第39話 ライツ
39 ライツ
なんとなくそんな気はしたけれど、連れてこられたのはライツの工房だった。
「こんにちはライツさん。こないだはありがとう」
「どうした坊主、盾になんか問題あったか?」
僕の代わりにフェルが答える。
「全く問題ないぞ、いいな、この盾は。昨日の討伐は実にやりやすかった。おかげで前の日の倍の数の獲物が狩れたのだ。本当に感謝する」
フェルがそう言うとライツは嬉しそうな顔になる。
「ごめんね、僕たちこの間名前を名乗らずに帰っちゃった。僕の名前はケイって言うんだ。こっちはフェル。今日はガンツに作って欲しいものがあって工房に行ったんだけど、そしたら部品の一部は木で作った方がいいってガンツが言い出して、それで一緒に来たんだ」
「なんじゃ、お前ら知り合いだったのか?どうりでフェルのつけてる盾の出来がいいと思った。なんじゃお前さんの仕事じゃったか」
「おう、ガンツ、そうだぜ、こいつら若えのに命の大切さがよくわかってる。暇だったから廃材使ってちょっと作ってやったんだ」
「なるほどのう。どうやらオヌシもケイ達を気に入ったようじゃな。さてライツよ。ちょっと作って欲しいものがあるんじゃが今時間空いておるかの?」
店の中のライツの机に向き合って座り、ガンツは手書きであっという間に設計図を書いた。
その間ちょっと暇になったので、この間の弓を手に取った。
覚えたての身体強化を使って弓を引く、この前よりもかなりスムーズに引けた。
弓のカラ打ちは弓を痛めるので引いた弦はゆっくり戻す。
今度は引く姿勢にも気をつけてなるべく綺麗な形を意識しながら弓を引く。
やっぱりいいなこの弓。
身体強化を解除して、さっきのイメージでまた弓を引く。かなりきついが綺麗に引けた。
テントのところの空き地に干したあの雑草を束にして的でも作ろうかな。
それで毎日練習して、フェルを助けられるようになるんだ。
僕だっていつかはフェルを守れるようになりたい。
たとえ冒険者にならなくたって、なんかあった時にはフェルのことを助けられる力が欲しいんだ。
そう考えながら、身体強化を使って、型を意識しながら弓を引き続ける。
ふと気がつくと、ガンツとライツが驚いた顔をしてこちらを見ている。
「ケイ、こないだよりだいぶ様になってるじゃねえか、身体強化ができるようになったのか?充分引けてるぜ。銀貨15枚、金ができたか?」
「ライツ!あの売れ残りに銀貨15枚じゃと?そんなケチくさいこと言わんでもっと安くしてやれ!タダでもいいくらいだぞ。あんな古い弓」
ガンツがライツに大声で怒鳴る。
「ガンツ、あれはエルダートレントのいい部分を削り出して作ってんだぞ?俺の自信作だ。いくらなんでもタダってことはねーだろ。けっこう時間がかかったんだぜ」
「どうせ埃をかぶってたんじゃ、使い手がいるなら使ってもらった方があの弓も喜ぶじゃろう。ワシはケイのことが気に入ったのだ。オヌシもそうであろう?さあいくらだ。いくらなら売る?」
「くっ……確かに道具は使ってこそ価値がある。んー。銀貨5枚でどうだっ!これ以上はまからんぞ!」
「ケイー。ライツが銀貨5枚で良いと言っておるぞ。今手持ちはあるか?なんならワシが建て替えてやっても良い。どうじゃ?」
「今すぐ払います!お金持ってます!」
僕は弓を棚に戻してライツにお金を渡す。
「よし、いいぜ。じゃああの弓持ってけよ。矢は足りてるか?店に残ってんのタダでやるよ。ちょっと待ってな」
そう言ってライツは店の奥から矢筒を2個、中に入るだけ矢を入れて持って来た。
「矢が足りなくなったら遠慮なく言え。用意しておくからな」
そう言ってライツはニヤリと笑う。
僕は弓と矢筒を受け取る。
これが後々大活躍するライツの弓である。
この弓を使って僕は大勢の冒険者を助けることができたんだ。
「よし、打ち合わせは終わりだな、ガンツ。明日の朝には届けてやる」
「そうじゃな、なるべく早めに持って来てくれるか?試運転して修正しなくちゃいけないからな。ケイ悪いんだが、後でうちに寄ってさっきの米を一袋置いてってくれんか?金は払うぞ。実際にうまく行くか試さなくてはならんからな」
「お金なんていらないよ。お米ってすごく安く買えるんだ。いっぱいこないだ買ったから大丈夫だよ。それからライツ。弓をありがとう。この弓で毎日練習するよ。この弓ほんとに使いやすいんだ。弓を引いて構えるだけで、あ、この矢は絶対あたるなってそんな感覚になるんだ」
ライツは少し驚いたような顔になったが、すぐにいつもの顔でニヤリと笑った。
「なんせ素材がいいの使ってるからな。俺が倒したエルダートレントの素材だ。かなり貴重なんだぜ」
「何が俺が倒しただ、とどめを刺したのはあいつで、お前はただ素材を拾っただけじゃろが」
「オレだっていろいろ活躍したぜ。周りのトレントを全部倒したのはオレだ。それでとどめをさせたんだからオレが倒したようなもんじゃねえか」
睨み合うガンツとライツ。仲が良さそうだ。
見ていて微笑ましい。2人とも髭もじゃのおっさんだけど。
「さて、ケイ、今日は気分がいい。なんか他に必要なものはないか?簡単にできるものならすぐ作ってやるぜ」
僕はライツに外に流し台を作りたいと相談を持ちかけた。水は魔法で出せるから洗い物がしやすい台を作りたいのだ。
「流し台か、取り壊した家の廃材でそういうのがあったな。倉庫にずっと前から置いてあるからいいぜ。銅貨20枚でいい。あとで組み立てられるようにしてやるから、帰ったらお前たちで仕上げをしろ。ちょっと外に出るぞ、ついてこい」
そう言ってライツは僕たちを倉庫の前まで連れて行く。
ライツは壊れた流し台、そして木材を次々に使ってちょうどいいものをあっという間に作ってしまった。
そして流し台の足の部分を器用に外しマジックバッグに入るようにしてくれた。
「釘はこれな。足をこうやってここにはめて最後こことここに釘を打て。印をつけとくからな」
僕はライツに銅貨20枚渡して流し台を受け取った。
ガンツの工房に米を置いてから、西門に向かう。そこから乗り合い馬車に乗って中央へ向かった。
本格的に寒くなる前に冬服を調達したかった。
ゼランドさんの商会に行く前に向かいにあった洋服屋に入る。周りに布関係の店もないので、たぶんここが3男の言ってた姉妹店なんだろう。
中に入ると上品そうな女の人が、ゆっくりとこちらにあるいてきた。
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