第222話 きっかけ

 222 きっかけ


 最初にエドさんの奥さんのところに出来上がったてりやきバーガーを持って行った。挨拶して自己紹介する。

 奥さんは「やっぱりあなたたちだったのね、エドから聞いてるわ」そう言って笑顔で答えてくれた。


「これ僕たちの商品で、てりやきハンバーガーっていいます。よかったら食べてみてください」

 

 そう言ってハンバーガーを渡した。お返しに果実水をご馳走してくれると言うので、慌てて昨日買ったマイコップをマジックバッグから取り出した。


 その隣、ホットドッグの屋台と果実水の屋台の間の屋台は焼きそばっぽい料理を出す店だった。

 頭をタオルを巻いて忙しそうにおじさんが焼きそばを焼いている。


「おう、ご丁寧にありがとな、ちょっと今忙しいからそこに置いといてくれ。あとでいただくよ。これからよろしくな。にいちゃんたちも頑張れよ」


 忙しくしてたからちゃんと挨拶できなかったけど、頭にタオルを巻いた無精髭のおじさんはいい人みたいだった。


 ホットドッグ屋のお兄さんにも、手伝ってくれたお礼を言ってお茶とハンバーガーを渡す。


「わかんないことがあればなんでも遠慮なく聞いてくれ」


 そうお兄さんは言う。

 フェルは反対側のスープ屋のおじさんにハンバーガーを渡しに行った。

 

 もう一つ隣の明石焼きの店には2人で行った。

 以前に買いに行ったフェルのことをおじさんは覚えていたみたいで、とても驚かれた。


「そんなに気を使わなくていいんだぜ」


 そうおじさんは言ったけど、あとで感想を聞かせて欲しいのでぜひ受け取ってくださいとお願いしてハンバーガーを渡した。


 屋台に戻るとホットドッグのお兄さんに声をかけられる。


「うまいよ!これ。ハンバーガーっていうのか?にいちゃん。こんなうまいものオレはじめて食べた。これだけうまけりゃ絶対売れるぜ。ジョージさんも焼きそば焼いてないで食ってみなよ。すごいぜこれ」


 お兄さんは隣の焼きそば屋さんにも大きな声で伝えた。


「うるせえなトビーわかってるよ。これ焼いたら食うから落ち着けよ」


「あったかいうちに食った方がいいと思うぜ。ジョージさんの焼きそばなんて目じゃないから」


「うるせえって言ってんだよトビー、お前はお前の仕事をさっさとしろ!」


 その様子を見てなのか少しずつ人が集まり始める。

 遠巻きに眺めて、買うべきなのか迷ってる感じだ。


 ハンバーグに少し火を通して置いておこうと僕はハンバーグを焼き出す。匂いに釣られて買ってくれるといいな。


 フェルが、冷たい麦茶のお代わりをホットドッグ屋のお兄さんに渡す。


「え?お茶は無料なのか?そんなんでやっていけんのかよ。しかもこれ冷えてんじゃねえか」


「ちゃんと儲けが出るようにしてるから大丈夫ですよ。そのお茶、麦茶って言うんですけど、けっこう安く手に入るんです」


「なるほど、ちゃんと考えてるんだな。にいちゃん若えのに大したもんだ。オレはトビーって言うんだ。敬語なんていらないからこれから仲良くしてくれ」


「ありがとう、トビー。僕のこともケイって呼び捨てにして。今日が初日だからいろいろあわててしまうことがあると思うけどこれからよろしくね」


「ああ。よろしくな。ケイ」


 トビーが笑顔で答える。


「なんだこりゃ!すげえうめぇじゃねえか!なんだこれ?」


 ふたつとなりの焼きそば屋さん、ジョージさんが突然叫ぶ。


「だからさっき言ったじゃねーかジョージさん。焼きそばなんて焼いてる場合じゃないって。あぁ、あの隣の親父はジョージさんってんだ。ここじゃ古株の1人だぜ。このあたりは場所がいいからな、昔からやってる人が固まってるんだ。オレは親父の後を継いだから変わらずここで商売ができてるんだけどな」


「へー、そうなんだ。そういえばこの場所を使ってたのは串焼き屋さんだって言ってたけど、その人も昔からやってるの?」


「ああ、その場所の主はここで一番の古株だ。けっこういい歳のじいさんでな、戦前から店をやってる。先月、腰をやっちまってな。今は療養中だ」


「回復魔法は効かないの?」


「まぁ聖女様の魔法だったらなんとかしてもらえるかも知れねーが、じいさんももう年でな。普通に回復魔法かけても痛みが取れなかったらしいんだ。それで2ヶ月の療養中ってことさ」


 なるほどね。コルセットとかあればいいのに。


 そう話してる間に周りの店にどんどんお客が入っている。

 僕の屋台にはまだ少し遠巻きに、眺めている人がちらほらと。みんな最初に注文する勇気がないみたいだ。

 1個でも売れたらみんな買いそうなのにな。

 なんかきっかけが欲しい。

 

 そう思っていると、シドたちのパーティがやってくるのが見えた。


「おーい、ケイ、フェル。どうだー?売れてるかー?」


 ジンが手を振りながら近づいて来る。


「こんにちは、フェルちゃん。どう?お客さん来た?」


 そう言うのはロザリーさん。


「それがまだ1個も売れてないんだよー。どうしたらいいかなー」


「そりゃあお前、とにかく呼び込みだぜ、ちょっと食ったらオレが手本を見せてやるから、とりあえず4つ。ジンの奢りで頼むわ」


「なっ、またお前は。まあいい。パーティの金から出すからな。ケイ、4人分作ってくれ」


「まいどありー。フェル、みんなにお茶配ってあげて」


 僕はさっき火を通したハンバーグを鉄板の上に置き、温まったところで蒸し焼きにする。


「おっ、なんだこのお茶無料で配ってんのか?よく冷えてんじゃねえか」


 シドが驚く。


「すぐできるからお茶飲んで待っててねー」


 フェルの用意したパンにたっぷりとタレをつけたハンバーグを次々乗せていく。

 フェルと呼吸を合わせて手早く4つのハンバーガーが完成した。


「はい。お待たせ。お茶のおかわりは自由だよ。もう1杯いる?」


 シドとワズのコップは空だった。

 フェルがお茶のおかわりを注ぐ。


 みんな一口食べて、その後目を見開くと夢中で食べだした。


「どう?美味しいでしょ。小熊亭のとは少し違うけど、これもハンバーグだよ」


 シドが何か言いたそうにしてるけど、口の中がいっぱいで、上手く話せない。


 食べ終わってみんなが揃って、ため息をつく。

 ほんとこのパーティ息ぴったりだな。


「ケイ!なんだこれ!すげえうめーじゃねえか!」

 

 シドが叫ぶ。


「ケイ。もう1つ作ってくれ」


「オレにもだ、ケイ、オレはもう2個頼む」


 ワズとジンが屋台のカウンターに飛び込んでくる。


「あたしももう1個お願い」


 ロザリーさんまでおかわりだ。けっこう大きめなんだけどな。


「ありがとう。全部で5個ね。さっきの分と合わせて銅貨45枚。あ、半銅貨、じゃあ銅貨5枚のお釣りだよ。お金はフェルに渡してね」


 それをきっかけに遠巻きに見ていた人たちが次々と買いに来る。


「いらっしゃいませー。王都で人気のハンバーグだよーっ。今日は初日だから銅貨5枚でいいよー」


 一度お客さんが入ってくれば、呼び込みもしやすい。すぐに行列ができていく。


 フェルが「こちらサービスです」と愛想よくお茶を配りはじめた。


「さあいらっしゃい、王都名物ハンバーグ。期間限定で領都で販売開始だ。食べられるのは今だけだぞー。今日は初日。なんと銅貨6枚が今日だけ銅貨5枚で販売だ。早くしないと売れきれちゃうぞー。さあみんな並んだ並んだ」


 シドが呼び込みをしてくれてる。

 行列がどんどん長くなる。


 そこからはもう戦争だった。

 お茶のサービスはナタリーさんがやってくれてジンとワズがコップの回収に回る。


 トビーのホットドッグも順調に売れているみたい。なんだかんだとトビーは1人で上手く回してる。


 僕は次々とハンバーガーを作っては渡して作っては渡すを繰り返す。

 フェルはお茶を追加で作ったり、会計をしたりと大忙しだ。


「ケイ、氷を入れてくれ!」


 フェルが言う。

 合間を見て氷を出した。


 パンは残り、50個とちょっとか。

 え?もう100個近くも売れたの?まだ午後1時過ぎなのに。


「やあ、ケイくん。すごい行列だね。大繁盛じゃ無いか。私にも1個くれるかな」


 デイビッドさんがきてくれた。


「いらっしゃいデイビッドさん。おかげさまで大忙しです。お茶がそこに置いてあるので自由に飲んでください。すぐ出来ますので。今日のお代はいりません。僕たちからの感謝の気持ちです」

 

 デイビッドさんはやかんからお茶を入れて噴水のところに腰掛けた。

 行列もなんとかしなきゃいけないな。並んでるからみんなお茶のおかわりを取りに来れないよ。


 デイビッドさんのところまで出来立てのハンバーガーを持っていく。

 急いで戻るとザックがいた。


「すげえ繁盛してんじゃねーか、希望の風のやつら手伝いに使ってるのか?さっきジンに聞いたぜ、とにかく2個、騙されたと思って頼めって。銅貨10枚な。ここ置いとくぜ」


 ザックは呼び込みをしているシドのところに言った。

 ハンバーグあと何個残ってるんだっけ。


「フェル!パンの残りはあと何個ある?」


「ケイ、残り20個だ!」


「シドーっ!材料がなくなりそう。呼び込み終わりー!」


「フェル、ここはいいから列に並んでる人の注文聞いて!それで20個超えたらそのあとの人に謝って、帰ってもらって!」


「わかった。行ってくる」


 フェルが素早く屋台を飛び出し、行列のお客さんに注文数を聞いて回る。


 ザックが戻ってきたので出来上がり2個を渡した。

 ザックは屋台の後ろで食べている。


 あ、デイビッドさんがいつの間にかいない。感想聞けなかったな。


 午後2時を回る前に、用意していたパンは完売。

 あまったお肉は適当に焼いて、手伝ってくれたシドたちに出してあげた。


「すげえなケイ。大繁盛だぜ、明日はもっと用意してもいいんじゃ無いか?」


 ザックが僕らの休憩用に用意してた丸椅子に座る。


 シドとワズがどこからか人数分椅子を持ってきた。

 屋台の後ろでみんなでお茶を飲む。


「一応150個用意したんだけどね。今、午後の2時でしょ。後1時間は売りたいから、明日は200個にしてみようかな?」


「甘いぜケイ。今日買ったやつも買えなかった奴らも明日きっとまた買いに来る。300個でもきっと余裕で売れるぜ」


「さすがに今日の倍の量をいきなり作るのは大変だよ。とりあえず250個で様子を見てみて、作業がこなれたらもっと増やせるかもしれないな。とにかく今日はバタバタしてたから。反省するところも多かったし。フェルはどうだった?疲れた?」


「うむ。さすがに少し疲れたな。しかし楽しかった。あっという間だったな」


 充実した顔でフェルが言う。少し額に汗がにじんでる。


「じゃあ俺たちはこれで帰るぜ。これから明日の準備だ。明日は俺たちあの森の東の方を探索に行くんだ、あの砦に一泊してな」


 シドが椅子を片付けながら言う。


「気をつけて行ってきてね。あぁ、今日はみんなありがとう。すごく助かった。また今度食べにきてね」


「オレはまた明日も来るぜ。そうだ、明日はもう1人連れてくるからな。ラッセルっていうやつなんだ。明日は休みにするとか言ってたから連れてくるぜ」


「うん、よろしく。今日はありがとねーみんな」


 シドたちが帰っていった。


 後片付けをしたらフェルと今日の反省会かな?




 









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