらこの倍かかるだろうな。物価が安いってありがたい。


 商会を出てぐるりと中央を一周してみる。

 いくつか布を扱う店はあったけど。フェルがこの店がいいかもしれないと言ったので布を扱うその店に入った。


 綺麗な柄の布が店の中に並んでいる。


 端切れコーナーみたいな、中途半端な大きさの布が箱の中に入って売っていた。


 2人でいろいろ引っ張り出して選ぶ。

ちょうど良い大きさの、赤いチェックと青いチェックの布を見つけ、これを買うことにした。

 看板に使ったような厚めの生形の布も端切れで置いてあったのでそれも買うことにする。

 準備中、とか書いてもらって立て看板に被せておこう。


 フェルが頭巾にする布の端を縫いたいと言ったので針と糸も買う。


 あとはパン屋とマリーさんの肉屋に言って発注の変更をしなきゃ。


 いろいろ明日のために準備をして、宿に戻ったのは日の沈むころだった。


 ガンツが帰ってくるまでちょっと作業しようかな。


 フェルが頭巾を縫っている横で、木札の角をナイフで削っていく。

 ときどきフェルと目があって、そのたびにお互いになんだか笑ってしまう。


 1から50まで木札にマジックペンで数字を書いた。

 買ってきたノートにも数字を書いていく。

 配った木札の数字に注文した数を書いておけば木札と引き換えに商品を渡せる。

 そう言う仕組みを作ろうと思っている。

 

 そんなことをしていたら誰かがドアをノックする。

 ガンツが帰って来た。


「すぐ降りるから先に行っててー」


 そうガンツに声をかけて手早く片付けをした。

 フェルもちょうど縫い終わったみたい。


 下に降りるとけっこう混んでいた。ガンツを見つけて席につく。


 今日は何にしようかな。


 宿でもお米が食べられるようになったので魚の塩焼きにしてもらおうか。

 サラダはこの海鮮サラダにしようかな。量ってどれぐらいなんだろう。

 あとはスープでいいかな。


 フェルは今日はお肉にするそうだ。オーク肉のステーキ。

 ガンツもそうするらしい。


 メニューを閉じるとその冊子に手書きのメニューが挟まれてることに気づいた。

 ガンツに聞いたら前から挟まっていたぞと言う。


「おそらく今日のおすすめってことじゃろうな。この前の刺身も手書きのメニューに載っておったぞ」


 えー、もっと早く教えて欲しかったよ。

 

 今日のおすすめはチキンのトマト煮か。

 あと秋刀魚の塩焼き。

 んー迷うな。


 オススメのメニューを見つけてしまってどうしようか悩んでいるとガンツがもう店員さんを呼んでしまった。


 ガンツとフェルは先にさっさと注文してしまう。

 サラダの大きさを聞いたらだいたい2、3人分の量だと言う。

 ガンツとフェルに頼んでいいか確認してサラダを注文。

 まだ迷ってる。どうしよう。

 店員さんにチキンと秋刀魚どっちがオススメか聞いてみると、今日はとてもいい鶏肉が手に入ったと教えてもらった。滅多に手に入らないからオススメだと店員さんが言う。

 チキンのトマト煮をお願いした。


 ガンツに今日あったことを話す。

 

「あっという間に完売したんだよ?すごくない?」


 そう自慢したら、そんなもの当然だとガンツは全く驚かない。もっと売れるはずだと言う。


「明日は一応250個にしたんだけどどうかな?」


「おそらく足らんぞ。またすぐ売れ切れてしまうに決まっとる」

 

 うーん。でも300個の仕込みってちょっと自信ないんだよな。

 せめて前の日に仕込みができたらいいのに。

 

 そう言ったらガンツが、状態保存の箱を作ってくれると言う。状態保存?それって時間停止ってこと?と聞くと、そうだとガンツが普通に答える。


「明日は仕事はほとんどないからの。弟子に教えるいい機会じゃ。こっちの鍛冶屋の教育も今回のワシの仕事に含まれておるからの、ちょっと手間がかかるが、1個くらいならなら良いじゃろ。材料費で銀貨3枚じゃが良いか?」


 こういう準備のお金も含めて商売をしていかなくちゃいけないんだよな。

 状態保存の箱って定価だといくらするの?

 成り行きだったけど社員になって良かった。


 ガンツに欲しい大きさを伝えて作ってもらうことにする。


 ガンツに何かお礼しなくちゃいけないねと言うと、そのうち依頼主をお前の屋台に連れてくから、そのてりやきハンバーガーをご馳走してくれと言われた。


 ガンツは明後日から3日くらい泊まりがけで近くの街に出かけるそうだ。


 依頼主……そうかぁやっぱり会わないといけないのかぁ。






 









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