第157話 餃子
157 餃子
夜が明けて。
たとえ今日がお披露目パーティの日だとしてもいつもの朝の日課は変わらない。
フェルと一緒に中央の朝市まで走って食材を仕入れに行く。
南地区の市場よりも少しだけ割高だけど、ちゃんと欲しいものを店の人に伝えれば品物の質は南門の市場とそんなに変わらなかった。
野菜はマルセルさんから買えばいいし。
不便なのはあの腸詰とベーコンが美味しいロバートさんの肉屋がないことくらいだ。
だんだんと中央の朝市での買い物の仕方がわかってきた。
店頭に並んでいるのは見本みたいなもので、質の良いものは箱に入っておいてあることが多い。店舗の大きさが市場と比べて小さいのでそういった売り方をしている店が多いみたいだ。
最近では馴染みの店も増えて、今日は良いのがあるから買っていけなど、声をかけられることも多くなった。
僕が小熊亭で働いていることを話すと店に食べに来てくれる人もいる。
最近はお店の人といろいろ話すことも多い。珍しい食材のことや季節のものなどを教えてもらったりしている。
大豆を探しているけれど、王国で栽培はしていないようだった。豆腐とか枝豆とか食べたい。
ロイの実家のパン屋でバゲットを多めに買った。お米に慣れていない人もいるだろうから一応用意しておこう。
買い物が終わって家に戻るとちょうどカインとセラが来たところだった。
2人は先週家に連れて来ていて、今日の料理の仕込みのためにいろいろ献立や作り方なんかを説明していた。
「カイン。2人だけで大丈夫だった?迷わず来れたかな?」
「大丈夫です。セラがちゃんと道を覚えていてくれました」
セラが恥ずかしそうにもじもじと下を見ている。
2人に家の中に入ってもらって、今日の料理の説明をする。
昨日のうちに準備していたものもあるけれど、野菜などはその日に買ってきたものを使うことにしていた。
まずは大量におにぎりを作る。
具は焼鮭と梅干しにした。
カインとセラ、そしてフェルにその作業を任せて、僕はパスタマシンでうどんの生地を伸ばしていく。
大型のパスタマシンを作ってもらったとはいえ、100人分のうどんを作るのはなかなか大変な作業だ。
うどんの麺ができたら今度は餃子の皮を作る。
薄く伸ばした生地を丸い型でくり抜いていく。セラが楽しそうにそのくり抜きの作業をしてくれた。
豚肉とキャベツ、すりおろした生姜とニンニクを入れる。ニラは見つからなかったので似たような香草をみじん切りにして入れた。キャベツ以外は昨日作って保冷庫で寝かせておいたので、手間はそんなにかからない。
混ぜ合わせたタネに少しだけだし汁を入れた。
みんなで賑やかに餃子を包んでいく。
形が多少悪くたって気にしない。
しっかり皮が閉じていれば大丈夫だ。
みんなお酒を飲むだろうから、大部分はお酒のつまみになるようなものをひたすら用意していく。
きんぴら、だし巻き玉子など、普段お弁当に入れているものもいっぱい作った。
師匠に連れられてロバートさんの肉屋さんと仲良くなれたのは大きかった。
欲しい部分とかなんでも相談できて、さらに僕が知らない美味しい部分とかを教えてくれる。もちろん忙しい時間でなければだけど。
昨日お店に行って鶏の軟骨とかそういった普段捨ててしまうところをたくさん売ってもらった。
軟骨は唐揚げにして、鶏のレバーはペーストにする。
しっかりと鶏レバーの下処理をして、お酒と少しの牛乳で煮込んだものをミキサーにかける。
味見してみて、少しだけウスターソースを足した。
少し濃いめの味付けだけどとても美味しかった。パンに塗ってお酒と一緒に食べるならこれくらい味が濃い方がいいだろう。
ホーンラビットのレバーでも出来るかな?浄化の魔法を一応かけておいた方がいいかも。
焼肉用の肉も昨日市場で買った。牛肉はよくわからないからロバートさんにいろいろ説明を受けながら良い部分を切り出してもらった。
さすがに高級な部位は買えなかったけど。
買ってきた肉を薄く切っていく。
鉄板で焼くわけでは無いから気持ち厚めに切った。
焼肉のタレはまだ納得がいくものには仕上がっていないけど、だいぶ記憶にある味に近いものになっている。
フェルも美味しいと言ってくれた。
サラダのドレッシングは梅肉を和えて少し酸味の強いものにした。
少し料理が足りない気もするけど、追加で何か作ればいいかな。
ひと段落してカインとセラにお茶を淹れてもらい、僕とフェルで会場の準備をする。
テーブルを配置して土魔法で地面をなだらかにする。
フェルの作ったテーブルクロスをかければけっこういい感じのパーティ会場になった。
バーベキューコンロの中で薪を燃やして炭を作っておく。
会場でみんなでお茶を飲んでいると3男が馬車に乗ってお酒を届けに来てくれた。
一緒に来てくれた商会の人とお酒の入った木箱を会場に置いていく。
けっこう量があるな。
3男にはあとでお金を払いにいくことにしている。
もし余っても持って帰ってくれるそうだ。とりあえず余った分は倉庫に入れておけばいいと言われてる。
3男も一緒に会場でお茶を飲みながら、残りの作業をみんなで確認する。
仕込みの済んだ食材で、かなり大きめだったはずの保冷庫もいっぱいになっている。
お酒を冷やすのは3男に任せた。僕だとどれを冷やしていいかわからないし。
とりあえず氷をいっぱい作って樽の中にいれておいた。
簡単な調理場を外に設営して、フェルとセラはテーブルの上にお皿やお花などを配置してくれた。
お花はスラムの人たちが用意してくれたそうだ。
まだ春は来てないのに、咲いてる花を集めるのはけっこう大変だったはず。
スラムの人たちの気持ちが純粋にうれしい。
僕とカインは簡単な調理場を作る。
そうは言っても炊き出しの準備とほとんど変わらないのだけど。
「おや、早く来すぎちまったかい?」
セシル姉さんが準備を進める僕たちに声をかける。赤い風のみんながまず最初にやってきた。
「なんだい、3男に酒を頼んでたのかい?自分たちで飲むつもりで用意してきたけど無駄になっちまったかね?」
リックさんがマジックバッグからお酒の瓶を出してテーブルに並べていく。
手伝うと言うリックさんとリンさんを席に座らせて、僕たちは会場の仕上げをした。
そろそろみんなが集まってくる時間だ。
ちょっと緊張する。
楽しんでもらえたらいいな。
テーブルをLの形に配置してコンロやまな板、調味料などを並べていく。
今日出す料理をずっと悩んでいたけれど、作りたいものをとにかく作ればいいのだ。
野菜の皮剥きをカインとセラに任せて、大皿にどんどん料理を作って盛り付けていく。保温の魔道具に入れておけばみんなが来る頃になっても冷めないはず。
大きな鍋で煮物も作りはじめた。
パーティの後半にはしっかり味も染みて美味しく仕上がっている思う。
デーブルごとに給仕なんて出来ないから、真ん中に配置したテーブルに大皿で料理を並べていく。
その並べた大皿から好きなものを勝手に取って食べてもらうことにした。
バーベキューコンロは最初の方は焼いてあげようと思うけど、そのあとは適当にやってもらうつもり。炊き出しの時もそんな感じだったからたぶん大丈夫だろう。
そんな感じで準備がほぼ出来上がって、今日のゲストたちがちらほらと集まりだした。
来てくれた人たちに飲み物を提供しながら挨拶を交わす。
ゴードンさんとマルセルさん一家からは採れたてのトマトをたくさんもらった。まだ時期は少し早いけど畑で育ちがいいトマトを見繕って採って来てくれたみたいだ。あとで切って出そうと思う。
冒険者たちはだいたいお酒を持参していて、さらに今日来たみんなからだと言って麻袋に3つ、薬草の詰まった袋をくれた。
昨日みんなで採りに行って来てくれたらしい。
黒狼の人たちからは北の森で採取した香草をもらった。最近採取に行けていないからすごく助かる。
ライツたちは木材を担いでやって来て、簡易のテーブルを足りていないところにあっという間に作って配置してしまった。
自分たちで適当に椅子も作って中庭の一角に陣取っている。
その横でガンツたちも椅子を持って来て座っている。
ゼランドさん一家は僕たちが買ったキャンプ用の椅子を持参していて、そこにライツが気を利かせて作ったテーブルを置いた。なんか優雅だ。
赤い風の人たちもキャンプ用の椅子を持参していたみたいで、それぞれ自分の椅子に腰掛けている。
よし、準備ができた。
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