第201話 ご馳走様 2024.7.15 加筆修正
201 ご馳走様 2024.7.15 加筆修正
ギルドマスターの部屋を出て、受付のカウンターに向かう。
ギルドカードの更新をしてもらって僕たちはこれでCランクになった。
これでウサギ狩りって二つ名も消えるといいけど。
ん?待って。二つ名って消えないんじゃない?何かあったら別の名前で上書きされるだけじゃん。
そう思うとオーク狩りとか、オーク殺しとかになるよりマシか。
……なんかもうウサギ狩りでもいいような気がしてきた。
よく考えたらそのまんまじゃん。
ギルドの横は食堂になっていて、お酒も飲める。食堂に入るとみんなが拍手で出迎えてくれた。
「よし、乾杯するぞ」
シドが立ち上がって言う。みんなもう先に飲んじゃってるけど。
僕とフェルはあまりお酒が飲めないから果実水だ。
シドが椅子の上に登ってビールのジョッキをかざす。
「みんな揃ってるかー?酒の無いやつはさっさと注文してこい。よし、いいな」
みんなが一斉にコップを上に掲げる。
なんかちょっと迫力があるな。
「では、我らの守護神、奇跡のような射手とその女神のような美しい守り手に、いくぞ!乾杯!」
「「「乾杯!」」」
「守護神と女神に!」
守護神って。だから神の目じゃないって。みんなが僕らの背中をたたいてくる。馬鹿みたいに力が強いからむせそうになっちゃう。
フェルは確かに女神様みたいだけど、僕に守護神はないだろう。
いろんな人が杯を合わせにきて食堂の中でもみくちゃにされた。
やっと落ち着いたところで空いてる席にフェルと腰掛けた。
「今日はジンの奢りだからな、遠慮しないで食えよ」
ニヤリと笑いシドが言う。
「おい何言ってんだみんなで割り勘だろ?さっき決めたじゃねーか、ケイとフェルの分はみんなで割ろうって」
ジンさんが慌てて言う。
「ギルマスからさっき言われたじゃねーか、みんなに渡される特別報奨金の他に、特に貢献した者3名にさらに追加で褒賞金が出るって」
シドさんが悪びれた様子もなくジンさんに諭すように言う。
「まずケイは決まりだろ?お前はリーダーじゃねーか、絶対もらえるに決まってんだろ。昔からお前言ってたじゃねーか、そういう浮いた金は仲間と飲んでさっさと使っちまった方がいいって。おーい、みんな、リーダーが今日の会計全部払うって言ってるぞー!メンバーへの感謝の気持ちだそうだ。じぁ改めてチームを支えたリーダーのジンに!乾杯!」
「ご馳走様でーす!」
みんなが一斉に杯を上にあげる。そしてみんな全部飲み干しておかわりを注文してる。
なんて統率が取れたチームなんだろう。
違うか。リーダーはジンさんのはず。
「シド!お前覚えてろ!オレはもうリーダーやらねーからな。次お前やれよ!」
シドは何食わぬ顔でビールを飲んでいる。
みんないい人たちでよかったな。
とにかく必死でやってみてよかったよ。
報酬は2日後の昼にギルドの会議室に集合してみんなで受け取ることになった。
オークの装備品や素材を売ったお金もそこで分配するとのこと。
夕方になって、みんなは場所を変えてまだ飲むみたいだけど、僕とフェルは帰ることにした。
みんなに挨拶をして、僕たちは夕暮れの領都を2人、手を繋いで歩いて帰った。
朝は活気があったけど夕方の領都は静かで道を行き交う人もまばらだ。
屋台は暗くなる前に店じまいをする店が多いのか、後片付けをする人たちの姿が目にとまる。
そして夕方から営業を始めるのだろう。開店の準備をする人たちがいて、ちょうど入れ替わるように中央の通りの雰囲気が変わっていく。
「ねぇ、フェル。明日は何をする?何かやりたいことってある?」
宿への帰り道、どちらからともなく自然に僕たちは手を繋いで歩いていた。
恋人繋ぎってわけじゃないけど、優しく、お互いがお互いの手を握り、歩いた。
「とりあえず洗濯をしなければな。けっこう溜まっているし、あとは……なんだろうか。とりあえず買い物かな。ケイも食材を買わねばならんのだろう?マジックバッグも空になってしまったからな」
「うん。褒賞金も入ることだし、この際いろいろ仕入れちゃおうかな?王都に帰る時にまたいっぱい買うとは思うけど、日持ちのするものなんかはいいのがあれば買っちゃっていいのかもしれないね。あと、タオルとか、石鹸とか細かいものも買いたいかな」
「うむ。私も同じようなものだ。では午前中はゆっくりとすることにして午後は買い物に行くとしよう。昼に私は屋台の串焼きを食べてみたいぞ」
「お、いいねー。じゃあ中央の屋台でお昼食べようか。いろいろ買って分けて食べよう」
「楽しみだな、ケイ」
「そうだね。楽しみだね」
宿について荷物を下ろす。装備を解いて動きやすい服に着替える。
思ってたより疲れてたみたい。だらしなくベッドに寝転んだ。
フェルは先にお風呂に入った。
しばらくゴロゴロしてたけど、ガンツの部屋に行ってノックをする。お腹が空いたのだ。返事はなかった。ガンツはまだ帰ってないようだ。
まだ夕方だからな。仕事中か。
部屋に戻って果実水でも作ろうかなと思ったけど、マジックバッグの食料は使い果たしてしまっていたことに気づく。
なんとなく手持ち無沙汰だな。何か作ってないと落ち着かなくなってる。
フェルのために水差しに氷を入れておいた。
洗濯ものをまとめておこう。いっそのこと宿の人に頼んでしまおうか。洗濯の料金っていくらだろう?
そしてバッグからフェルの剣を出して手入れをする。
しかしこの剣、丈夫だな。刃こぼれひとつないよ。
もともとギルドに置いてあった錆びた剣を、木刀の代わりになるだろうって売ってもらったんだよね。格安で。
ガンツの作品だって後から知ったけど。
言ってた通り決して折れない頑丈な剣だ。さすがガンツ。
砥石で軽く研いで、油を塗っておく。
ちゃんと手入れをしていれば一生使えそう。
いい買い物をした。
あの頃ほんとにお金がなかったからなー。
剣をしまって椅子の上で体を伸ばす。
剣の手入れが終わったころ、フェルが風呂から上がってくる。
「剣の手入れをしてくれたのか、助かる。ありがとうケイ」
「ガンツの剣が優秀だから全然手間じゃなかったよ。刃こぼれもなかったから、ちょっと研ぎ直して油を塗っといた。じゃあ僕もお風呂に入ってくるね」
着替えをマジックバッグから取り出して、僕も汗を流すことにした。
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