第180話 ぴくにっく

 180 ぴくにっく


「ちょっ、ちょっと待て。一体どれくらい狩って来たんだ。全部一度には無理だ。ちょっと待ってくれ」


 ギルドに行って依頼の件と森の異変を報告した。

 マリスさんからの手紙を渡すと、上司と相談するので待ってて欲しいと言われた。


 その間に解体場に来ている。


 数が多いので僕も解体するから広い場所を貸して欲しいと言ったら解体場にそのまま通された。

 解体の係の人の前で台の上にホーンラビットを次々と出していった結果、今こうなっている。


「200匹から先は数えてないんです。なんか面倒くさくなっちゃって」


「200……お前確か王都から来たって言ったな。あれか、噂の罠狩りか?」


「噂はわからないですが、王都ではこの狩りのやり方が広まりつつあるのは本当です。僕らはその狩りがちょっと上手いだけで」


「これだけのホーンラビットが1日で狩れちまうのか、確かまだ調査結果がまとまっていないんだったな。王都の奴らが毎日ホーンラビットを解体してるって話は俺も聞いてるぜ」


 何か言いたそうに横にいるフェルのことは少し置いておいて、簡単に罠狩りのことを係の人に説明をした。


 解体場にいた係の人は王都の解体部の状況を話に聞いていたらしい。

 とりあえず手伝えと言われて場所を借りて作業を始める。

 それを見てフェルは訓練場に行った。運動不足なのだそうだ。


「綺麗に血抜きできてんじゃねーか。これなら肉の味も良いはずだ」


「10匹は近所の人に解体してあげて来ちゃったんです。角と皮は残してあるから数に入れておいてください」


「おう、わかった……って、お前なかなか手つきが良いな。俺より早えーじゃねーか」


「慣れてますからね。でもツノも落として来たからかなり楽でしょ。血抜きもしてるからあとは捌くだけだし」


「確かにな。みんなこうやって納品してくれりゃ良いんだがな」


 手の空いた職員が解体に加わってくれて1時間もかからずに解体は終わった。

 たぶん僕が一番多く捌いたと思う。


 全部で286匹だった。僕たちもかなり狩りが上達したと思う。

 これだけ狩っても全然余裕だ。

 狩り場が良ければ2人で1000匹くらいあっという間に狩れてしまうのではないだろうか。


「ケイ。ちょうど良かった。会議室に来いと先ほど受付の職員が言っていた。2階だそうだ」


 汗を拭きながらフェルが僕に教えてくれる。ギルドの2階に上がり、会議室に入る。

 そこそこ広い部屋の隅に職員と冒険者らしい集団が待っていた。

 待たせたことを謝って席に着く。


「一体何匹狩ったんだ?けっこう時間がかかってたじゃねーか」


 年齢不詳の小柄な髭の男が楽しそうに言う。待たされたことはそんなに気にしていないみたい。良かった。


「それで……ケイとフェルだったか。俺はジン。パーティ希望の風のリーダーをやっている。コイツはシド。パーティのスカウトだ。それでこっちがワズ。盾持ちでタンクをやっている」


 ワズさんは鎧を着ていないなかったけど背の高いガッチリした人だった。

 ジンさんは金髪で短めに髪を整えている。真面目そうな人だ。そんなジンさんがまず僕らに森の状況を聞いてパーティーメンバーとこれからどうするか相談する。


「マリスもゴブリンの集落が出来てると言ってるし、話の内容からも嘘ではなさそうだ。どう思う?シド」


「まずはその場所を見てみねぇとわかんねえな。その坊主と姉ちゃんが言うにはエサを探しに畑の近くまで出て来てるってことだろう?危険ではあるが、こんなのは珍しい話じゃねえ。これだけじゃゴブリンの拠点の規模は判断できねえな」


 坊主って僕のことだよな。フェルは姉ちゃん呼ばわりされたことに少し腹を立ててるみたいだけど僕は別に気にならない。


「だからと言って無視はできません。西の畑に近い地域でこういった兆候が見られたならば即排除すべきです。あの辺にはうちのおばあちゃんも住んでるんです。早急に駆除してください」


 同席しているギルドの受付の職員さんがそう言った。


「行ってみてそんな大したことじゃなかったってこともあるぜ。モリー、それでもギルドは全員に報酬は出すのか?」


 同席しているのは職員のモリーさんというらしい。そのモリーさんにシドさんが少し意地悪そうに尋ねた。


「……ゴブリンキングが発生しているような最悪の事態だとして……何組くらいのパーティが必要になりますか?」


「最低でもBランクが3組だな。それでも状況次第じゃ引き返すかもしれねー。ただの調査ってことなら俺たちとこの坊主たちで行けば良い話だが、坊主が言う森の異変ってのが気になるな。1分1秒を争うってわけじゃないが仕掛けるなら早い方がいいのは確かだ」


 モリーさんは手帳を見ながらあたふたした様子でシドさんに答える。


「黄昏のパーティが明日は動けます。あそこは新しくザックさんが入って攻撃力だけならAランク並です。治癒師のナンシーさんもいますし、長時間の継続戦闘にも対応できるはず。もう1組BランクかCランクのパーティを同行させます。これならいかがでしょうか?」


「そんなに出て、何もありませんでしたってこともあると思うぜ?良いのか?」


「構いません。うちのおばあちゃんの畑を守るためです。あの畑が潰れちゃったらもうおばあちゃん、がっかりしてもう野菜作るのやめちゃいます。そうなったら王都にいるうちの家族も悲しみますから」


 さっきとは違う意志を持った表情でモリーさんが言う。勝手に決めちゃっていいの?

なんか後でいろいろ言われたりするのはあまり好きではないんだけど。


「なんか公私混同してねーか?大丈夫なのか?」


「良いんです。何もなかったらなかったでギルマスも良かったじゃねーかって言うと思います」


 モリーさん、なんか誰かに似てる気がする……。会ったのは今日が初めてだし気のせいかな?


「ローガンの奴もだいぶ部下に信頼されるようになったじゃねーか。良いぜ黄昏が来るんならどうとでもなるんじゃねーか?ジンどうだ?」


 モリーさんの答えに満足したのか、シドさんは依頼を受ける気でいるように見えた。


「そうだな。あとは最近Bランクに上がった大地の咆哮か、あいつら空いてないかな。何度か組んでるからやりやすいんだが」


「予定を調べてみます」


「ジャックならさっき訓練場にいたぞー。今頃シャワーを浴びてるかもしれん」


 そう言ったのはワズさん。

 モリーさんはそれを聞いて急いで会議室を出て行った。


「森に詳しいんだったらラッセルはどうだ?明日は休みだろ」


「いやあいつは普段忙しいだろ。遠くまでいつも薬草を取りに行ってるからな。あいつがいるから俺たちはポーションに困らねえんだぜ。休みの日くらい好きなもん食ってたっぷり寝かせといてやれよ」


 話の内容はよくわからないんだけどシドさんが急に僕たちのことを見て言った。


「じゃあこの坊主たちはどうだ?こいつらに道案内をさせるってことで。どうだ坊主。明日俺たちを案内するついでに、ゴブリンの討伐を手伝う気はあるか?いろいろ経験を積むなら悪くねえ話だと思うが」


 シドさんが静かに僕のことを見ている。観察?僕たちがどう言うかを待っているのかな。

 あ、坊主って僕のことか。いろいろ考えてたら反応が少し遅れてしまった。


「ええと……森には子供の頃から採取で入ってましたから、何かしら僕たちなりの意見も言えるかもしれませんが……僕たちまだDランクですけど良いんですか?」


「別にかまいやしねーよ。坊主はともかくそっちのフェルと言ったか。だいぶ腕はたちそうじゃねーか。ゴブリンくらいなら問題ないだろ」


「私は構わない。むしろ調査が入るなら道案内のようなことをするつもりでいた。私は剣を使う。こっちのケイは弓が得意だ。何か力になれるのならぜひ同行させてもらいたい」


「それなら頭数は問題ないな。まあ良いんじゃないか?それからうちにはもう1人魔法使いのロザリーという奴がいる。今日はもう帰っちまったけどな。それで2人とも報酬なんだが、もしも空振りだった場合は大した稼ぎにならないが……それは構わないか?」


「問題ない。だがあまりケイを危険なところに配置しないでくれ。近接戦闘は得意ではないから、安全な遠距離からの援護のような役割にしてくれ」


「了解した。今回は弓が使えるのはうちのシドしかいねーからな。逆にお前たちみたいな奴らがいてくれるとありがたいぜ。よろしくな2人とも」


 そう言ってジンさんが僕たち2人に握手を求めてくる。


 さすがBランクパーティのリーダーをしているだけあってしっかりしている。

 ジンさんは今回の合同討伐のリーダーを担当するそうだ。


 モリーさんが戻って来て、大地の咆哮のスケジュールも大丈夫だと言う。


 明日は7時にギルドに集合することになった。

 オムレツ作ってる時間ないかも。

 保温箱に入れておけば大丈夫かな。

 夜のうちに作っちゃう?


 ギルドを出たのはもう夕方だった。

 市場はもう終わる時間だから宿に戻る途中で食料を扱う店に寄った。

 鮭の切り身が買えたので、おにぎりの具は大丈夫だ。

 ついでに海苔も買えた。さすが領都。


 調味料も足りないものは買い足して、明日の準備は大丈夫。

 満足した顔をする僕を見てフェルが微笑む。


「明日は大規模な討伐になるのかもしれないのだぞ?まるでぴくにっくに行くみたいな顔をして」


「楽しみなんだ。フェルと冒険者の依頼をちゃんと受けるのって初めてだからさ。お弁当は任せておいて、頑張って美味しいものを作るよ」


 そう張り切る僕を見て、またフェルが優しく微笑んだ。


 















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