明日菜 ①
修学旅行の自由行動の予定ぎめを、他クラスの男子グループとする。
そう柴原さんに言われて、私はとっさに家の用事があるからと断っていた。
ー用事なんかないけど。
ただでさえ、男子は苦手だし、他クラスになるとなおさら、
ー嫌だなあ。
そう思った。
それに,目の前にいる友人、柴原真央の彼氏も私は、苦手だった。
最近、というか、もともと私は、女子から陰口が多いし、傘や上靴はすぐなくなる。
今日も職員室でかりたスリッパだ。
一年生の冬よりも、マシになったけど。
女子に人気の先輩が私に告白した、そう言うデタラメな嘘がながれてる。
けど、
私にはわからないから、そのままにしていた。
ーイチイチ、告白してくる人なんか覚えてない。
男女問わず、年齢関係なく、
ー私は、目立つ。
そのなんとか先輩は、モテるんだろうけど、私はモテているわけじゃない。
ただ、
ー目立つ。
日本では、出る杭は打たれる。けど、ね?
ー曲がって打つなら、曲がったまま残ってしまうよ?
曲がって出てしまった釘のある椅子に、腰かけたい人なんかいるの?
どうせ。みんな、私に都合のいい夢しか見ないくせに。
曲がってしまったら、真っ直ぐにぬくの?
抜けるの?
抜いても、曲がった釘なんか、
ーどうせ使わないで、捨てるんでしょ?
友人と分かれて、職員室にスリッパを返しにいく途中の廊下で、私は足をとめる。
落とし物いれ箱。
キョロキョロまわりをみわたして、まわりに誰もいないことを確認して、私は鞄から折り畳みをとりだした。
どこにでもある降りた傘。小さな空色の蛍光マーク。
「ありがとう」
そうつぶやく。
最初は、ストーカー?
って、気味が悪くて、使わなかったけど。
もっといえば、この人がわざと私の傘を隠して、いいひとアピールしてくるかと、思ってた。
だけど、なんのリアクションもなく、雨降りにさりげなく下駄箱に入っていて、私も翌日に、落とし物入れに、かえしている。
なんとなく、名前も顔も知らない彼との内緒のルール。
ちがうよ?明日菜?
…名前は知ってる。
あの日の屋上にきてきれた柴原さんから、きいた。
柴原さんは、明日菜って言うけど。
私には、柴原さん、なんだ。
そう思いながら、下駄箱をみて、
ーもう、驚かない。
靴がない。ううん、靴はあるけど、虫の死骸や赤いペンキで真っ赤になってる。
死骸は、よくみたらフィギュアだから、やっぱりなんとかって、先輩からみかなあ?
どうしよう?スリッパ返したし、先生にイチイチ理由をいうのも面倒くさい。
私はなんとなく、落とし物入れを見たけど、蛍光マークはなくて、
ーそりゃあ。そうだよ。彼だって二年生だし、いまごろきっと、修学旅行の自由行動の話をしてるはず。
私はため息をついて、裏門からくつ下であるきだした。
そして、あまりの地面の暑さに靴下でも痛くて、人気のない公園のベンチにいた。
そうしたら、いきなり、白いビニール袋がとんできたと思ったら、
ーへんな犬が目の前にいる。
たぶん?飼い主がビニールをなげたんだよね?
ボールをなげて、
ーふつうなら、飼い主のところにもどるはず?
私の足もに、バサっとビニール袋が落ちた。
中には白い100円ショップのクロックス。
ー空色の蛍光マークが、目立たないようにあった。
彼、だ。
テリア系の雑種は,彼の犬なのかな?リードがついてるから、散歩をしていて、私を見つけたのかな?
ぶんぶん尻尾を振ってる犬をみる。テリアの血が入ってるけど、日本では、
ー雑種。
この子たちには、そんな呼び名は関係ないよね?
鼻だけ黒いんだね?あとはくすんだ白い毛並み。
白黒だとダルメシアンとか有名だけど、この子は違う。鼻だけ黒くて、うすい白茶。
ー外国の白髪染めは多岐にわたって、種類が多いって、柴原さんが話していた。
たんに色を調べてみたらしい。彼女は頭がいいけど。
ーどうせまた離れていくよ?
柴原さんの彼氏の視線も言葉も私は、すきじゃない。
ーそして、
柴原さんも、きっとー。
それなら、最初からやさしくしなきゃいいのに。
ー近づかないならいのに。
私は手を伸ばして、犬の頭をなでる。
きちんと毛をブラッシングされてる。
「…あなたは、大切にされてるんだね?」
やさしい飼い主にあえたんだね?
けど、
「ありがとう、ストーカーさん」
私には、やっぱり野良猫は、
ー人に懐いちゃダメなんだ。
そう思うんだ。
そして、
ー素直にクロックスを受け取った。
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