第81話 幕間 1
81 幕間 1
「えー、次の議題ですがー」
王城のとある会議室で御前会議が行われていた。
王国の主要な役職に就く大貴族たちが大きなテーブルを囲むように並んでいる。
壁際には椅子が並べられて、それぞれの分野の知識人、役人たちが座っている。その中に南支部のギルドマスター、ライアンの姿もあった。
「これは南支部で行われた大規模のホーンラビットの討伐の報告ですね。一応書類で報告はいただいていますが、もう一度改めてご報告願えますか?ライアン殿」
そう言われてライアンが立ち上がる。
「細かい数字は書面に記載しておりますので、詳細等は申し上げませんが、5日間、王都南西部で大規模なホーンラビットの討伐を行いました。5日間で狩られたホーンラビットは約2000体に及びます」
会議室が少しザワザワする。
「えー。なぜこうなったのか、経緯を簡単に申し上げますと、とある新人冒険者のパーティがホーンラビットの生態を調べ、その餌となる食料をばら撒いて狩りをしたところ、かなりの成果を上げられたということがありました。そのあとその冒険者のパーティは王都付近の農場を周り、ホーンラビットの討伐依頼をこなしていきました。集まるホーンラビットの数が異常に多いことから、途中でもっと安全に狩りができないかと彼らは考え、防護柵を作り、ホーンラビットの出てくる数を調整して、効率的に狩りを行いました。王都南東の開拓村では上位種がいたこともあり、2日間で287体ものホーンラビットを狩ってまいりました」
また会場がざわつくが、この数にピンときていない者もいる。煌びやかな衣装を着ている小太りの貴族は生まれてこの方狩りなどしたことのないような雰囲気だ。
「その者たちはその開拓村の被害が減るようにと、その狩りのやり方を村人に指導して帰ってきたらしく、後にその村から感謝状が私宛てに届き、事態の異常性に気づくことに至ったわけです」
普段と違い身なりを整えた南支部ギルドマスターのライアンは淡々とこれまでの経緯を説明した。
「異常性と貴公は言うが、具体的に何が異常であったのだ?」
その中でもひときわ煌びやかな衣装を着た老人がライアンに尋ねる。
「陛下、恐れながらお答えいたします。普段ホーンラビットを狩る場合、ベテランの冒険者でも日に10体、異常繁殖していたとしてもせいぜい30体ほどでしょう。相手はすばしっこい魔物ですから、取り逃がしたり逃げられたりもします。それでも狩り場にいるホーンラビットはせいぜい50体程度だろうという認識でおりました。私が異常だと申し上げるのは、彼らの狩りのやり方が効率が良すぎるということではなく、ホーンラビットが300体近くその村に棲息していたということでございます」
さっきの身なりの良い老人がさらに発言する。
「ホーンラビットが300体いるということが異常であると?」
「はい。これについて農林省に問い合わせをいたしました。これについては実際に担当の者から話を聞いた方が良いでしょう」
農業の研究をしている学者だと言う老人がライアンに代わり説明を始めた。
戦争が終結し、国内での戦闘が無くなったことで、冒険者たちが収入を得るため大型の魔物を狩るようになった。主にオーガやオーク、そしてゴブリンだが、その魔物たちは主にホーンラビットなどを食料としている。繁殖力の強いホーンラビットは天敵が減ったことで次第にその数を増やして行ったのだ。
王都の食料生産は拡大傾向にあるが、拡大する農地の面積に対して、収穫量の増加が少ないこと、ホーンラビットの被害を訴える依頼がギルドに多く寄せられていること、しかしその被害が一向に減らないことをその学者は説明し、今回の大規模掃討の可能性を説明する。
見込みだが、ホーンラビットの被害が減った農業地域ではおよそ1.2倍から1.5倍相当の収穫量の増加が見込まれるとのことだ。
これには会議に集まった貴族たちもみな驚いていた。
さらに耕作地の拡大も見込まれ、これらが全てうまく行った場合、王都周辺の生産力は今の倍以上になるだろうとその学者は締め括った。
そしてライアンが立ち上がり、さらに説明を始める。
「ホーンラビットの個体数が減ったことで周辺の魔物の動きがどう変わるか、これは引き続き調査を行なっていくことになりますが、先ほど報告しました大規模遠征を計画する前に、この発案者の冒険者パーティにこの狩りのやり方をギルドに情報公開させました。いたって単純な、誰でも気づけばやれるものでしたが、私はこれが新人冒険者の育成にとても適していると考えました。そこでベテラン2組と新人2組を組ませ、戦闘の指導及び野営訓練などを目的として、今回の大規模遠征を計画、実行したというのが今回の経緯でございます。成果は先ほど言った通り約2000体の成果がありました」
「その冒険者たちも労う必要があるな。国からも褒賞を出そう。そしてその狩りの発案者にも何か与えねばならんな」
この王国の王と思われるその身なりの良い老人は顎に手を当てて何か思案している。
「さて、この件は引き続き調査を継続。大型の魔物の脅威がないことがわかれば、各地に広めることにしよう。もうひとつくらい試験する場所が欲しいな。アーネスト伯爵。確かそなたの領地も農業が盛んであったの。騎士団の育成も兼ねて王家主導で実験をやる気はあるか?大型魔物の討伐もこちらで引き受けよう。いかがかな?」
「それは願ってもないことでございます。我が領地の民も喜びましょう」
「そなたには戦後苦労をかけたからのう。これで少し借りを返したと思ってもらえたら幸いじゃ。さて、これで以上じゃな。ではこれで御前会議を終わることにする。一同大義であった」
その発言をもって御前会議は終了した。身なりの良いものから順に退出していく。
ライアンは会議室を出たところで呼び止められた。
王が話があるということで、ライアンは王宮の一室、王族のプライベートスペースに案内される。
中に入ると上等な生地を使ってはいるが、先ほどよりもかなり質素な服に着替えた老人がライアンを出迎える。先ほど会議では煌びやかな衣装を着ていた老人。この国の王、レオナルド1世だ。
「すまんな、忙しいだろうに呼び止めて」
「いえ、お気になさらず。この度の一件のことですな。それで話とは」
「その狩りのやり方を発見した冒険者のことでな。褒美に何かやらねばいけないが、何がいいかと思ってな」
「あいつらは裕福な暮らしをしてはおりませんが、過分な褒賞は不要だと申しております。あいつらはこの狩りのやり方を特別なことだとまったく思っていないようですな。誰でも気づく簡単なものだと、彼ら自身が申しております。あまり目立つことにはして欲しくないようで、この先家を借りる金がもらえればそれでいいと言っておりました。」
「なるほど……過分な褒賞はいらぬと申したか。確かに多すぎる褒賞はかえってその者たちに迷惑がかかるかもしれんな。本来屋敷を一軒与えても良いくらいの功績だと思うが……今どきそんな無欲な者も珍しいの。金貨5枚というところが妥当であろうか?どう思うライアン」
「それくらいで充分でございましょう。この一件が王国にあたえる影響は計り知れないものになるかもしれません。今回は借りを作ったとして、我々南支部でもその新人冒険者たちを見守っていくつもりです」
「そうか。頼むぞライアン。わしもその者たちに会ってみたくなったのう。だがイタズラに王城に招くわけにもいかんしの。そうじゃ、ライアン。確か報告によるとその者たちは男女2人組の冒険者ということだったな。2人は恋仲なのか?」
「両人とも憎からず思っているようですがまだ恋人ではないようですな。まあ時間の問題でしょうが」
「その者たちにそれとなく王城の展望台からの眺めは素晴らしいぞと伝えておけ。そして来るなら夕方が良いともな。あいつらが言っておったいわゆるデートっていうやつじゃな、それとなく勧めておけ」
「まあ、それとなくは言っておきましょう。しかし彼らは善良な未来ある素晴らしい若者たちです。あまり困らせることはないようにお願いいたしますよ」
「わかった。心に留めておこう。それにしても2000体か。とんでもない数を狩ってきたものだ」
「はい。本人たちもやりすぎたと申しておりました」
王様がそれを聞いて笑う。
王はますますその若者たちに会いたくなっていた。
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