第40話 ハービンジャー・ストーム!

「モッチー。ちっちゃいレフ板、出しといてぇ」


 真希さんが、組み立てたスタンドにアンブレラを差し込みながら言う。

 レフ板……光を反射させる板だよね……と、カメラマンが持ってきた大きなバッグの中を漁ってみる。


「机に立てるやつねぇ。光を起こすやつ」


 言ってる意味がわからないんだけど、三十センチくらいの白い板はすぐに見つかった。

 板にはぐにゃぐにゃに曲がった太い針金が貼り付けられており、これがスタンド代わりになるのだろう。

 なんていうかカメラマンの小道具は、手作り感満載の物が多い。

 マユさんの話だとスケジュールの空いた日は、買うと高い小道具を自分たちで作ってしまうらしい。

 創意工夫が経費節約にもなり、一石二鳥なんだろう。

 そうこうしていると、外から他のカメラマン達が入ってきた。


「うーん、なんかなぁー」

「まぁ準備はしとくべ」


 まだ名前を覚えていない、残り二人の男性カメラマン。

 えっと……と、ほんの少しだけ戸惑っていると……


「吉岡さんと、和田さんだよ」


 真希さんが小声で教えてくれた。

 意外に視野が広い。


「あの……吉岡さん、和田さん、どうしたんですか?」


 私が声をかけてみると、二人が困ったように説明を始めた。


「いやー、十九時に来る予定だった客がさ、もう来たんだよ」

「えぇぇ、早くないですかぁ、吉岡さぁん」


 真希さん、ナイス。

 こっちの痩せてる人が吉岡さんね。


「いま、店長の佐原さんと話してるんだわ。なんか最上さんも困ってた風で……珍しいべな」


 こっちの、訛りがキツい人が和田さんか。

 吉岡さんは三十、和田さんは四十代だろう。

 二人ともベテラン感がすごい。

 ていうか、マユさんが困ってた?

 たしかに珍しい。


「あれぇ? じゃぁこのセット、バラす感じですか?」


 真希さんの質問に、吉岡さんが頭を掻いて頷く。


「まだ分かんねーけど、車の中で物撮りのセット作っておこうかって浅田さんが言うからなー」

「まぁ、しゃーないべ。吉岡くんと俺は先に車でセット作っとくから、真希ちゃんはここバラしといてくんね?」

「うげぇ、せっかく組んだのにぃ」

「まぁ、店長と最上さんのシーン撮影は、店内でするしかないかんな。真希ちゃんは最悪、車まで撮影商品持って行き来することになるわな」

「それは重ね重ね、うげぇ」


 べぇと舌を出しながら片付け始める真希さん。

 私もそれを手伝いながら、マユさんは大丈夫かなと心配になっていた。

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