第153話 混ぜちゃえ
153 混ぜちゃえ
家に帰ってまず顔を洗い、お昼ご飯の支度をする。
ご飯のことなんにも考えてなかったらちょっと悩んでしまった。
炊飯器のスイッチを押してお米を炊き、保冷庫の中をあさる。
オーク肉を使い切ってしまいたい。夜はホーンラビットの肉でシチューでも作ろうかな。
一番出汁と二番出汁、その使い分けが面倒になってきた。和食専門の料理店を開くなら話が別だけど、これって混ぜてもいいんじゃない?かえって万能出汁みたいになったりして。
一番出汁は出汁の風味が濃い。肉じゃがやだし巻き玉子、茶碗蒸しとかにむいている。出汁の風味を楽しむお吸い物もそうだ。
二番出汁は出汁の風味はあまりないけれど旨みが濃く出る。
お味噌汁や煮物、炊き込みご飯などあまり出汁の風味が必要のないものに使われる。
茶碗蒸しとかは一番出汁の方が美味しそうだけど他の料理はそこまで強い風味が必要だとも思わない。
いいや、混ぜちゃえ。
合わせ出汁ということにしよう。濃かったら薄めればいいのだ。たぶん。
手早くオークの肉で親子丼もどき、たぶん他人丼?
さっと卵で閉じて大皿に盛り付けた。
手抜きかもしれない合わせ出汁を使ったお味噌汁を一緒に出す。具はネギとワカメだ。
さっそくお味噌汁からいただく。
悪く……ないと思うけど。
口の中に広がる味噌とそれを支える出汁の味。少し水で薄めたから出汁の味が濃すぎて邪魔になるということもなかった。
合わせ出汁で自信を持ってこれからやっていこうと思う。
フェルはもうご飯をお代わりしている。ご飯つぶが2つほっぺたについている。
笑いながらそれをとってあげた。
「ケイ。なんだかスッキリとした顔になったな。なんかクライブに言われたか?」
「うん。もっと大人を頼れって言われちゃった。僕がたとえ何かやらかしてもそんなことでお店はつぶれないって。だからもっと自由に料理を作れって師匠が言ってた」
「そうか。ならば明日は頑張らなくてはいけないな」
「うん。いろいろ怒られることも増えるかもしれないけど、それも含めてもっと大人を頼れって師匠が言ってたんだ。僕、小熊亭で働けて本当によかったよ」
「昨日までのケイの顔より今の顔の方が、より好ましいと思うぞ。良かったな、ケイ」
フェルがそう言って笑った。
脱衣所のカーテンを取り付ける。カーテンレールは意外と簡単に取り付けることができた。
黄色の厚手の生地のカーテンをつけたら家の中が明るくなった気がする。
「なんかいいな」
フェルがそう言って。
「そうだね」
と僕が答える。
午後はガンツの工房に行った。
お弟子さんが嬉しそうに今日の分の仕上げ待ちの在庫を持ってくる。フェルは出来上がった装備を受け取って実際に着てみて確かめていた。
フライパンとポテトマッシャー、そしてバーベキューコンロを受け取ってバッグにしまう。
もちろん炊飯器の良くないところもガンツに話しておいた。
西門から乗り合い馬車に乗って中央まで出て、お風呂に入りに行ってから、家に戻って夕食を作る。
フェルは家に帰ってからずっと招待状を書いてくれていた。なんだかすっかり任せっきりになってしまって申し訳ないと思う。
ホーンラビットのクリームシチューにはさっきとったばかりの合わせ出汁を鍋の半分くらいに入れて作る。
クリームシチューは魚介の出汁と相性がいいのだ。
せっかくなので今日は少し違った作り方をしてみる。
小麦粉を炒めてシチューのルーを作るのは一緒だけど、バターは牛乳から直接作る。ラウルさんの牛乳を容器に入れて頑張って振れば無塩バターが出来る。
それを使って小麦粉を炒めるのだ。
バターを絞って残った牛乳はもちろんシチューに使う。
牛乳瓶一本分から程よい量のバターが取れた。
だけどこれだと少し薄くなってしまうから、足りない牛乳の代わりに朝市で買った白い豆を使うのだ。豆がけっこう安く売ってたので試してみたいと思って買ってきた。
豆をひたひたくらいの水で塩茹でにする。塩は気持ち強めに振った。
茹で上がった豆はミキサーで茹で汁ごと細かくすりつぶす。
どろっとした豆乳のようなものが出来上がった。
タマネギ、ニンジン、ジャガイモを用意する。ニンジンは少し下茹でしておいた。
あとはいつものようにほんの少しのバターで炒めたタマネギと他の具材を出汁で煮込む。
その間にシチューのルーの用意をした。
出来上がったバターは無塩バターだからその分塩も少し足してみる。
少し練り込むと水分が抜けてよりバターっぽくなる。
味見してみたけどそこまで悪い味ではない気がする。ちょっといつもより濃厚な気がするけど。
その即席バターで小麦粉を炒めて、コップ一杯くらいの牛乳で伸ばしたら弱火で少し煮詰めて出来上がり。
ホーンラビットの肉は臭みをとるのに使う香草をよく揉み込んでおいて、フライパンで軽く炒めたら鍋で野菜と一緒に煮込んだ。
いい感じに具材が煮えたら牛乳と豆を砕いた煮汁を入れて優しくかき混ぜる。
もう一度鍋の中身が温まってきたらルーを混ぜて味を整えれば完成だ。
これっていつもよりだいぶ安く作れている気がする。味見してみたらけっこう濃厚なクリームシチューになっていた。
もう少し工夫すれば店のランチで出せたりするかな?
カレーライスのようにご飯と一緒に器によそって、適当に作ったサラダは大皿に盛り付ける。
「これはいつもより味が濃くて良いな!どうしたのだ?牛乳が余っていたのか?」
「牛乳をあまり使わない代わりに豆を砕いて煮汁ごと入れたんだよ。けっこうおいしくできたでしょ」
フェルはいつも通りだけど、シチューとご飯をお代わりした。
僕はシチューだけもう一杯食べた。
ご飯を食べて、フェルに招待状を書くのを手伝うと言ったら、もう残り少ないから大丈夫だと言われる。
今日作ったシチューのレシピを手帳に書いて、どうやったらランチに合うスープにできるか考えた。
クリームシチューというよりはもっとポタージュみたいにしちゃえば良いんだよね。きっと。
ノートに架空のレシピを書いて、そのあと何度も斜線を引いて分量を書き直す。
牛乳はバターで使った分を入れて後から味見しながら足していけばいいかな。
ホーンラビットの肉の臭みはだいぶ気にならなくなってた。店にホーンラビットの肉はないから家を早めに出て買いに行こうかな。
南市場でついでにあのおいしいベーコンと腸詰を買おう。
師匠から預かってる銀貨はまだほとんど手をつけてないからホーンラビットの肉くらいなら仕入れられると思う。
「ケイ。なんだか楽しそうだぞ」
そう言って招待状を書き終えたフェルがミルクティーを淹れてくれた。
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