第60話 出発

 60 出発


 朝起きたらまず市場に行く。

 途中の街などで買えるかもしれないけど、ある程度食料は用意しておいたほうがいいだろう。

 市場で氷も買って保温箱に入れておく。


 ラウルさんのところで卵と牛乳を買って、ゴードンさんのところで野菜を仕入れた。ゴードンさんにこれから王都近辺のホーンラビットを狩りに行くと話したらとても喜んでくれた。

 途中で食べるといいと言って大きなリンゴを2つもらった。


 急いで家に戻って朝食の支度をする。

 お米はフェルがみていてくれたのですでに炊けている。

 目玉焼きと残り物の野菜炒めとお味噌汁。

 簡単に作って急いで朝ごはんを食べた。

 食べ終わったらお昼のためにおにぎりを作る。いつものようにおかずを容器に詰めて出来上がり。


 フェルがテントを畳んでくれたので、マジックバッグにしまっていく。

 ギルドには10時くらいに行けばいいからギリギリだ。

 走ってガンツの工房に向かった。


「できておるぞ。さあつけてみろ」


 ガンツにイヤーカフを渡されてつけてみると昨日のような魔力のモヤみたいなものがなくなって視界がスッキリとしていた。

 ガンツが言うには魔術付与のやり方を変えたと言うことだが、話が難しくてよくわからなかった。

 フェルの装備もきちんと仕上がっていて、フェルは感覚を慣らすために剣を振っている。


 僕もガンツに的を用意してもらって何度か弓を引いていたら馬車が工房に到着した。なんとライツが御者をしている。


「ケイ!これからギルドに行くんだろ?俺も同行することになったから乗ってけよ」


「助かるよ、ライツ。ここからギルドまで走って行かなきゃ間に合わないかと思ってたんだ。フェル!そろそろ出発しよう。ライツが馬車に乗せていってくれるって」


 汗を拭きながらフェルがこっちに戻ってきた。


 木材などいろいろ乗せている馬車の空いてるスペースにフェルと一緒に乗り込む。


「じゃあガンツ行ってくるね!戻ってきたらまた顔出すよ!」


 ガンツは僕たちが見えなくなるまで工房の前で見送ってくれた。


「着いたぞ。ギルドだ」


 ライツの声がして馬車が止まる。

 降りるともう一台馬車が止まっていた。


 受付に行くとギルドマスターの部屋に案内される。


 今回同行するギルドの職員はロランさんという40代くらいの男性と受付のサリーさん、それから解体所の副主任のマルセルさんの3名。

 マルセルさんとは解体所の講習などで面識があったが、ロランさんは初めてだ。

 ロランさんは普段ギルドの事務仕事の他、王都近郊の街や村を回って、ギルドの出張所との連絡係をしているそうだ。


 僕たちはこれから馬車で王都の近くの穀倉地帯にある街に行く。そしてそこで一泊したあとその街の周辺で2日ほどホーンラビットを狩る。

 予定では3ヶ所、状況によってはもう少し増えるかもしれないとギルマスが言っていた。その場合はもう1泊して王都に戻ってくるとのことだ。

 帰ってくるのは3日後の夜、延びても4日後の夕方くらいになる。


 依頼の手続きをしたら馬車に乗って出発だ。僕たちはギルドの馬車に乗る。御者はマルセルさんがやってくれた。

 途中休憩を挟み、そこで昼ごはんを食べる。昼ごはんを食べながらライツに狩りのやり方と柵の作り方、大体の範囲を説明する。そのあとライツはギルドの職員たちと打ち合わせを始めた。その間にこっそり昨日の残りのプリンをフェルと食べる。


 保温箱で冷やしておいたプリンは昨日より美味しく感じられた。フェルも目をキラキラさせて夢中で食べている。

 2つしかないのでみんなに見つかる前に急いで食べた。


 道中は何もなく順調に馬車は進み、夕方には目的地の街に着いた。


 ライツは木材の仕入れ先に顔を出すと言って馬車でどこかに向かって行った。


 宿は前回僕たちが泊まった宿ではなく、もっと街の入り口近くにある比較的大きめな宿だった。

 ギルドの出張所の人がすでに予約をしていたらしく、僕とフェル、それからライツも個室を用意されていた。


 狭いけれどきちんと掃除されている部屋でユニットバスがついている。お風呂付きなのはとてもありがたかった。

 夕食まではまだ時間があるのでとりあえずお風呂に入ることにする。

 フェルには別れるときにマジックバッグから必要なものを取り出してもらっているから多分大丈夫だろう。


 風呂から上がりぼーっとしているとドアをノックする音がする。

 開けると少し照れたような佇まいのフェルがいた。


「髪を……乾かしてもらえないだろうか……」


 笑顔でフェルを部屋に招き入れた。


「ケイ、今日のプリンは特別うまかったぞ。あれは冷たい方が良いのだな。皆がいるので言葉にできないのが歯痒かった」


「気に入ってくれて嬉しいよ。また作るね。ちょっと材料が高いから毎日ってわけにはいかないけど」


「本当か?楽しみにしているぞ。私はあんな菓子は初めて食べた。毎日でなくてもいい。気が向いた時でいいからまた作ってくれ!」


 髪を乾かされながら、フェルが嬉しそうに話す。そういえばフェルと分かれて泊まるのは久しぶりだ。最初の町に泊まって以来、ずっと同じ部屋だもんな。


 フェルの髪も乾き、支度をしてくるとフェルは自分の部屋に戻った。

 僕も着替えて夕食を食べに行く。


 宿の食堂に行くと受付のサリーさんが先に来ていて僕に手を振った。

 席に着こうとしたところでフェルもやってきて2人で席に着く。


「あなたたちすごいわねぇ。最初にギルドに来た時はどうなることかと思ったけど、こうしてホーンラビットの狩りの技術をギルドに公開することになるなんて。ほんと驚いたわ」


「たまたま偶然思いついただけなんです。ギルドで魔獣のことを調べていて、ホーンラビットは何を食べてるんだろって思って。畑を荒らすとしたら何か野菜なのかなって。じゃあ荒地にいるホーンラビットにエサを撒いたら集まってくるんじゃないかって思ったんです」


「普通の冒険者はそこまで深く考えたりしないわ。潜んでる場所とどんな攻撃をしてくるかくらいしか調べたりしないもの」


「それに時期もちょうど良かったんです。あの南西の森のゴブリン大発生の影響で、森の近くの荒地にいっぱいホーンラビットが逃げ込んでいたことと重なったりして。そもそもこの狩りのやり方は、どうしたらフェルがもっと安全に狩りができるんだろうって思って考えた方法だし。……フェルはとても強いけど、やっぱりときどきホーンラビットの攻撃をいなしたり、受け止めたりしていたから……充分な装備がなかった僕たちはとにかくケガをしないように工夫するしかなくって」


「それが今回のことに繋がっているのね。フェルちゃんは大事にされてるわ。うらやましい」


 そう言ってサリーさんが微笑む。

 フェルは所在なさげにモジモジとしている。

 そのうちにみんなが集まり、夕食を食べながら簡単な打ち合わせをした。

 はじめは狩り場を移すかもしれないので、柵はあくまで簡易的なものをお願いした。ライツがやたら張り切っていたからだ。


 作った柵は今回は残していく。

 後日出張所の職員が管理を引き継ぐらしい。

 定期的に狩りをしてホーンラビットの生態調査を行うのだそうだ。まだ話し合いの段階だけど、王都から学者も出向いてこの街周辺で調査と研究をしていくらしい。

 そこに新人冒険者を優先的に投入して、新人の消耗率を下げ、冒険者の育成を狙う、というところまでが今回のギルドの計画なんだそうだ。なんかよく考えられているな。ギルドマスターは意外と頭の回転がいいんだろうか?なんか脳みそが筋肉でできているような印象だったけど、コーヒーが趣味だったり、ゼランドさんに協力を依頼したり、気が回ると言うか、先々のことを考えていると言うか。

 サリーさんにギルドマスターってすごい人なんですねと言うと、サリーさんは少し顔を歪めて微笑む。


「そりゃそうよ。あんな見た目でもSランクパーティのリーダーをしていた人なのよ。難易度が高い大規模な合同の討伐戦では必ずあの人が指揮をとっていたわ。私はその頃新人で特別関わったことはなかったけど、とにかくすごい人なんだっていうことは知っていたわ。あんな見た目なんだけどね」


 そう言ってサリーさんはクスッと笑った。


 明日は早くに出発だ。まずは被害の多い地域に行って狩りをやってみることになっている。明日に備えて早めに解散することになった。


 部屋に戻って明日の準備をして、ベッドに入ったが何か落ち着かない。

 いつのまにかフェルと一緒にいるのが日常になってしまっている。


 フェルはもう寝ただろうか。


 その日はなかなか眠れずに、明日の昼食の仕込みなど念入りにやってしまった。

 













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る