第82話 面接
82 面接
昨日の帰りに3男のところに行き、魔道コンロをもう1つ売ってもらっていた。
今回は見切り品というわけではなかったけど、性能の良いものを予算内で見繕ってもらって、それを購入した。今日の炊き出しの話をしたら自分も手伝いたいと言ってきた。3男には配膳を手伝ってもらうことにして、夕方少し前に来てもらうことにした。
いいのかな?3男がスラムに来ても。
朝起きて、テントの前で今日の分の仕込みをしていると、オイゲンさんがやってきた。
「おい。ほんとにスラムで寝泊まりしてんのか。セシルの奴が暇なら手伝ってこいって言うからよ、あとでルドルフも来るぜ。あいつは炊き出しの後の飯が目当てだけどな」
「ありがとうございます。じゃあ野菜の皮剥きをお願いします。今日はもう1品増やそうと思ってたので助かります」
「米が入ったスープを出すそうじゃねえか、それだけでも充分だろ?」
「んー。もっとお肉とか食べて力をつけて欲しいんですよね。特に子供達とか」
「こんなことしてて金は大丈夫なのか?」
「肉はホーンラビットだし、昨日自分で狩ってきたから実際ただですからね。材料費で銀貨1枚くらいですから。まあ、家賃だと思えば安いものなんじゃないですか?」
「なるほどな。家賃か。上手いこと言うな」
皮剥きの終わった野菜は少し小さめに切ってもらう。
僕はその間に唐揚げの準備をする。
こんなにたくさん唐揚げを作ったのは初めてだったけど味見しながら慎重に衣を作った。
ルドルフさんも来て炊き出し会場に移動する。雑炊用のスープを濾すのはフェルとルドルフさんに任せて引き続き僕は唐揚げを大量に仕込んでいく。
ギルドの食堂のマスターは結構大量の食器と鍋を喜んで貸してくれた。
その鍋をフル活用して唐揚げの準備をする。
スープはオイゲンさんが見てくれて、フェルはお米を炊いてくれている。
人数が多いからかなり楽だ。セシル姉さんに感謝しなければ。
3時ごろ3男がきて、ヘラヘラっといつもの調子で挨拶をする。
オイゲンさんもルドルフさんも3男とは知り合いらしくて3人で楽しく話している。
夕方に炊き出しを開始した。唐揚げをあげる匂いに惹きつけられて、もうたくさんの人が並んでいる。唐揚げは1人3個。もっと大きい唐揚げにしたかったけど、それだと火が通るのに時間がかかるので、程よい大きさにしておいた。
3男とオイゲンさんが器用に器に雑炊を盛っていく。僕が必死に揚げる唐揚げは、揚げたそばからどんどん無くなっていく。
最初に一度揚げていたものを仕上げに少し高温の油で揚げるだけだからそんなに時間はかからないのだけれど、途中品切れしそうになってちょっと焦った。
忘れないように今日のメンバーと食堂のマスターの分を取り分けておいた。
最後のおかわりを子供達に配って今日の炊き出しも無事終わった。
「これ美味えな。なんで遠征の時作らなかったんだよ」
ルドルフさんが唐揚げを食べてそう言った。
「油が無かったんだよ。最後に泊まった西の街でさー、油が安く売ってるのを見つけたんだよ。市場で売っているのは高くて、なかなか買えないんだ」
「これ西の街の花の種の油でしょ?これうちでも扱ってるよー。食堂とかに直接卸してるんだけど、よかったら卸値で分けてあげるよ。父さんに言っておくね」
それならばと、追加で唐揚げを揚げて、3男にお土産に持たせる。ゼランドさんの一家にはすごくお世話になってるからな。
「その油、何か入れる容器とかある?銅貨1枚で引き取ってあげるから、それ石鹸の材料になるんだよ。流石に高級な石鹸にはできないけどねー」
「そうなんだ。知らなかった」
「揚げ物が流行り出したのはしばらく前からだけど、その油で石鹸が作れるって言い出した人がいてー。やってみたら意外と質がいいから結構売れるんだよ。原価が安いから値段も下げられるしねー。王家主導で石鹸工場も作られたんだよ」
そうなんだ。石鹸が広く広まると病気する人も減る。公衆浴場もあるし、衛生管理を結構ちゃんとしてるんだな。ちょっと王様を見直した。
関わり合いにはなりたくないけど。
雑炊を急いで食べて、食器を洗い、ギルドの食堂に返しにいく。まだ混む時間じゃなかったらしくて、マスターは喜んで食べていた。
「唐揚げはまだ味付けに工夫の余地があるな」
ニヤリと微笑むマスターにそう言われて、いろいろ試してみることを決意する。炊き出しで練習だ。
後片付けを終わらせたフェルと合流して、今日も公衆浴場に行って家に戻った。男性チームは片付けた後どこかに飲みに行ったそうだ。
鍋を返しに行った時に、ギルドの受付で明日の面接の時間を聞いたら、依頼を出したお店に午後の1時に来て欲しいとのことだった。
ちょっと綺麗な格好をしていこう。
明日フェルはエリママのところに行くらしい。面接の帰りに僕も寄ることにした。
次の日の朝。市場まで魔力循環しつつ走り込み。フェルと一緒に走れるようになったのがちょっと嬉しい。
ラウルさんのタマゴ屋は市場の端っこにあるので大きく回り込むように広い道を走って向かった。
「おや?今日は2人一緒なんだね。フェルさんこんにちは。牛乳飲んでいくかい?」
そういえばあまりラウルさんの卵屋にフェルと一緒来たことはあまり無かった。朝の走り込みは大体別ルートだったもんな。
ラウルさんにタマゴと牛乳のお金を払って、市場の外れにあるベンチで2人で飲んだ。
やっぱり新鮮な牛乳って美味しいなぁ。
また魔力循環をしながら走って帰る。
買ってきたタマゴで大きなオムレツを作ってみた。フェルはやっぱり味付けはケチャップがいいみたい。
こんな時はパンでもいいな。買ってくればよかった。
2人で洗い物をして、僕はギルドに、フェルはエリママのところに行った。たぶん編み物を習うんだろう。毛糸も買ってたし。
面接の時間までまだ時間があるので、弓の練習でもしてから行こうと思ってギルドに来た。
練習場に行くとリンさんがいた。
「お!ウサギじゃん。練習しに来たの?教えてあげよっか?」
リンさんは天才的に弓が上手いけど、教え方も天才的だ。大丈夫ですと答えて、いつものようにライツの弓を構える。
おんなじところに当てると矢が痛むので、縦に一列、交差して横に一列当てたところで矢を一度回収。
「ウサギ、その弓なに?相当いいやつじゃん。なんでこないだはそれ使わなかったの?」
「この弓だとホーンラビットを突き抜けて矢が回収できなくなっちゃうんだよ。やっぱりわかる?この弓たぶんいろいろやばいと思うんだよね」
リンさんとはこないだの遠征でだいぶ仲良くなった。打ち上げで赤い風の人たちからこれまでリンさんの作った料理の話を聞いたせいかな?
「アンタそれ一体、金貨何枚するの?そんなやばい弓どこで手に入れたのよ」
「ライツって西区の北側に工房を持ってるドワーフの大工に譲ってもらったんだよ。ちょっとした縁があって、格安で」
「下手したらその弓、売ったら家1件買えちゃうよ。格安っていくらよ」
「……銀貨5枚」
「……アンタ、やばいねいろいろと……いいなー私も作って欲しいなー自分専用に作ってもらうって憧れるよ。お金は払うからさ、私にも作ってもらえるように今度頼んでみてくれない?」
「いいよ。今度会った時頼んでみるね。たぶんリンさんに会わないとよくわからないって言い出すから、一度工房の方に行かなきゃダメだと思うけど」
「それくらいなら全然平気だよー。頼んでみて!」
「近いうち差し入れと、矢の補充に行くことにしてたから、その時話してみるよ」
リンさんと別れて、持ってる服の中でも綺麗なものに着替えてから面接に向かった。
幸い店はわかりやすいところにあって本日休業と、札がかかっている。
ミナミと看板に書いてあるその店では、唐揚げが美味しいらしい。
扉には鍵がかかっていなかったので中に入って店の人に声をかける。
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