第4話 ナガレタゴカエル
俺は、傘を見ながら、あの日を思い出していた。
季節はひとつ前の真冬だった。
正確な日は覚えていない。
その日も顧問は部活をさぼっていて、3年生も引退して、何よりもさむくて、真面目に練習しているのは、俺一人だけだった。
というか先輩の素振りでもてきとうに、各自練習して。
って言葉をそのまま、
ー素振りを練習する。
と、うけとめた。
俺は、まわりが、リトルリーグだらけの出身者の中で、ひとりだけ、初心者だったから、
ーまあ、基本が必要なんだろう?
って思っていたけど、同級生も先輩にも、もちろん顧問にも、素振りを教えてもらったことがなかった。
小学校でやっていたのは、サッカーだし。
ただ、持ち方や、よくわからないが、左打者の俺が、右打者で、でたらめな打撃フォームだったけど、後輩に教えられるまでそうやってた。
だから、素振りは、なんかやった後に、筋肉痛みたいにいつもなる。
ーフォームって、よくできてるんだな。
って後輩から教えてもらって、一番に感心した。
「なんで、教えてもらわなかったんですか?」
・・・テレビで、みてたから?
YOUならあったんだろうな。めんどくさいから、調べなかった。
兄貴に言われて入部した野球部だ。
俺以外のみんなは、リトルリーグ出身。
なら、俺が頑張るのも、なんだか変な気がした。スタートラインが違うし、野球は好きでも嫌いでもない。
サッカーは、サッカーボールがいちばん好きだった。
サッカーが好きだったかは、俺には、いまひとつわからない。
野球はもっとむずかしい。
とくに、かけ声がわからないから、よく怒られていた。
へいへい、ピッチャーどうした?
とか?
はい?いま、ピッチャーなげました!
テレビのスポーツ実況と重なって、
ー?
たしかに、いま、投げた。
みてる。
ー?
おれには、よくわからないけど、一緒にみてる母親やアニキは、
ーあっ!なんで、いまの球を打たない!
ーやった!ストライク!
って、歓声をあけて、
ーいやあ。いまのは、シンカーですかね?
って解説がある、
うちの母親もアニキも、そこは、どうでもいいらしい。
俺は、むしろ不思議で、投げ方だけは、調べたし、やってる、
ただ、家の壁を相手になげてる。
ストライクゾーンは、相手の身長だから、よくわらない。
ただ、壁に先輩たちの身長から、予測したど真ん中に印をつけて、
ーいろんな球腫をど真ん中に投げるは、おほえた。
わりとピッチング練習は、しているけど、
ーなんかど真ん中しかいかない。
先輩か構えるミットには、ボールが行かない。
だってさあ?
ーど真ん中が、いちばん、むずかしいじゃん?打つの?
なら、ど真ん中でよくね?
だし、わかりやすい、
たまに、そう思う。思うから、それしかやらない。
だって、効率化ならそうなる。
ど真ん中は、身長により違う。
ーなら、ちゃんと、
ど真ん中だ。
コントロールは、してる。
し、
ーど真ん中すら、空振りするのに?
というか、ど真ん中を当てに行くは、
ーむずかしくね?
バットの握り方すら、わかんない俺が言うのもおかしな話だけど。
だから、俺は、先輩たちにとっては、
ー反抗的、に、みえるらしい。
ー?
反抗なんかしてないぞ?
そもそも俺には、先輩、後輩の区別すらついてない。
だって、小学校までは、
ー上級生はお手本?下級生は、優しくしましょう?
だったような?
小6と中3だと、かなり、なんか違う?
まあ、小6と小1は、確かに違うけど。小6と小4も違うし、小学5年で、6年生に、なんか特別な感情はなかった。
ふつうに、友達だった。
サッカークラブだって、仲間で友達だったのに。
ーいきなり中学校で、先輩、後輩が始まる。
だから、ど真ん中で、遊ぶ俺は、いつだって、
ー生意気。
に、なるらしい。
ちゃんと。投げろよ⁈打てないだろ!
ー?
だから、ちゃんと、投げてるだろ?
ーど真ん中。
球腫や速度を変えてる。
先輩や同じ学年のやつらは、違う場所にくる球を、
ー打つ気だから、打てない。
練習の意味なくね?
まるでコンピュータみたいに、ど真ん中に投げてたら、
ーもういい!素振りしてろ!
キャプテンに、イライラして、いわれて、素振りしている。
グランドのいちばん端っこで、かなり風が痛い冬の日。
地面もなんか湿っていて、
ー地面、土って、不思議だな?
うちの犬は、よく穴掘りをする。犬がすべて穴掘りが好きなわけじゃないだろけど、うちの犬はよく土をほる?
夏場は、土が冷めたいから、穴掘るけど、冬もほる。
やっぱり、暖かいから?って、散歩させていたら、山でうっかり冬眠中のカエルを起こす。
九州には熊がいない。熊の巣も廃坑やほら穴。木の穴、それぞれだけど。
カエルがわりと土にいる。
地面を10センチくらい掘ると、土の気温は、あまり変化しないらしい。
朝晩の冷え込みがないだけで、土自体は冷たいし、日中は気温が地中を上回るけど。たった10センチで、寒暖差がへる。
頭いいなあ?
で、わりと森や山にいるけど、渓流には、
ーナガレタゴカエルがいる。
日本の固有種で、中国地方から関東地方の山間部の渓流に生息してるらしいから、九州にいるヤツは違うんだろうけど、ウシ様をみたら、ついでに図鑑ででてきた。
たんに渓流でいきる蛙?いるんだ。って思った。
ヤマメ釣りなんかのテレビで、たまにみる渓流。わりと流れが早い。
田んぼや池なんかはイメージだけど、渓流に、蛙はあまりイメージがなかった。
というか、いまはブラックバスが渓流にいるのか。
ブラックバスがいる場所にカエルがいるイメージがあったけど、いまは渓流にもいるらしい。
ダムの放流もあるけど、生態系なんかより、楽しさを追求して放流はある、
そして、温暖化だ。渓流に生き残るやつもいる。
なかには、ナガレタゴガエルを、日本固有のカエルを、食ってるヤツもいるんだろうなあ。
若干の違いはあるけど、4〜6センチのカエルって、餌になりやすいイメージがある。
ナガレタゴカエルは、面白いし、かなり情熱的だ、
あまり目が見えないから、繁殖期に、雄が雌と間違えて、自分とサイズが同じくらいの魚や山椒魚に、抱きついてしまうらしい。
一度抱きつくと陸に上がっても、抱きついたままらしいから、かなり情熱的だ。
ー俺は嫌だな。ストーカー。
しかも繁殖には、身体が変化する。
ーぷよぷよ。
いやだよな?
ぷよぷよのストーカー。
いや、パズルゲームなら、かわいのか?
まあ、カエルにしてみると、美男美女?
背中は黄土色から褐色の色合いをしていて、おなかはそれより色が薄くなっていたし?
目元から前足にかけて黒いラインが入っていて、見た目はなかなかお洒落らしいし?
しかも渓流の水流に流されないように、後ろ足の水かきが発達してるらしいし?
他のカエルより上手に泳ぐことができるらしいし?
実物みてないから、よくわからないけど。
ーナガレタゴカエルって、不思議だけど、
九州には、いない。
大きな水かきを進化させて、敵のいない渓流で独自に進化した。
ーすごいな。
で、犬はわりと散歩中に、冬眠蛙をほりあてる。
俺は、カエルが嫌い。
地面なら、このかじかむ手も暖かいのかなあ。
寒いなあ。
なんか小雪まで、降ってきたぞ?
「寒いな?」
なんとなく口にした。
素振りをするベースを上げると、バットを握る素手が寒さにいたい。
他にまじめにやってるヤツもいないし、俺もサボろうかな?
地面ほろうかなあ?
それとも、逆に空の方?
ってバットを振りながら、視線を上に向けた瞬間、
ーなんだよ⁈
びっくりして、バットを落とし、シューズに落ちた。
びっくりして、
ー次の瞬間には、足の痛みに関係なく駆け出していた。
こんな寒空に、
凍える冬空に、
豆粒みたいな、
ー神城明日菜を見つけたんだ。
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