第198話 砦の朝

 198 砦の朝

  

 日が昇るころ目が覚めた。

 昨日はお互いに抱きしめ合いながら眠った。


 フェルを起こさないようにそーっと腕を抜こうとしたけど、やっぱりダメだった。

 いつものようにフェルを起こしてしまう。


「おはよう。フェル」


「おはよう。ケイ」


 布団の中で優しく短いキスを交わした。


 着替えて先にテントの外に出て体を伸ばす。


 砦の朝の空気は少しひんやりとしていて、秋が来たんだと実感する。


 鍋に水を入れて、コンロに火をつけた。

 大鍋で2つ分、米を研いでいく。もうこれでお米もおしまいだ。


 みんなはまだ寝ているようだ。

 壁の上に1人と門の前に2人、見張りの係の冒険者だろう。


 コーヒーがあと少し残っていたなと思って見張りの人たちのためにコーヒーを淹れることにした。

 領都では普通に飲まれているのかな。お砂糖入れた方がいいんだろうか?


 そうしてるとしっかりと身支度を整えたフェルが出てくる。


 そうだね。僕も革鎧くらいつけよう。なんだか僕だけキャンプに来てるみたいに見えるから。


 装備を整えて、フェルにコーヒー淹れるけど、お砂糖いくつ入れるか聞いてみた。

 スプーン2杯。Vサインと共に返事が返ってくる。


 人数分のコーヒーを入れて、そのうち3つを見張りの人たちに持っていく。

 見張りの係はザックさんとワズさん。もう一つのパーティのリーダー、たしかミックさん。


 お疲れ様ですと言ってコーヒーを渡す。

 ザックさんは飲んだことがあるらしいけど、他の2人は初めてみたいだった。


「目が覚めて、いいなこのお茶」と、なかなか好評。お砂糖は全員入れた方がいいとのこと。


 戻ってフェルと一緒にコーヒーを飲む。


「フェル。お味噌汁の具がもうなくてさ。

ちょっと森で採取してこようと思うんだけど。付き合ってくれる?」


「いいぞ、ケイ。だがこの周辺だけだぞ。森の奥はまだ何がいるかわからんからな」


「東のあの大きな木の下にアサツキが生えてたんだ。たぶんそんなに奥じゃないでしょ。大丈夫だよ」


 コーヒーを飲んだら出かけよう。


 ザックさんに、お米を炊いているコンロの火を見ててもらって、味噌汁の具を取りに行く。

 食べられるキノコがあったのでそれも採りながら目的地に向かう。


 僕が登った大きな木の下はちょっとした原っぱになっていて、アサツキがところどころに生えていた。


 そういえばロープがそのままだった。

 フェルは木登りができるとのことなので、回収を任せて僕はそのアサツキを摘み取った。


 早くしないとみんなが起きてきてしまう。ある程度摘んだらまっすぐ帰る。


 戻ると何人かは起きてきていた。

 あいさつをして、自分のテントに戻る。

 ザックさんにお礼をいって、鍋を確認する。うん。炊き上がるまであと10分ってとこかな。


 寸胴鍋を2つ使って味噌汁の用意。

 オーク肉を小さく切って中に入れ、キノコも洗って適当に切って入れた。

 浅葱は刻んで、最後に入れるからとりあえずお皿に乗せて置いておく。


 フェルがテントの撤収を終わらせて作業する僕のそばに座る。

 たまに目があってお互いちょっと微笑んだ。


 おにぎりの用意をしよう。

 マジックバッグに手を入れて、浮かんでくるアイテムを頭の中で確認していく。


 あ、ふりかけがあった。あとは……胡麻?もうマジックバックの中に食料品の在庫はほとんどない。


 ごはんが炊けたようだ。

 コンロの火を止めて少し蒸らしておく。


 テーブルの上に炊き上がったごはんの鍋をおいて、ふりかけを少しずつかけ、優しく混ぜる。


「フェル、昨日のテーブル持ってきてくれない?誰か捕まえて一緒にいくといいよ。けっこう大きなテーブルだったし。」


「わかった。テーブルは1つでいいのか?」


「うん。できたものを置いておくだけだから、1個で大丈夫」


 空いたコンロで麦茶を作る。


 おにぎりを作る支度をしていたらフェルとシドがテーブルを持って戻ってきた。


「シド、おはよ」


「おう。おはよう。なんだ?朝飯まで用意してくれんのか?ケイ」


「うん。僕らだけ食べるわけにもいかないからね。結局、僕が食べたいなって思ったら全員分作らなくちゃいけないんだよ」


 それもそうだな、と言ってシドは笑った。


 やかんのお湯が沸いたので火を止めて、持ってきてもらったテーブルの上に置く。


 手持ちのカップとお椀を重ねて置いておく。冒険者たちは自前の食器を持っているけど、騎士の人たちは持ってきてなかった。

 なので昨日は持ってた食器を貸してあげたのだ。


 フェルと2人でおにぎりを握っていく。フェルもなんだかんだでおにぎりを握るのも上手くなった。なんかいいな。こういうの。


 お金がたまったら2人でおにぎりの店とかやろうかな?

 でもけっこうたくさん握らないとダメだよね。

 100個?いや、500個くらい握らないといけないかな?おにぎりだけだとつらいかも。なんかおかずも用意しないと。


 みんな起き始めて撤収作業を始めている。


「おーす。ケイ、お茶くれねーか」

 

 ジンさんが寝癖をつけたままやってきた。


「お茶はそのやかんに入れてるから勝手にやってね。食器はできるだけ自分たちのを使ってくれると助かるよ」


「おう、わかった。ありがとな」


 ジンさんがコップを取りに自分のテントに戻る。

 中央の建物の中からシドが戻ってきた。


「中はオークのにおいが充満してるぜ。こりゃ一回浄化かけてもらった方がいいな。治癒士の子、ナンシーだっけな。ちょっと探してくるわ」


 そうこうしてる間におにぎりを作り終えて、数を数える。

 うん、1人2個は行き渡るな。自分たちの分はとりわけておこう。


 味噌汁を仕上げて、さあ開店。

 店じゃないけど。

  

「おにぎり1人2個まででーす」


「お味噌汁もありまーす。食器は持参でお願いしまーす」


 まるで炊き出しだな、これ。


 でもなんか楽しいな。みんなが笑顔で食べてくれてる。


「ケイ、このおにぎりってやつもっとねーのか?2個じゃ足りねーよ」


 ジークさんが言う。


「ごめんねー、これでお米も最後なんだー。もう材料が空っぽ。味噌汁の具もさっき森で採ってきたくらいなんだよ」


 そういうとジークさんは周りの冒険者からたしなめられる。

 大体タダでメシを作ってもらえてるのに文句言うな、とか、年下にたかってんじゃねーとか、ジークのくせに生意気だとか。

 足を蹴られたり、頭を小突かれたり。

 

 楽しそうだ。


「たしか3個余るはずだから、食べたい人はみんなで話し合ってくださーい」


 とたんにざわざわしだす冒険者たち。


 この国にもジャンケンのようなものがあるみたいで、みんなで輪になってやっている。

 その間にフェルと朝ごはんを食べた。


 ジャンケンの勝者はシド、ザック、そして金属鎧のベン。

 ベンの勝利の雄叫びがうるさい。


 僕が後片付けをしてる間にみんなは砦の探索を始めた。

 シドは食事の前に浄化作業を済ませたようで、匂いのせいで気持ち悪くなる人も出なかった。


 かなり獣臭かったからな、あの中。


 テーブルどうしたらいいかな?と聞くと、その辺に放置でいいんじゃねーかと言われる。


 流石に雨ざらしというわけにもいくまい。

 フェルと2人で適当に建物に入れていく。火の始末も確認して、準備完了、と思いきや、ジンさんがきて、水筒に入れるお茶を用意して欲しいと言われたので。やかんで3つ分お茶を作る。

 せっかくなので冷たい方がいいだろうということで、濃いめに煮出して氷を入れることにした。


 外の確認に出ていたフェルたちが戻ってくる。

 回収し忘れた死体や武器を拾いに行ったのだ。

 シドが来て興奮気味に話す。


「ケイ、最後に打った矢はなんだったんだ?森の木がえぐれてたぜ。何本か木もぶっ倒してたし、バリスタ以上の威力だったぞ」


「あの魔法の弓のせいだよ。気配察知と組み合わせて撃ってみたらものすごい勢いで魔力が吸われてさー。5発撃ったらもう限界だったよ。あんな魔法の武器ってオークに使えるの?危ないよあの武器」


「メイジ以外のオークは魔法が使えねーからな。多少は威力が上がってたかもしれんが、おそらく使いこなせてはいなかったんだろうな。ん?ケイ、気配察知と組み合わせたってどういうことだ?」


「気配察知して周りの空間の様子が頭の中に入ってくるじゃない。それを見えてる景色と重なるような感じにしていくんだ。そしたら、なんていうの?透視?森の中のオークの気配が透けて見えてるみたいな感じになって。その感覚を逃さないように気をつけながら撃ったんだ。そしたらグワって弓に魔力が吸い取られちゃって、一気に魔力切れだよ。弓に魔力が吸われるのに抵抗する余裕がなかったんだ」


 それを聞いたシドは声を潜めて言った。


「ケイ、そのことはもう誰にもいうな。お前だけのスキルってことにしておけ。そいつはヤバい技術だ。その技術が広まったらおそらく軍事利用される。見えない敵にも遠くから攻撃できるってことだからな。フェルもいいな。うっかり誰かに話すんじゃねーぞ。俺ももう忘れるからな。いいな」


 シドがあんまり真剣にいうので、うなずくことしかできなかった。

 そうか、これはみんなが当たり前にできることじゃないのか。気をつけよう。


「ありがとう。シド。なんかシドには教えられてばかりだね。冒険者の師匠だ。先生ってお呼びした方がいいかな?これから」


「何言ってんだ、俺より弓がうめーくせに。言ったろ、俺たちは仲間だ」


「そうだね、シド。仲間には敬語なんて使っちゃいけないよね」


「そうだ。よくわかってるじゃねーか」

 

 そう言って2人で笑った。


 建物内の探索も終わり、みんな揃って帰路に着く。


 帰り道は取り立てて何もなかった。

 ホーンラビットや他の動物の気配が少し戻ってきてるようだった。


 ギルドに戻ったのはちょうどお昼ごろ。

 混雑もないので、みんなで手続きをする。

 

 そのあとギルドマスターからパーティごとに呼ばれて今回の討伐の報告をすることになった。


 僕たちは最後だ。


 隣の酒場で待ってるからな、とみんなは報告が終わった順から酒場に移動していく。


 僕たちの番になり、受付の人に案内されて部屋に入り、冒険者ギルド領都支部のギルドマスターと面会をする。



 

 











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