第69話 オムレツ

 69 オムレツ


 オムレツと言っても卵料理は奥が深い。シンプルなオムレツはパンにはよく合うけれど、お米にはあまり合わない気がする。

 お米に合うのは卵焼きってことになると思うけど、今日は野菜とキノコと挽肉の入った半熟オムレツを作ることにする。


 スープも洋風で、味噌汁は今日は作らなかった。


「こんなオムレツは王宮でしか食べられないものだと思っていた」


 フェルが、絶賛してくれる。フェルさん、口にケチャップが付いてますよ。

 味付けはフェルが好きなケチャップをつかった。


 うまいこと半熟に仕上げるのが難しい。僕の分は少し失敗した。ちょっと火が通り過ぎてしまったんだ。内緒にしておこう。


 せっかくフェルの好感度が上がっているのだから。


 早めにギルドに行って、食堂で借りた食器を返す。どんなものを作ってるんだと聞かれて、それならば来週はギルドに持って行くと答えた。

 マスターも楽しみだと言ってくれた。


 その後待ち合わせ場所に向かう。先輩たちは先に集まっていた。


「黒狼の牙のリーダーをしているルドルフだ。こいつはブルーノ、盾使い。こいつがドミニク、剣士だ。あと、今はいないがオイゲンという斥候役の4人でやっている。よろしくな」


 ルドルフさんは割と物腰柔らかそうな人だった。ブルーノさんとは面識があった。いつだったか、開拓村の情報を教えてくれた人だ。オイゲンさんは今買い出しに行っているとのことで、揃ったら出発することになった。


 新人パーティだという3人組とも挨拶をする。

 リーダーはエルビン、剣士で、他2人は女性だった。ペリンダさんは剣士、エイミーさんは魔術師をやっている。

 パーティ名はまだないそうだ。


 オイゲンさんが戻って来て、挨拶もそこそこに2つの馬車に分かれて出発する。

 僕たちは赤い風のメンバーと一緒になった。


「よう。ウサギー、セシルから聞いたけど、アンタ狩りが下手なんだってー?」


 リンさんがさっそく僕をいじってくる。


「セシルに頼まれたからな、アタシがアンタに狩人の心得ってやつを教えてやるよ。アタシは厳しいからねーしっかりついてこいよー」


「リン、それくらいにしておきなさい。ケイくん。久しぶり。魔法の練習はしている?けっこう積み重ねって大事なのよ」


 正直あまり魔法の練習はしていなかった。なかなか時間が取れないと素直にローザさんに言って謝ると、これからずっと馬車が到着するまで魔力循環の練習をしなさいと言われる。けっこうこの人もスパルタかも。


「魔法は想像力でその働きや威力は変わってくるわ。ケイくんは少し人と違った視点があるから、才能が全くないってわけじゃないと思うの。だから頑張りなさい」


 そういえば魔力が見えるっていうのをローザさんに聞いてみようと思ってたんだった。けれど集中が解けると魔力循環も途切れてしまう。その度にローザさんが僕を睨む。はい。集中します。


 途中休憩を挟むたび、剣士チームは模擬戦。僕はこの日はずっと魔力循環をさせられた。食事を作っている時もずっとだ。エイミーさんはなんか次のステップの訓練をローザさんから受けている。

 魔法の才能があるっていいなと思う。


 目的地に着いたときはもう2時を回っていた。着いたらギルド職員のロランさんがいて、宿の場所まで案内してくれる。小さいけれど小綺麗ないい宿だった。


 部屋割りの話になり、パーティごとでいいんじゃないかという話になった。赤い風のリックさんだけが黒狼の牙のところに行き、赤い風の女性メンバー、新人パーティ、そして僕たちに別れる。

 大きめの部屋は3つしか空いてなくて、そのうち一つが2人部屋だったからだ。他の部屋より小さめのその部屋は僕たちが使うことにした。


 黒狼の牙とリックさんの部屋だけ人数がいっぱいだが、リックさんはその方がいいらしい。なんかいろいろあるんだな。


 部屋に荷物を置いたら宿の前に集合する。ライツが仕掛けていった狩り場を下見する。狩り場は2ヶ所用意されているらしい。


 2ヶ所目で手本としてホーンラビット狩りを見せてみろと言われたので、エサを作ることから始めて狩りをする。

短時間でも6匹狩れた。


 あまり魔物の気配がしないときはより広範囲にエサを撒くといいと伝えて、今日のところは宿に戻った。


 食事をしながらの打ち合わせで、明日は最初は同じ場所でみんなで狩りをして、それぞれの実力と課題を見極めたあと、2ヶ所ある狩り場にそれぞれ分かれることになった。


 宿の食事はまあまあで、黒狼の人たちはずっとお酒を飲んでいた。

 リックさんは明日の食事当番らしくて、食事をしたらローザさんと買い物に出かけた。ローザさんは魔力循環を途切れさせないようにと僕に念を押して出かけて行った。


 そのうちセシルさんとリンさんが黒狼の人たちと飲みはじめて、食事の終わった僕らは巻き込まれないうちに部屋に戻ることにした。


 ちょっと旧式だけど部屋にはシャワーがあり、交代で使っていつものようにフェルの髪を乾かす。


 そのまま他愛もない話をして眠った。

 ちなみにきちんとベッドは2つあった。


 そうだよ、これがツインだよ、と思ったけど、なんかフェルは不満そうだった。


 次の日。

 訓練も兼ねているからと、フェルに早く起こされて、一緒にランニングする。

 帰って来てフェルだけシャワーを浴びて、僕は時間がないから体を拭くだけにした。

 走っている最中も魔力循環をするようにしているから、朝からけっこう疲れた。

 フェルが僕の様子を見て明日は私も真似をしてやってみると言った。


 朝食をしっかりと食べ、7時過ぎに狩り場に着く。着くと不思議と魔物の気配がいつもよりよく分かった。

 中央の奥の方にホーンラビットの気配を多く感じるな。もしかしたらキラーラビットもいるかも。奥の方に何か強い気配がある。


「真ん中のあたりに巣があるみたいです。なので最初はその巣穴から誘き出すように多めに餌を撒きます」


 新人パーティはよくわかっていないみたいだったけど、先輩方は皆頷いている。


 セシル姉さんが代表して今日の流れを僕たちに伝える。

 

「まずはそれぞれの戦闘能力を確かめる。10分程度で交代していくから、それぞれできることを最大限にやってみてくれ。そのあとは二手に分かれてもう少し個人にあったやり方を考えていくつもりだ。まずは剣士が多い新人組は黒狼の指導でやってみてくれ。ケイたちキラーラビッツは今日はうちらで預かる。この狩り場には上位種、キラーラビットだろうな、そいつがいる。その処理はわれわれがやるので気にせずホーンラビットの処理に集中してくれ」


 そう言ってセシル姉さんが僕たちの方を見る。


「じゃあまずはフェルが前衛。ケイが支援。それで一度やってみろ。死体の処理、移動は基本私たちがやる。アンタたちは気にせずホーンラビットに集中して欲しい」

 

 マジックバッグから弓と矢筒を取り出す。お互いに装備と使う武器を確認したあと、エサを広範囲に撒く。中央は少し多めに撒いた。


 ホーンラビットは簡単に餌に食いついた。冬前というのもあるのだろうか、いつものように食欲旺盛なウサギたちが柵の切れ目から現れる。


 最初はフェルが切りかかる。その死角にいるホーンラビットを矢で倒す。

 飛びかかる2体のホーンラビットをフェルが素早く斬り、僕は残っているホーンラビットの中でフェルに近いものから順に撃っていく。


 「次!交代するぞ!」


 セシル姉さんの声がして、新人パーティが入ってくる。フェルは飛びかかって来たホーンラビットを弾いて交代する。


 エイミーさんが支援魔法をかけて、剣士の2人がホーンラビットに向かっていった。次々と斬り倒していくが、ホーンラビットも数が増えて来て、だんだんと処理が遅れてくる。


「突っ込みすぎだ!2人とも、エイミー、遠距離魔法は何か使えるか?牽制でもいい、何か撃て!」


 エイミーさんが呪文を唱える。


「行きます!」

 

 その声を聞いた前衛の2人が少し距離を置く。風魔法が広範囲でホーンラビットに命中する。倒せた個体はなかったけど牽制としては効果的だった。

 エイミーさんが魔法を撃ったことで適度に距離をとってホーンラビットに対処できている。

 エイミーさんがもう一度支援魔法をかけ直す。少し魔力がきついみたいだ。


 「よし。次行くぞ。交代だ。今度は支援にケイ。前衛はリックだ」


 あれ?フェルじゃないの?

 リックさんが落ち着いてホーンラビットと向き合う。リックさんはあまり剣を振らない。その代わりここ、という瞬間に強力な一撃を当てるような戦い方をする。

 それはフェルと模擬戦をしているのを見て思っていたことだ。


「どうした?ケイ?リックに合わせろ!」


 そう言われても、難しいな。狙いがブレる。みるみるホーンラビットが溜まっていく。


 とりあえず牽制だ。矢を3本掴んででたらめにつがえる。


「右、足元撃つので気をつけて!」


 そう言って矢を放つ。3本ほぼ一直線に地面に矢が刺さり、そのあたりにいたホーンラビットが一度下がって体制を整える。


 フェルと違うのは攻撃範囲かな?

 フェルは満遍なく自分の周りを対応するけど、リックさんは壁みたい。どちらの方向でも片手で対処するから、細かいところを狙うやつには苦労してるようだった。


 なるべく処理しにくいやつを優先的に射止める。けっこう苦しいな。矢が遅れる。


「ケイ!とりあえずそれでいい。べリンダ、リックの後ろでサポート。ケイはベリンダを打つなよ!」


 ベリンダさんが、リックさんの隙間からどんどんホーンラビットを倒していく。

 リックさんが剣と盾でとどめを刺しやすいようにダメージ無視でベリンダさんの方にホーンラビットを弾き飛ばす。

 ならば僕は、僕はと思うが、離れて様子を窺っているホーンラビットには矢が全く当たらなかった。

 焦って連射するが、命中率は2割?たぶんもっと低いな。


「ケイ、交代だ。リックはそのままいったん柵の隙間を塞げ!」


「まず、ベリンダ。あんたいいよ。アタッカーとしてはだいぶいい動きができてる。問題は持久力だね。後半は剣筋がブレてたよ。フェルも問題ない。実力が他とちがうね。ケイは、自分でも言ってたように、弓での獲物の狙い方からわかってないみたいだね。アンタ狩りが下手って言ってたが、たぶんそういうことじゃないね」


 セシル姉さんは他の新人パーティの方を見て言葉を続ける。


「エルビンは、どうもこういう場合だと中途半端になるみたいだね。攻撃の範囲っつーか、間合いが狭すぎる。盾でも練習してみたらいいかもね。エイミーは魔力が少なすぎだ。もうちょっと魔力量を増やす必要があるけど、ちょっとあんたたちパーティは支援魔法に頼りすぎだね。不利を強引に魔法でなんかしようとする感じが、アタシらからすると危なっかしく見える。連携以前の話だね。それぞれの長所を見事に短所が足を引っ張っている。苦手なことでもある程度はできるようにならなきゃだめだ。ということで、これからは個別に苦手な部分の克服を課題として、2班に別れて行動するよ」 


 5分間の小休止の後、僕たちは別の狩り場に移動した。最初の狩り場は黒狼の人たちと初心者パーティで対処することになった。


「ウサギー。あんた全然できてないよ。弓の使い方?狙い方?全く分かってない感じ」


 移動中、リンさんが僕に言う。よくわからないな。狙い方が分かってないってどう言うことなんだろう。


「次はアタシが見てやるからな。弓の使い方っての、教えてやるから」


 そこからはもうめちゃくちゃだった。


 押し寄せるホーンラビットを全部弓で倒す、と言い出して、リンさんと2人で弓を構える。そんなの無理だよ。


「ウサギー、矢筒を地面に立てろ。連射しやすい体勢をつくりなー」


 言われた通り矢筒を地面に立てる、いや、立てかける。マジックバッグを地面に置き、矢を取りやすいように矢筒を立てかけた。


「じゃあ行くよー」


 リンさんが柵の蓋を外し、ホーンラビットが来るのを待つ。

 3匹出て来たところでリンさんの合図があった。


 まずは先頭のウサギから、と狙いをつけたら先に撃たれてた。


「遅いよウサギー」


 周りを見るともう3匹とも矢が刺さってる。


「アンタが早すぎるんだよ。それじゃあケイの訓練にならないじゃないか」


「そうかー。ウサギーごめんねーもうちょっとゆっくりやるわー」


 それはそれで少し悔しい。

 次に出て来た個体から矢を放つ。

 2匹は命中したけど3匹目にはかわされてしまう。


「ウサギーあんた狙いすぎなんだよー。狙ったらすぐ打つ。こんな感じ」


 リンさんが弓を構えた瞬間、矢はホーンラビットに向かって放たれてた。

 早い。


 真似をして矢を放つけど、全然当たらない。


「それだと全然狙えてないじゃないかー。ケイ。ちゃんとやってるー?もっとちゃんと狙って撃ちなー」


 なんか禅問答みたいだ。狙いすぎず、ちゃんと狙う。なんかよくわかんなくなって来た。


「いったん止めるよ。ケイが調子を崩しちまう。フェル!いったんこの辺のホーンラビットを殲滅。リンはフタを閉めてきな」


 そうセシル姉さんが言うと、フェルが風のように動いてあたりのホーンラビットを殲滅する。


「ウサギー、だからぁー、狙いすぎって言ってるじゃん!ね、ら、い、す、ぎ。こうピッて狙ったらパッて矢を放つだけなのに、なんでできないかなー」


 リンさんが早口で言ってくるけどよくわからない。混乱するばかりだ。どうしよう。















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