第194話 できることを

 194 できることを

   

「えー。みなさまのご協力とその奮闘を持ちましてー。この度オーク砦の攻略に成功いたしました!誰一人欠けることもなく、重症者も出さずに討伐を終えられたことをとても嬉しく思っております。今回はありがとうございました!乾杯!」


「「「かんぱーい!」」」


 ジンさんの音頭で、焼き肉パーティが始まった。酒はないので、ゴップの中身は水かお茶だけど。


 最初に炊けたぶんのお米をおにぎりにし終わったころ、フェルが僕のところに飛び込んできた。優しく抱きとめてフェルの頭を撫でてあげる。


「おかえり。フェル」


「ただいま。ケイ」


 ちゃんと手を洗っておいて良かった。


 そのあとゾロゾロと砦に入ってくる冒険者たちが、いつのまにかちょっとしたパーティ会場のように様変わりした砦の光景を見て、みんな固まってしまっている。


 ジンさんが口をあんぐり開けて、目を見開いて立ち尽くしていた。


 実は、負傷したり、離脱してきた人たちが、治療や休憩のあとに会場作りを進めてくれていたのだ。

 テーブルの配置、皿の用意など、細かい仕切りはシドに任せて、僕は食事の支度を進めていった。


 みんなが戻ってきてからが忙しかった。


 返り血や埃を浴びてみんな汚れている。

 これでは食事ができないということで、水の生活魔法で洗ってあげた。


 フェルもやってもらいたそうにしていたが、そこは女子は女子同士でやってもらうことにしてもらう。


 全員が綺麗になったところで、今回のリーダーであるジンさんより乾杯の音頭をとってもらって今に至る。


「うめぇなあ、この肉!なんの肉だ?」


「バカ、オークに決まってるじゃねーか」


「このタレが美味いんだよ。ギルドの前の串焼き屋より美味いぞ」


「この薄く切られた肉、中が赤いけど大丈夫なのか?」


「なんかしっかり火を通しているから大丈夫らしいよ」


「このおにぎりってやつうまいな。米?米って家畜のエサじゃねーか」


「ちゃんと料理したらおいしく食べられるらしいぜ」


「これケイが作ったのか?」


「なんかケイってほんとは料理人らしいぞ、王都の食堂で働いてるらしい」


「冒険者じゃないのか?ホーンラビット狩ってたんだろ?」


「うむ。そうなのだ、ケイの仕事は料理人で、休みの日はスラムで炊き出しをしているのだ。ホーンラビットを狩るのは、その炊き出し用の肉を得るためにやってるだけだな。自分で狩ってきたほうが安上がりだし美味いのだそうだ」


「フェルさーん。ケイの王都の店ってどこー?」


「小熊亭という食堂で、場所は南ギルドから5分くらい歩いたところだな」


「あーあたし行ったことあるかもー。たしかハンバーグって料理出すとこよね?」


「そうだ、クライブという腕は良いが顔の怖いマスターがいて、その人のところでケイは今修行中なのだ」


「えー、会ったことないなー。いつから働いてるの?」


「もう少しで1年になるな」


「あーじゃあ会ってないかー。あたしが王都に行ったの2年近く前だし」


 ロザリーさんがそう言うと槍使いのジャックさんが会話に入ってくる。


「クライブさんって、もしかして鉄壁のクライブ?元Aランクの?」


「私はよく知らない。マスターが冒険者だったとは聞いてないぞ?」


「鉄壁のクライブと言う二つ名で、10年前の戦争のときには、領主さまと一緒に特攻部隊に参加してたらしいぞ。たしか引退して王都で食堂を開いてるって言ってたからたぶんそうだ」


 会場は盛り上がって、みんな楽しそうに食事をしている。


 いつのまにか日が沈みはじめて辺りは暗くなる。

 さっきまで激しい戦闘をしていた場所なのに夕暮れの砦はなんだか幻想的な雰囲気がする。


 シドが、倉庫から篝火を見つけてきて、薪をくべてあかりにしている。


 オークキングと死闘を繰り広げた場所だけど、今では幻想的な雰囲気の漂うパーティ会場だ。少し獣くさいけど。


 こうして笑顔でみんなで食事ができてほんとにうれしく思う。

 誰も死ななくてよかった。


 そういえばあの吹っ飛ばされてた金属鎧の人、大丈夫だったかな?

 探せば、会場の奥の方でひたすら肉を食べている姿が目に入った。


 もう少し肉を切っておこうかな?


 残りのオーク肉を保存箱から取り出し薄切りにしていく。部位はもうごちゃごちゃでよくわからなくなってるけど、これヒレ肉かなぁ。


 肉を切っているとお皿を片手にジンさんがやってきた。


「ケイ、今回は助かった。おまえのおかげで犠牲者も重傷者も出さずに済んだ。本当に感謝している」


 ジンさんはそう言って頭を下げた。


「やめてください!僕はは今回皆さんのお手伝いをしただけで、ただ指示通り動いただけです」


 頭を下げるジンさんを無理やり起こして、近くにあった椅子に座らせる。


「僕だけが安全な場所から、しかもフェルの護衛までつけてもらって、みんなは命がけでオークと戦っているのに。感謝されるなんてとんでもないです」


「俺は今回後ろで見ていることが多かったからな、だから余計にわかるんだよ」


 ジンさんは僕を真っ直ぐ見ながら、話を続ける。


「リーダーだからって、全部が全部うまくコントロールできるわけじゃないんだ。もっと指揮が上手くできる奴はいっぱいいるんだろうけど、どうしても手薄な部分は出てくるし、怪我をしても交代させられない場面も出てくる。みんなのそれぞれの危ない場面をいつも解決させたのはケイ、お前が放った矢だったんだぜ」


 やかんからコップにお茶を入れる。


「砦の中に入って、まずアーチャーを一撃で倒したことで、皆の生存率がかなり上がった。次にやっかいだったメイジも俺が見つけた瞬間にはもう倒してた。ずっと気になっていた左翼の戦力不足の問題も、その時かなり無理をしていたマリスのことも、ソルジャーにやられる寸前で助けてくれた」


 ジンさんにお茶の入ったコップを渡す。


「それも含めての作戦だったと僕は思ってます。僕は始まる前にフェルに言ったんです。このチームはなんかいい。みんながそれぞれ力を出し合って目標に向かって進もうとしてる。こんなに騎士と冒険者が協力し合えるなんて知りませんでした。だから僕も精一杯力になりたい、このチームの一員になりたいんだって。フェルはいつも僕が危ないことをするのを止めさせるけど、僕の気持ちを話したら、今回は黙って僕のしたいことをやらせてくれました」


 そうなんだ。安全なところから矢を放っていただけだけど、精一杯みんなの力になりたかった。


「……そんなチームを作ったのはジンさんの力があってこそで、だから……その、上手くいえないけど、僕は今回ジンさんの指揮で働けたことにとても感謝してるんです」


 照れくさそうにジンさんは僕が入れたお茶を飲んだ。


「この焼き肉パーティも僕からの感謝というか、僕も……みんなのために最大限、力になりたかったというか」


 できることを一生懸命やる。仲間だから。仲間になりたいから頑張った。


「結局僕はちょっと弓が上手かっただけのただの料理人です。オークなんて、面と向かって1人でなんて戦えないんです」


 そう言って顔をあげてジンさんの目を見る。

 今までずっと強くなりたいと思っていた。冒険者としての才能がなくても、せめてフェルを、自分の好きな人を守れるくらいの力が欲しかった。


 でもそうじゃないんだ。

 フェルは強い。僕は信じてその帰りを待てばいい。オークなんて1人で相手に出来なくたって、強い気持ちでフェルのことを想い無事を信じる。

 強さってきっと腕力だけじゃないんだ。

 そしてこんな僕でも誰かの役に立つことはできるんだって今回のことで実感した。


「……僕は弱い。フェルに憧れていろいろ頑張ってみたけど、僕は結局、誰かに守られていないと何にもできない。途中で魔力を使い果たして、できることが何にも無くなって。でもそれでもなんかしたいなって、みんなのためにできることはなんかないのかって。いろいろ僕なりに考えて、結局、ご飯を作って待つことにしました」


 マジックバッグの中の食材はほとんど全部使い切ってしまったけど、みんなが美味しそうに食べている様子を見ると作ってよかったと思う。


「無事に帰ってきて、みんなで笑いながらご飯を食べる。きっとジンさんもそのために頑張ってるんだと思って、なんか勝手に、ちょっと悪ノリして、結果こういう感じにしてしまいました。すみません」


「いや、こうしてみんなに料理を作ってくれてることにも感謝してるんだ」


「いやでも、おれたち外で一生懸命戦ってきたのに、お前ら中で何やってんのって思ったでしょ」


「それは……正直思ったけどな、だけどこういう風に戦闘をサポートするやり方もあるんだなと今は思ってる。あー、話が長くなっちまったな。ケイ、お前が参加してくれてよかったよ。また機会があれば一緒に依頼を受けよう。お前ら2人ならいつでも大歓迎だぜ。あ、この今日ケイが出してくれた食料の分は、ちゃんとみんなで割って返すから」


 そう言ってジンさんは去って行った。




 


 









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