第192話 オークキング

 192 オークキング

 

「キング出てきます!」

 

 上からケイの声がした。

 奥に強い魔物の気配がする。


「ジン!魔法打つよ!」


 ロザリーの叫ぶ声。


 少し間があって中央奥に火柱が上がる。しかし、すぐにオークキングの咆哮によりかき消された。


 通常のオークよりも2回り、いや、倍くらいあるのではないかと思える巨大なオークが槍を持って向かってくる。

 普通のオークキングよりでかいな。

 さすがに変異種ってことはないよな。そんな話聞いたことねーぞ。


 ケイが矢を放ったが、その硬い皮膚には刺さらなかった。


「ケイ!他のオークを狙え!あいつは俺たちに任せろ!」


「ロザリー!指揮は任せる!オレも前に出る!」


 ずっと後ろにいて、戦闘にあまり介入しなかったのはこのためだった。

 オークキングが出てくるまで体力を温存し、対処するため。


「ケガをした奴は一旦下がれ!立て直しだ!」


 金属鎧の騎士と目が合う。


「そこの鉄の鎧の騎士!お前まだ元気そうだからオレと来い!」


 その金属鎧の騎士は自分に向かってきている3体のオークをシールドバッシュで吹っ飛ばした。


 吹き飛ばされたオークにケイの矢が次々と刺さっていく。

 もうメイジもソルジャーもいない。

 それでもまだ20体以上のオークが残っているが、確実に敵の数は減っていた。


 怒り狂ったオークキングは巨大な槍を振り回す。

 何体か他のオークも巻き込み、強力な一撃がベンを襲う。

 その槍をまともに盾で受けたベンはそのまま吹っ飛ばされた。


 ゴクリとオレは唾を飲み込んだ。


 僕は物陰に隠れてその様子を見守っていた。

 オークキングに向かって行く金属鎧の騎士とジンさん。

 僕がいる防壁の上からは戦況が良く見える。


 オークキングの槍をその盾で受け止め、派手に飛ばされる金属鎧の騎士。

 それを見たジンさんの動きが止まる。

 

 巻き込まれるのが嫌なのか他のオークが下がり始めた。

 僕はそのオークたちに懸命に矢を打ち込む。

 

 頭が焼き切れそうだ。

 

 気配察知は戦闘が始まってからずっと使い続けてる。

 頭の中に入ってくる情報量が多すぎるんだ。頭の中心がずっとジクジクと痛い。

 けっこう限界かも。

 

 階段からオークの気配。


「ケイ!オークが登ってきた!」


 そう言ってフェルが走り出す。


 奥の階段からオークたちが登ってくるのが見えた。その数3体。


 先頭の1体の攻撃をいなしてフェルがその首に一撃。倒れるオークの後ろから別のオークがフェルに襲いかかる。

 

 そのオークの頭を狙い矢を放つ。放った矢はオークの眉間に命中してオークが派手に倒れた。

 頭痛をこらえて残りのオークを狙う。

 

 最後のオーク目掛けて矢を放った瞬間、パキッと音がして弦が切れてしまった。

 

 放ったその矢はオークにあたらなかったけど、それが牽制となってそのオークにフェルが止めをさす。


 ライツの弓が壊れてしまった。

 

 すぐにマジックバッグから最初に使っていた小さな弓を出す。だけどたぶんこれだとオークには通じないだろう。

 

 どうしようか。


 気配察知をやめてこれからどうするか考える。

 頭痛が少しおさまった。


 考えているとフェルが金属で装飾された立派な弓を持ってきた。


「ケイ、最初に倒したアーチャーが使ってた弓だ。使えそうか?」


 試しに引いてみるけれど、さっきまで使っていたライツの弓よりだいぶ弦の張りが強い。

 身体強化をしてようやく引けるくらい。


「連射はできないけど多分打てると思う。

ありがとう。これ使ってみるよ、フェル」


 弓の大きさはライツの弓とそんなに変わらないので持っている矢は問題なく使えそうだ。


「あれで練習するといい」

 

 フェルが森の方を指差す。


 見るとシドがゴブリンに囲まれていた。

 

 え?いつから?


「オークキングが現れる少し前からゴブリンたちが集まり出したのだ。今、シドがなんとか防いでる」


 えー、気づいていたなら教えてよ。そう思ったけど、僕もかなりいっぱいいっぱいだったから仕方ない。

 シド、なんかごめんね。


 新しい弓に矢をつがえ引き絞る。

 力いっぱい引くと体から何かが抜けていく感じがした。


 この弓、魔力を吸収してる?

 

 とりあえずその感覚を無視してゴブリンの集団に向け矢を放つ。


ピシュッ

これまでにない鋭い音を立てて放たれた矢がゴブリンの集団に突き刺さる。

 そして矢の当たった周りの範囲のゴブリンが吹っ飛んだ。


 爆発……した?


 思わず動きの止まるゴブリン、そしてシド、そんで僕たち。


 なんだこれ?


「バカヤロー!ケイ!そんなん撃つんならまず声かけろや!ビビっちまったじゃねぇーか!」


 シドがこちらに向かって怒鳴る。

 なんだ結構余裕あるじゃんシド。


「ごめーん!なんかよくわからないけどすごいの撃てたー!」


 ゴブリンを相手に素早く立ち回るシドに防壁の上から声をかける。


「ケイ、これがなんでここにあるかはわからんが、多分これは魔法武器だ。魔力が吸われる感覚はなかったか?」


「なんか力を吸い取られる感覚はあったよ。体から何かが抜けていくような」


「私も詳しくは知らないが、ダンジョンから出る宝箱の中から手に入る武器には魔力を吸収して力に変える魔剣というものがあるらしい。これは弓だから、魔弓ということになるな」


 そう言われて弓を眺める。

 よくわからないけど、とりあえず今はこれを使うしかない。


「ケイ、できるだけ魔力を抑えて撃ってみろ」


「わかった、フェル、シドに声がけよろしく」


「シド!アーチャーが持っていた弓が、魔法の武器だった!ケイがこれから矢を放つ!魔力の調整に慣れてないから、何度か撃ってみる、気をつけろ!」


「気をつけろって、そんなん言われて簡単にできるかっ!ケイ!後続の部隊を撃て!とにかく俺から離れたとこだ!とりあえずやってみろ!」


 弓を引いていくと徐々に体から何かを抜こうとする力に気づく。

 魔力吸われないように抵抗しながら弓を引く。


 ピシュッ


 当たったゴブリンの頭が吹き飛んだ。


 今度はもっと抵抗しながらできるだけ魔力を流さないようにして狙う。

 ピシュッ


 威力は抑えられたけど、ゴブリンには当たらなかった。

 魔力を抑えすぎるとそっちに気を取られて狙いがうまく定まらない。


「フェル、次強めに撃つよ」


「シド!次は強いのがいくぞ!」


「だから簡単に言うなって!」


 最初に打ったように何も抵抗せず、魔力が吸われるままに弓を引く。

 その魔力の気配を感じたのかシドがゴブリンから急いで距離を置く。


 ピシュッ

 ズドン!


 シドの前にいたゴブリンの集団が一気に吹っ飛んだ。


 大体わかって来た。

 シドが何か言いたそうにこっちを見てる。


 あまり強く魔力をこめると味方を巻き込む危険がある。

 少し抑えて、出し惜しみするくらいがいいのかもしれない。


「フェル!僕は大丈夫だからシドのところに行って!森からどんどん魔物が集まって来てるよ。たぶん森に散っていたオークたちも。きっとキングが呼び寄せてるんだと思う。この場所にいれば僕は平気だから。シドが抜かれちゃうと冒険者のみんながキングとハサミ撃ちにされちゃう」


 フェルは黙って僕の目を見つめていたが、やがて覚悟を決めたような表情をする。


「わかった。行ってくる。ケイ、危ないことはするな。それから魔力切れには気をつけるんだ。数は少ないがバッグにはマジックポーションも入っていたはずだ。少しでもフラフラしたなら飲め」


 そう言ってフェルは僕を抱きしめた。

 フェルからいい匂いがする。

 なんだか落ち着いてきた。


「大丈夫。フェル。終わったらみんなでオークの肉で美味しいご飯を食べよう。楽しみにしてて」


 フェルの顔がクシャッと歪んだ。


 かわいいなぁフェル。


「行ってくる!」


 そう言ってフェルは階段を駆け降りた。


 砦の中は変わらずキングとの戦闘が続いている。


 普通のオークの数はだいぶ減ったとはいえまだその数は多い。

 その中で、狙える奴から順番に狙いをつけ矢を放つ。


 ピシュッ

 ちょっと狙いが逸れてオークの腕が吹き飛ぶ。


 うーん。ちゃんと頭を狙わないと食べるとこ少なくなっちゃうな。

 気をつけよう。


 ピシュッ


 今度は頭に命中。オークの頭が吹っ飛ぶ。


 ピシュッ、ピシュッ


 ちょっと連射はきつい。休憩だ。


 でも2体ともちゃんと頭に当たった。


 下がってポーションを飲んでるジークさんや、マリスさんが驚いた表情でこっちを見ている。

 僕は気づかないフリをしてそっちを見ないようにした。


 すみません。練習中なんです。威力の調節ができません。びっくりさせてごめんなさい。


 マジックバッグから水筒を取り出し一気に飲む。深く深呼吸して残りのオークを殲滅していく。


ピシュッ!


ピシュッ!


 次々と倒されていくオークたちに気づいて、オークキングがこちらをにらむ。


 なんかかなり怒ってる。やばい!


 なんか嫌な予感がして急いでその場を移動して物陰に伏せた。とたんにオークキングから咆哮が発せられる。さっきまでいた位置の壁が衝撃で吹っ飛ぶ。


 おぉ、何これ、超怖い。


「ケイを狙わせるな!引きつけろ!」


 その声で下がって休んでいた騎士たち3人がキングに突っ込んでいく。

 マリスさんともう1人そして金属鎧の人。


 振り払われる槍を盾を持った3人が受ける。

 すごい音がしたけどオークの槍が止まった。


 その隙を見逃さず冒険者たちが攻撃する。

 だけどオークキングの体が大きいから致命傷にならない。

 

 冒険者たちはひたすら足を削っていく。

あまり深くは傷つけられないようだけれどキングが嫌がっているところをみると、全く効果がないってわけではないらしい。


 こそこそと場所を移動して、狙撃位置を変えた。

 オークキングはみんなに任せて僕は普通のオークの数を減らそう。


 オークキングを囲っている冒険者の数は全部で12人、騎士団3人とジンさん含め冒険者9人、隅で治療を受けてるのが3人。


 全部で何人なのかよく知らないけど、残りは外で戦っているんだろうか。


 ときどきロザリーさんのファイアボールが飛んで行くけど、あまり効果がないみたいだ。

 あの着ている鎧に魔法を防ぐ効果があるのかもしれない。


 また目をつけられてあの咆哮攻撃をされるのは怖いけど、あと少し。頑張ろう。


 とにかく撃ったら移動すると決めて、矢筒に落ちてる矢をしまい、それを肩にかけて移動できるように準備をする。


 下では金属鎧の人が派手に吹っ飛ばされている。

 

 あの人ちょっとおかしい。

 何度も吹っ飛ばされているのに、すぐに起き上がってまた向かっていくんだ。


 オークキングの槍は騎士が2人がかりで盾をかまえればなんとか止められるようだ。

 3人だとなおいいけど、そんなに連携も毎回うまくいくわけがなくて、きちんとそろわなければ今みたいに金属鎧の人が吹っ飛ばされる。

 でもなんであの人だけ吹っ飛ばされてるんだろ。


 キリキリと矢を引き絞り、オークキングの首目掛けて狙いをつける。

 みんなが巻き込まれないようにちょうどいいタイミングを待つ。


 みんなが離れた瞬間矢を放った。

 当たる!


 ピキーンと音がして僕の放った矢はオークキングの喉元で止まった。


 やっぱりあの鎧には魔法を防ぐ効果があるんだ。


 すぐに場所を変えて隠れる。


 足元を狙うとみんなを巻き込みそうで難しい。

 威力を抑えて撃てばいいのだけどできるかわからない。命中率が下がるので、いまいち自信がなかった。あの鎧をなんとかしたいな。


 それは下でも同じことを考えているようで、何か方法を探っているようだ。


 あまり時間もかけていられない。

 回復魔法だってポーションだって限りがあるのだ。


 下から大きな雄叫びが聞こえる。

 騎士3人とたしかジークさんとザックさん。

 ジークとザックでジグザグか。


 5人がオークキングに突っ込んでいく。振り払われるキングの槍を騎士たち3人で受ける。槍を受ける2人を金属鎧の人が後ろで支えて、また派手に吹き飛ばされる金属鎧の人。


 槍を受けた騎士たちを踏み台にジグザグコンビがオークキングの顔目掛けて飛びかかった。

 槍から片手を離してオークキングはそれを振り払う。

 振り払われたのはザックさんだけでジークさんがオークキングの頭にとりついた。


 素早くオークキングの兜を脱がして、離脱する!


 オークキングから兜を奪った!


 騎士団が離れてすぐさまそこにロザリーさんの魔法で火柱が上がる。


 オークキングから悲鳴が聞こえる。


 火柱はすぐにかき消されてしまったけど、オークキングの顔には酷い火傷の痕が残る。


 怒って槍を振り回すオークキング。


「ケイ!」


 ジンさんの声がして、そっちを見ると2本の指で自分の目を指しているジンさんがいる。


 目を狙えって事だ。


「移動します!」


 大声で叫んで、キングの正面側にまわる。

 最初の位置だ。ここが一番確実に射抜ける。


 僕が弓を引き絞ったのをみて、ジンさんが叫んだ。


「ロザリー!」


 声と同時にオークキングの足元がぐらつく。

 オークキングの動きが鈍くなる。


 今!


 放たれた矢は、吸い込まれるようにオークキングの左目に刺さる。


 槍を手放し、両手で顔を抑えてもだえるオークキング。

 みんなが一斉にオークキングを取り囲む。


 タコ殴りだ。


 斧を持った冒険者がオークキングの左膝を破壊する。

 オークキングはその場に倒れ込む。

 そこに走り込んだジンさんの強力な一撃。

 オークキングの首から勢いよく血が吹き出す。

 悲鳴をあげてもがくオークキングは、やがて静かになり動かなくなった。


 歓声が上がる。


 オークキングを倒した。


 






 











 








 






 


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