春馬


私は前例から、まわってきたマイクを手に、もはやそういう職業なの?


へたしたら、バスガイドさんより、知識と話がうまい、


ーとなりに座ってる、柴原真央さんをあきれてみていた。


なぞに、ほんとうに、なぞに、よく話す。


しかも、これから行く三連水車にくわしい。バスガイドさんも担任も興味津々に、話をきいてる。


たまに、とおる道のことなんかもおりまぜながら、よくわからない話を、けど、わかりやすく、


ーうまくごまかして、話をしている。


私もまわりも一瞬は、理解しても、たぶん、思い出したら、


きっと、忘れてる。


そんな話を、とてもうまくするから、もはや才能なんだろうなあ。


私は、ただ、あきれながら、柴原さんをみていて、気がついた。


柴原さんは、窓の外の景色をみながから、たまにバスガイドさんに、あとどれくらいで目的地到着かを、ききながら、


ーとなりに座ってる私に、一瞬だけら視線を送ってくる。


なに?


ほんとうに、ほんの一瞬だけで、そのあと、また水車やその時代やほかの自然の知恵をいかした偉大な発明や思想なんかにうつる。


そして、また、時間を、確認してる。


マイクを独占状態だけど、違和感なくスラスラ話してたまに笑えるから、みんな疑問もなくきいてる。


けど、


また柴原さんがチラッと私をみて、窓の外をみて、少しホッとした顔になった。


窓の外には、水車がみえる。


と思ってたら、


「というわけで、素晴らしい歴史価値の水車をいまから、見に行きます。あー、しゃべりすぎた。次は、あれ?明日菜、酔った?」


私にマイクむけてきたから、つい。


「えっ?酔っては、ないと思うけど」


あきれはした。


ある意味、柴原真央に酔ってた。


そう思ってたら、


「あっ、水車についた。とりあえず、明日菜、自己紹介だよ?名前は?」


「えっ?私?」


「明日菜の名前だよ?」


笑って柴原さんが言うけど、雰囲気が明るいから、みんな笑ってるけど、


ー私の名前だよ?明日菜は。


不思議に思いながら、


「神城明日菜です」


ってこたえたら、


「あっ、時間切れだ。明日菜ごめんね?水車についた。名前言ったから、いいよね?自己紹介。そもそもクラスで明日菜知らない人いないし?知らないって言うくらいなら、知ってるし?」


そうまわりを見渡し、とくに男子をみてから、


「はい、先生。次の自己紹介は、明日菜の次からです。あっ、バスガイドさん、私たちの席の後ろからお願いします。すいません、ひとりで話して」  


「あなた、すごいわねー。将来、バスガイドにならない?」


「私、音痴なんで」


そういえば、柴原さんの和菓子屋で長年働いてくれてる職人さんが歌う黒田節の音程を、見事な音階バランスで歌ってた。


歴史好きなお兄ちゃんが好きな歌で、YouTubeで何回か小さな頃にきいていたから、よくわかる。


わりと男の人が歌うことが多い。だから、柴原さんと音程が違うけど、わざわざ不快な音階にずらしてきた。


あれ、めちゃくちゃ、たぶん耳がいい。


実際に彼女は、たまに、無意識に歌を口ずさむけど、


ーうまい。


けど、今日の歌しか知らない担任やバスガイドさん、クラスメイト、とくに交流がない男子たちは、笑ってた


そして、ちょうどバスが停車した。


目的地についた。


バスの脇にみえる大きな水車。


「行こう?明日菜」


「うん、自己紹介、ありがとう。助けてくれて」


私が言うと、


「あー、もう、明日菜ってば、素直でかわいい!アイツにやりたくない」


ぎゅっと抱きしめてきたけど、


「ーだれ?」


「さあ?」


身をはなしながら、柴原さんは、イタズラを企らむ顔をした。


私は不思議に思って、柴原さんをじっと見つめる。


イタズラをイタズラだと見抜かれながら、なんでうれしそうに、けど、


ーどこかさびしげに、切なそうに、私を、ううん?誰をみてるの?


私は不思議に思って、じっと、柴原さんをまっすぐに黙って見つめる。


そしたら、柴原さんはめずらしく、ほんとうに、めずらしく心底こまった顔をした。


「明日菜、そのクセは、男の人にはー、いや、まあ、うーん?」


「くせ?」


いま、私なんかした?


不思議に思って首を小さく傾げたら、


「無意識だもんね。さすが明日菜」


奇妙な感想に、ますます不思議にら思ってたら、


「けど、アイツには、通じないから、意味ないかなあ。アイツ、異次元だよね」


いや、アイツも私たちを異世界とか言うから、結局は、同じ世界にいるよね?


って言われても、そもそも、


「アイツって、誰だと思う?明日菜?」


そう言われて、柴原さんの視線の先に映る別のクラスのバス。


ーどくん。


と私の鼓動が、おおきく、なる。


まって?明日菜。


ーおちついて?あのバスは違うよ?


まって、私?


また、


ーどくん。


と、私の鼓動が耳に響く。


ちがう。


耳じゃない。


だれからも、きこえない。


だれの声でもない、


そうだ。


そうだ、けど、


ーどうして?


戸惑って、私は柴原さんを見つめる。


柴原さんは、またこまったように、笑う。


「だからね?明日菜、その癖はさ?うーん?くせ、だからなあ。しょうがないのかなあ」


クスクス笑う。


「くせって不思議だよね?明日菜はさ、末っ子だよね?上の兄姉は優しい?」


「ー?うん、優しいよ?」


ーお兄ちゃんは、なんか優しい度合いが、違うかも?だけど。


けど、お兄ちゃんは、下にお姉ちゃんがいて、私がいる。


私は、お兄ちゃんと、お姉ちゃんがいる。


お兄ちゃんには、だれもいないし、お姉ちゃんに、お兄ちゃんはいるけど、お姉ちゃんは、いない。


私には、妹や弟がいなくて、


ー当たり前だと、思ってだけど。


あれ?ものすごく、


ー違う?


「ううん?まあ、違うだろうけど、私も末っ子だからさ?そこは、もう考えてもわからないし?だから、もう考えないんだけどね?」


考えても推測しかないし?推測はただ推測で、間違えてることも多いし?


「だって、さっき話した三連水車やその歴史はすべて、ネットや本で調べてさ?ただそれを私の言葉に置き換えてみたんだよね。明日菜覚えた?」


素直に私は首をふる。きいてる間は、退屈しなかったけど、覚えてない。


柴原さんは、頭がいい。


「うーん?それもさ、ちょっと違うんだよね。ワーキングメモリーって、違う基準になるんだ。ふと目に入って覚えてるのは、また違うんだ。音から入るんだよ?ワーキングメモリーって」


「なんでカタカナでそう伝わるのかわからないけど。ただ、私もアイツもさ、たぶん、感覚過敏はあるんだよね。ふつうに、いろんな自然がさ?ただ、五感のどれかにね、ふつうにね、ただ、うーん?」


たぶん違うなら、不思議に思うことなんだろうなあ。


ー不思議だから、不思議で仕方ないから、たぶん、それだけで、暗記する、暗記だけで満足できないなら、さらに先の進化をみたいか、起源をみたいか?


人それぞれで、たんなる


ー個性。


たんに、その光景の一部を暗記してしまう。


ほんとうに、ただ、不思議で、


「考える人やさ?首を傾げてもさ?」


ー「?」がなければ、わからないよね?


調べないとさ?考える人が先か、考える人があとか?


たださ?


「考えるときにさ?行儀が悪いし、失礼だからって、肘をつくなって言われて、日本は育つ人多いけど、頬杖とも言うよね?ふつうに考えごとしてたらさ?なにかに集中すればするほど、腕は身体を支えるためにくむし、頭を支えるより視力や聴力に集中するから、手で頭を支えるよね?」


そう言われても、そもそも


ー考える人、


は、そういう意味だとうけとって、そもそも、


ーその意味を考えるよりさきに、


タイトル?


だけど、たしか、あれ?作者がつけたんだっけ?最初は違うタイトルだったような?


柴原さんは、私の疑問がわかった様子で、続けた。


「それが漫画やテレビ、彫刻や絵、いろんなことから、先に学ぶのか、癖かはわからないけど、合理的なくせだよね?だって、ちゃんと視線が前みてるなら、考えてる証拠だし、きいてる証拠だよ?」


だからさ、


「作者が亡くなったあと、違う人がタイトルつけても、違和感なく有名になるよね?みんながやるポーズだもん」


一緒にバスのステップを先に降りた柴原さんが、ステップを降りた私を振り返って、きいた。


ちょっと嫌な雰囲気は感じた。


「で、だれの顔が浮かんだの」


って、にやにやするから、


「知らない、よ?」


たぶん、知らなくて、いいよ?


そう声が小さくなる、から、


「あーん!明日菜かわいい!食べちゃいたい。わかるわあ、もい、わかるわあ」


なにがわかるかは、


ーきかないことにした。


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