第195話 ほめすぎ
195 ほめすぎ
新しく切った肉を持ってバーベキューコンロの方に向かう。
「追加のお肉でーす。みなさんまだ食べられますよね?」
とたんにみんなから歓声がわく。
少し火の調整をして追加の肉を焼き始める。もっと野菜とか持ってくればよかったなー。でもこんなことになるとは思わなかったしな。ただのゴブリン討伐のつもりだったし。
焼けたそばから肉がなくなっていく。
「これで酒でもあればなぁ」
「言うなよ、飲みたくなっちまうじやねーか」
話しているのはジグザグコンビのジークさんとザックさん。そして最後にオークキングのひざを撃ち抜いた斧使いのたしかダリルさん。
「野営でこんなうまいもん食えるなんて信じられねーや」
「ケイ、マジックバッグの中全部、料理道具が入ってたってほんとか?討伐のたびにこんなうまいもの食ってんのか?」
「もううちらのパーティにこいよ。そんでうまい飯作ってくれ!」
「普段は討伐依頼なんて受けないんだよ、冒険者って言えるほど冒険者の仕事してないし」
「でも王都ではものすごい数のホーンラビットを狩ったんだろ?それでお前の二つ名、ウサギになったって言うじゃねーか」
「あ、俺も聞いたことがある、王都には一日千匹のホーンラビットを倒すすげえやつがいるって」
「一日千匹は大げさだよ。そんなに狩ってないし。フェルと2人で100匹くらいなら狩ったことあるけど。僕に二つ名なんてないから。ただのあだ名だよ。ホーンラビットをいつも狩ってくるから、みんなが僕のことをウサギって呼ぶんだ」
まぁ本当は500匹くらいはあるけど。
「ばか、それでもすげーよ。100匹なんて探し回っても見つかんねーぞ普通」
「簡単だよ。ホーンラビットが好きそうなエサを撒くんだ。ちょっと柵とか作って出てくるとこを限定すれば、100匹なんてすぐだよ」
「おい、そんなこと簡単に教えていいのか?冒険者はあんまり手の内をあかさないもんだぜ」
「別に大丈夫だよ。王都の南支部には狩りのやり方を公開してるし、そのうちこっちでもやる人が出てくると思うよ。ホーンラビットはすぐ増えるし、みんながいっぱい狩ってくればお肉も安くなるし。第一僕がホーンラビット狩るのは炊き出しするときだけだから」
「炊き出しなんてやってんのか?お前?」
「最初に王都に着いたとき、とにかくお金がなくてさ。スラムにテントを張ってフェルと暮らしてたんだよ。少しお金が稼げるようになったから、近所の人に料理を振るまうことにしたんだ。けっこう勉強になるし、楽しいんだ」
「今もそんなにお金ないから、炊き出しに使う肉は自分たちで狩ってくるんだ」
「お前、そんなにお金ないのか?」
「ないことはないけど、貯金してるんだ。いつか自分で食堂開きたいから」
「肉以外の食材って、ケイが持ってきたんだろ?大丈夫だったのか?金払うぜ、俺たち」
「いいよ、いいよ。領都に着いたとき、いろんな食材を見てさ、思わず衝動買いしたやつなんだよね。どっかで使わなきゃと思ってたからかえって良かったよ。おかげでマジックバッグの食材は空になったけど」
「あ、お肉足りてる?シドが結局、3体もオーク解体しちゃったからまだまだあるよ?」
「お、あればあるだけ食うぜ。にしてもうめーな、このタレか?こんなに美味いの初めて食ったよ」
「醤油って言う調味料を使ってるんだ。タレはちょっと試作みたいな感じになったけど、気に入ってくれたんならよかった」
「あの騎士団の奴らはまだ食うんじゃねーか?特にあの金属鎧の、たしかベンってやつだ。あんだけ食えば、ぶっ飛ばされても怪我しねえ体になるんだな」
「あー、オークキングにふっとばされてた人だ。上から見てたよ。あの人すごいよね。すぐ起き上がって向かってくんだもん」
「あ、ジークさんも最後すごかったね。
オークキングの兜をうばうなんて誰が考えたの?」
「あーそれはザックの思いつきだな。魔法が効かねーってジンがイライラしてたからな。ザックが騎士団の近くにいたやつ捕まえて、じゃあやってみようぜってことになってよ。言い出しっぺのザックはハエ叩きくらったけどな」
「ジークが俺を囮にしたからな。飛ぶ直前で少しタイミング遅らせたろ、わかってんだからな。飛ぶ瞬間思ったぜ。叩かれるのは俺なんだろなって」
「まーいいじゃねえか上手く行ったんだし」
「おかげで僕の矢も刺さったし、助かりました」
ザックさんの武器はオークキングのハエ叩きをまともに受けた時壊れてしまった。
すごいなぁ、あの一瞬でいろんなやりとりがあったんだ。
他の人の話も聞きたいな。
「ちょっと騎士の人たちのところにもお肉持って行ってきます」
そう言って、焼けた肉を皿に持って僕は騎士たちのテーブルに向かった。
「こんばんはー。追加のお肉持ってきましたー」
「ケイ殿!これはかたじけない!この焼き肉、というのは素晴らしいですな。いくらでも食べられます」
そう言ってどんどん食べていくのは金属鎧のベンさん。
違うぞ。焼き肉は飲み物じゃない。
「お前、少しは遠慮ってもんがないのか?」
マルスさんは呆れた顔でベンさんの食べる様子を見ている。
「他の方たちも食べてます?えーと……」
「カインだ。マリス班長の下で働いてる」
「ロジャーです。同じく2班に所属してます。今回の援護の射撃、感謝してます」
「モーリスだ。1班の班長をしている。こっちは野うさぎ。同じく1班だ」
「班長!紹介の時くらいちゃんと名前で呼んでください!リサです!1班で伝令係をしてます」
「いやなんかな、呼び慣れてしまうといまさら名前で呼びづらくてな。こいつ騎士団で一番足が早くてちっこいから野うさぎって呼ばれてるんだ。さっきまでこいつには城まで報告に行って来てもらってたんだ。早いぞ、こいつの足は」
「へー、僕もウサギって呼ばれてるんですよ。仲間ですね」
「あら、あなたも足が速いの?」
「いや、僕は王都でホーンラビットばっか狩ってたら、いつのまにかそれだけでDランクになっちゃって。王都の冒険者はみんな僕のことウサギって呼ぶんです」
「あの弓の腕でホーンラビットしか狩ってないのか?お前ならもっと強い魔物も平気で狩れるだろ」
カインさんが言う。
「いや、僕は王都では普段食堂で働いてるんです。オークなんて1人じゃ絶対倒せませんよ。秒殺されます」
「気づかれない場所から矢を放てば狩り放題だと思うけどなぁ。料理人か、それで今日の料理はこんなに美味いんだな、そういえばトマトの煮込みを差し入れてくれたのも君なんだって?あんなに美味いホーンラビットの料理食べたことなんてないよ。それでか、なんだか納得した」
「そうですね。騎士団の食堂で働いて欲しいくらいです」
ベンは相変わらずまるで飲み物のようにお肉を食べている。
ちゃんとよく噛まないとお腹壊すぞ。
ちょっと抜けて、魔道コンロとフライパン、まだ焼いてない肉を持ってきた。
「リサさんさっき戻ってきたってことはあんまり食べてないですよね。こっちで肉焼きますね」
「そうなのよ、あの筋肉バカが、バカみたいにバカバカ食べるから、全然食べられなくって」
「今焼いていきますからどんどん食べてくださいね」
「ありがとう。そうそう、あなたのこともきちんと報告しておいたからね。凄腕の弓使いのおかげで損耗はなく、みんな無事で討伐出来たって。辺境伯様もあなたに一度会ってみたいっておっしゃってたわ。うちの辺境伯様は滅多に人を呼びつけたりしないけど、さすがに今回は呼ばれて表彰されたりするかもね。ご褒美ももらえるかも」
「絶対嫌です。そういうの断っても大丈夫ですかね?」
「断っても多分辺境伯様は気にしないと思うけど、いいの?ご褒美もらえるのよ?」
「褒美なんて要りませんし、あまり貴族の方とは関わりたくないんですよ。本当に」
「そうねー。下手に城にきて、うちの団長とかに捕まっちゃったらややこしいことになるかも。辺境伯様は良い方なんだけど、私たち騎士団の団長も含めて、取り巻きの貴族がね、ちょっと厄介な奴もいるし。そのあたり辺境伯さまにはちゃんと話しておくわ」
「それがいいかもな。下手にあいつらに目をつけられたらいろいろマズイことになるだろう」
マリスさんがうなずく。
「うちの騎士団はちょっと訳ありでな。ほとんどの団員は領都の平民出身なんだが、団長と副団長は貴族なんだ」
話を聞くと、もともと騎士団は、戦争中義勇兵として参加していたものたちや、そのとき戦っていた兵士たちが志願して結成されたのだそうだ。
ところが、復興するにあたって、辺境伯様は各地の大貴族から多額の借金をしたらしい。
お金を貸した貴族たちは、自分のところの次男や、三男を送り込み、辺境伯領の主な役職は貴族で固められてしまってるそう。
騎士団も、大事な役職を平民に任せるなどとんでもないとされ、団長以下隊長クラスまでは貴族籍をもつ人たちで構成されてるんだそうだ。
基本的にその人たちは無視されて、大事な任務は辺境伯さまから直接指示を受けて、いくつかの班に分かれて動いてるらしい。
「まぁ、隊で行動するような事件なんてそうそうないから、なんとかやってるよ。今回も隊長無視して、直接辺境伯さまのところに飛び込んだからな、モーリスやうちの班のメンバーで固めて、迅速な行動が取れたのはそのおかげだが、きっとおれは戻ったらなんらかの処分を受けるだろうな」
「なんでですか?悪いことしてるわけじゃないじゃないですか」
「さすがにこれだけの討伐になると上層部も黙ってないと思うんだ。なぜ報告しなかったーとか絶対言われる。あいつら手柄だけは欲しいからな」
「でもまともに報告したらきっとあいつら金属鎧で固めて、森の中なのに馬で来ましたよ。到着するのに丸一日かけて」
ロジャーさんが言う。
「そうなんだよ。今回は時間をかけたくなかったしな。人数は増やしたかったが、あまり大げさに動くとあいつらにバレる可能性があった。装備も動きやすい革鎧にしたかったし、隊長がいたら革鎧なんて着させてくれないからな。それで、辺境伯さまには俺も含めて5人で行かせてくれとお願いしたんだが、辺境伯さまが野うさぎも連れて行けっておっしゃってな。これは辺境伯さまの優しさだと思ったよ」
「優しさですか?」
「ほんとにやばい場合、野うさぎを辺境伯さまのところにとばして救援を呼べば、緊急事態ということにして、辺境伯さま直々に出陣できるようになっていたと思うぞ。そしたら強引に精鋭部隊を編成してすぐに応援にこれるからな」
なるほど。いろんな事情や制限がある中で、これが最大限の援助だったんだな。
「そんなことになったら貴族の連中、金属鎧着込んで汗だくになって走ってましたね。それも面白いな、班長、わざと援軍呼べばよかったじゃないですか」
カインさんが楽しそうに言う。
「あの人たち革鎧など平民のつけるものだ、そんなもの着て戦いになど出られぬ!
とか絶対言いますからね。汗だくになって走ってきますよ」
「え?じゃあベンさんも貴族なんですか?」
僕はどんどん肉を飲み込んでるベンさんを見た。
「いや、あいつはただのバカだ。最近なんか生意気だから、今回あいつの革鎧は用意しなかった。今回の討伐もわざときついとこ任せたし。お仕置きなんだ。本人はお仕置きだとわかってないから効果ないんだけどな」
マリスさんが笑いながらそう言った。
「最後オークキングの槍を受け止めた時、モーリスさん、ベンに、お前ぶっ飛ばされろって指示してましたからね。あいつバカだから、わかりましたって即答して、後ろから俺とモーリスさんを支えて、反動を全部受けてぶっ飛ばされて」
「あれはあのときそれが一番いいと思ったからで、いじめたわけじゃないぞ。その方が確実にあの槍を受け止められると思ったからだ。オレはマリスみたいな陰険なことはやらん。だが、あいつはバカだが頭の回転は早いぞ。オレが言ったことを瞬時に理解して後ろから支えたからな、バカだからそこでためらわずにいけるんだけどな。まぁ、あいつは頑丈だし、いいやつだ」
「そうだな。バカだけどな」
「ええ、バカですけど」
「バカだからケガしないんですかね」
「バカだからよ。バカは風邪もケガもしないのよ」
ひどい言われようのベンは、今おかわりの肉を取りに行ってる。
なるほど、最後にあの槍を止めたときはそんなやりとりがあったのか。
なんかすごくチームワークがいいな。この人たち。仲がいいのが伝わってくる。
「ところでケイ。お礼を言うのがまだだった」
マリスさんが立ち上がり、僕に頭を下げた。
「あのとき命を救ってくれてありがとう」
「気にしないでください。みんなの援護が僕の仕事だったんですから、僕はその役目を果たしただけですよ」
マリスさんが頭を上げ座り直す。
「辺境伯さまからは絶対に一人も死なさず帰ってこいと命令されてたからな。あれで死んだら命令違反になるところだった。もっとも死んだら命令違反なんか関係ないのだろうが。ソルジャーがケイに倒されたとき、私は神の目の技を見た気がしたよ」
「なんですか?神の目って。たしかシドも言ってたな」
「神の目って、伝説級の弓の達人の二つ名ですよ。10年前の戦争で、領都を救ってくれた英雄の一人です」
ロジャーさんが教えてくれる。
「オレとマリス、それからケインもだな、あのとき義勇兵だった奴らはみんな神の目に助けられて今があるんだ」
モーリスさんも義勇兵だったらしい。マリスさんがその時のことを教えてくれる。
「あのとき帝国軍一万人が領都を囲んで攻めてきていてな。辺境伯さまは本陣に特攻をかけたんだ。あのとき帝国軍は、占領した街の人間を兵士にして、とにかく数を増やしてた。だから本陣に特攻して、正規兵を倒してしまえばこの戦いは終わると判断してな。ただ、特攻してる間は、義勇兵たちだけで街の防衛をしなきゃならなかった。神の目と呼ばれたその弓使いは街に迫る正規兵だけを次々に射抜いていったんだよ。それに義勇兵や、街の人間が殺されそうになるとどこからともなく矢が飛んできて、助けるんだ。ほんとに神様が空から見て、私たちを救ってくれてるような気がしたよ」
「マリスさん、僕はそんなすごいことしたわけじゃないですよ」
「いや、まさに今回のケイは神の目と呼ばれてもいいくらいの働きだった」
「カインさんもやめてください。ほめすぎです。街の人って何千人とか何万人とかでしょう?今回なんて30人もいませんから、そんなすごい達人と一緒にしないでください」
「そうか?もしケイがどこかの騎士団にでも入れば、英雄にだってなれると思うけどな。うちの騎士団がまともだったら絶対勧誘してるぞ」
モーリスさんが大真面目に言う。
「そうだな、うちの上層部、腐ってるからな。借金がなくなればあいつらすぐにでも排除できるのに」
こんなにいい騎士が揃ってるのに、騎士団としてはあまり良くないみたいだ。
その後、みんながさんざん僕のことを褒めるので、居心地が悪くなり。
後片付けがあるから、と言ってその席を離れた。
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