第11話 竜生 春馬 ①
俺は、村上竜生。
辰年生まれで、だから、春馬と同じくこの名前だ。
まあ、わかりやすいから、べつにいいけど。
ただし、やっぱり年齢は、名前から当てられる。
漢字って意味が深い。
そんな俺は、中3になって、サッカー部では、キャプテンをまかされた。
俺にとっては、最後の夏だし、はりきっていた。
ー弟の春馬に、サッカーやめさせた分、俺は部活も勉強も頑張っていた。
正直、野球部にいれたのは、失敗した。
俺が一年生の頃の野球部は、いまより、ずっと、きちんとしていた。
野球部経験者の顧問で、熱心な先生だったけど、公立は、移動がある。
春馬が入学した時には、転任していた。そんなことを知らなかったから、小学生の春馬にずっと野球部って言ってた。
だって、みていたんだ。
サッカーしながら、野球なら春馬にも目立つチャンスがあるのか?
そう思っていたんだ。
もともと俺は要領がいい。春馬は手先は器用だけど、俺にもよくわからない遊びに夢中になってる。
春馬は、昔から屋根によく登っていた。
南九州の片田舎の日差しは、強い。
母さんが言うには、昔より暑くなっているらしい。
ー地球温暖化。
爺ちゃんの小さなころには、なかった言葉らしい。
そして、戦争を生きぬいたじいちゃんは、ある意味でものづくり日本その人、みたいだった。
何もない焦土から、たちあがり、たくさんの物を生み出した。
じいちゃんの学校時代は、部品を作っていたらしい。
なんの部品かは、じいちゃんは俺たちには、言わなかった。
たぶん、幼い俺たちには、言えないんだ。
幼い頃から春馬は、じいちゃんっ子だった。じいちゃんも春馬を可愛がっていた。
春馬は、少し雰囲気がなくなったばあちゃんに、似てるらしい。
じいちゃんは、春馬に、たくさんの事を教えていたけど、
ーいまは、もっと便利で、安全。
俺はそう思ってみていた。たまに、
ーじいちゃん、大丈夫か?
って、思ってた。実際、そうだった。
ある日、春馬が屋根にのぼり、いろんなものを使って、
ードックフードの缶タイプを、太陽とタイルと、etcを使って焼いていた。
ただ、じいちゃんまで面白がり、大変なことになっていた。
缶だけでなく屋根まで焦げて、じいちゃんと一緒に母さんに叱られていた。
その事件後、まもなく、じいちゃんは、転んで足を骨折した。
病院に入院して、そのまま施設で亡くなった。
俺もいちど入院中に、お見舞いに行ったけど、俺を昔の親父と勘違いしていた。
話がかなり飛ぶ。よくわからない話ばかりで、俺は母さんと早々に退散した。
春馬は親父といた。じいちゃんは、なぜか親父を、自分の親父、曾祖父と勘違いしていた。
春馬は、ただ黙ってたらしい。
じいちゃんが亡くなった日、春馬は、病院から家に帰ると、庭にラッシーといっしょにひたすら、穴を掘っていた。
穴をほり、バケツに水を張り、
ーなかでネズミ花火をしていた。
ラッシーが煙に近づいて、最後のパンッて音にびびってた。
なぜ、穴を掘ってたのかは、知らない。
そして、ネズミ花火だったのかも。
ただ、屋根騒ぎで反省は、したんだろう。
バケツの水で消化して、たくさん土をかぶせていた。
ラッシーは音にびびって近づいてなかった。あの行動に春馬は変だと、俺は、はじめて思った。
そして、そういう春馬を、俺の友達たちが避けるようになっていく。
お前の弟、なんか変だ。
きみかわるい。
春馬の耳に届くように言われても、春馬は何にも反応しなかった。
ただラッシーと遊んでる。
ひとりで小遣い使って、変な遊びを、唯一の友人の黄原とやっていた。
たまにペットボトルを飛ばすけど、
ーおまえ、それは一般的な方法か?
親父は黙ってたけど、母さんは、いつも春馬を叱っていた。
春馬は、ただ母さんをみていた。それも母さんの怒りをかう。
親父は、黙ってた。
ーなんで黙ってるんだよ!
親父が動かないなら、俺がやる!
俺がちゃんと、春馬をふつうにする!
笑わせてやるよ?
たくさん、遊ばせるよ?
黄原以外にも、たくさんの友人をー。
そう思っていたけど、
ー春馬は、俺の弟だった。
俺が春馬の見本になるように、頑張れば頑張るほど、
ーなんで、お兄ちゃんみたいに、できないの?
母さんは、春馬に怒っていた。
違う。違う。春馬は、できるんだ!
できるはずなんだ!
だって、俺の弟だぞ?
だって、だって、
ーだって、俺の弟なんだ。
俺はいつのまにか、中学で人気になってた。俺には、なにも言わない奴らが、春馬を標的にしては、
ー無視されている。
無視は、さ?
ー相手に無視されたら、他人でしかないんだ。
春馬の世界は、独特で、悪口を言われても理解してない。
ただ、黙ってるから、春馬を知らな奴らは、俺には頭のおかしな弟がいると噂する。
ー俺に、言えよ!
だけど、春馬が言わない。というか、覚えてない。
アイツらに関心がないんだ、
ー俺には。春馬がわからない。
黙ってみてる親父は、わかるのか?
怒りまくる母さんは、わかるのか?
そして、俺は、春馬の目に入ってるのか?
春馬は、できないわけじゃない。
真冬の寒い日に、ひとりでグランドで、デタラメな素振りをする春馬を見つけて、唇をかんだ。
ー俺が野球をしろって、言ったから。
春馬は、野球なら活躍すると思ってたんだ。
だって、あいつは、サッカーはうまいけど、
ー自分からは、動かない。
というか、位置をよみ、パスをする場所にいるけど、すぐに、またパスをする。
ドリブルもリフティングも、ボールさばきは俺よりもうまいけど、
ー自分からは、動かない。
と言って、指示がいるわけでもなく、パスをだしたい位置にいる。
けど、シュートシーンには、絡んでこない。目立つことを無意識に避けてるんだろう。
個人技は俺よりうまいのに、シュートチャンスは、俺にまわる。
ただ、シュートチャンスが俺にくる。
なあ?なんでだ?
母さんを見返せよ?みんなを見返せよ?
ーその茶色がかった瞳で、俺をみろよ!
春馬は、めったに目が合わない。
のに。
「さっきは、びびったな」
二重の意味で、びびった。
アイツが話しかけてきたこと。
それが、神城がらみだったこと。
ーつい、見栄をはった。
俺は、神城明日菜にふられてる。
ただ、告白まではしてない。
演劇部の手伝いをしたとき、一瞬でひかれた。
圧倒的な、なにか。
だけど、同時に悟った。
ー春馬みたいに、視界に俺が入らない。
なあ?春馬。
お前なら、神城の視界にはいるのか?
そして、春馬の視界に、
ーだれが入るんだ?
あのラッシーと掘った穴に、
ーお前はなにを、願ってた?
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